深海魚をひろいに行こう!砂浜の怪物『ミズウオ』前編
2018.03.22
テレビや本の中ではなく自然界で深海魚を見つけるのはちょっと大変だ。
漁師さんをにおねがいして漁へつれて行ってもらったり、船をチャーターしてつりあげたり…。
なかなか気軽に一人でつかまえに行けるものじゃあない。
でも、寒い冬から春のはじめにかけてだけ、船も漁師さんもとくべつな道具もなしに出会える深海魚がいる。
しかもとびっきりカッコいいやつが!
それがこれだ。
そして大きな顔には青くあやしく光る眼。
大きく裂けた口にはたくさんのするどいキバ!
しかも大きなものだと150センチにもなる。
なにコレ!?
怪獣?
ふだんは水深数百メートルのくらい海を泳いでいる深海魚だ。
で、おもしろいことにこの魚はなんと海岸で「ひろえる」。
そう! ミズウオは深海魚なのに、冬になると砂浜にうちあげられてしまうんだ。
中にはビクビク動いているものやなみうちぎわでフラフラ泳いでいるものもいる。
これを探すのが……チョーたのしい!!
でも、なんでこんなことがおきるの?
<深海からふきあげられてくる?>
ミズウオがうちあげられるのは駿河湾(するがわん)のきしべ。
富士山のふもとだ。駿河湾は日本でいちばん深い海。
岸からちょっと沖へ出ると、そこはもう深さ数百メートルという深海。
ミズウオだけでなく、オオグソクムシやリュウグウノツカイなどいろいろな深海の生きものたちがくらしている不思議な海なんだ。
ではなぜ、そんなに深いところにくらしているミズウオがぼくらの足もとに?
その理由のひとつは『湧昇流(ゆうしょうりゅう)』にあるのではないか言われている。
湧昇流とは海の深いところから浅いところに向けてふきあげる水の流れのこと。
寒い冬によく発生する。
ミズウオはこれにまきこまれて深海から水面までふきあげられ、そのまま波にのって砂浜にうちあげられるというわけだ。
…でもなんでミズウオばっかり?
お肉が水っぽいから『ミズウオ』
きっとそれはミズウオの泳ぎがヘタだからだろう。
魚のくせに。ほかの深海魚たちは湧昇流にまきこまれてもそれに逆らって泳ぎ、もといた深海へもどれるからだろう。
でもミズウオはもどれない。実はあいつら、ああ見えて泳ぎがニガテっぽいんだよね……。
その理由はうちあげられたミズウオの体をナイフで切ってみるとすぐにわかる。
筋肉がゼリーみたいに透明ですごくブヨブヨ!! 魚というよりクラゲみたい。
ミズウオはその名のとおり体のほとんどが水でできているんだ。
そんな水っぽい筋肉じゃあ、流れに逆らって泳げないのも納得かな……。
きっと深海では潮の流れにのって、ただようように生活しているのだろう。
食べものの少ない深海では、そうした省エネな暮らし方が理にかなっているのかもしれない。
ためしに身を少し切りとって食べてみると、魚味のコンニャクという感じの味と歯ごたえ。
おせじにもおいしいとは言えない。
そしてそう思っているのは僕だけではない。
ミズウオを探すうえで一つのめじるしになるのがネコ。
波うちぎわでネコがなにかを見つめていたら、そこにはミズウオが落ちている可能性が高い。
ミズウオがおいしくないことをネコは知っているのだ。
このことから、駿河湾ではミズウオのことを『ネコマタギ(ネコが食べずにまたいで去ってしまうという意味)』とも呼ぶという。
ひどいあだ名だ……。
後編につづく。
ミズウオは深海でどんなものを食べている?
お楽しみに!