ダンゴムシみたいに丸くなる! 不思議でかわいいゴキブリ『ヒメマルゴキブリ』

<ゴキブリなのにカワイイ?>

みんなはゴキブリって……好き?

残念ながらきっと、好きだっていう人はすごく少ないよねー。むしろ大キライ!っていう人がほとんどかもしれないねー。
そういうぼく自身も、台所に出るクロゴキブリやワモンゴキブリは正直言うとちょっと苦手です。
だってなんか子どものころから「ゴキブリはきたない!さわるな!やっつけろ!」って家族や学校の先生に教えられてきたし…。なんかそういうふうに言われつづけてるとさあ。あの黒くてでっかい体も、すばやい動きも、バタバタ飛んじゃうところも、全部キモチ悪く見えちゃうんだよね。カブトムシも黒くてでっかいし、オサムシも走るの速いし、セミやトンボだって飛ぶのにね。
まあたしかに、ぼくらの家におじゃましてくるゴキブリたちはちょっとばかしフケツかもしれない。けれど世の中には野山に暮らす『きたなくないゴキブリ』だってたくさんいる。いや、実はむしろそういうゴキブリの方がずっと多いんだ。そしてその中にはキレイなものやカッコいいもの、そして超カワイイやつらだっている。
そういうゴキブリたちなら、みんなも好きになれるんじゃないかな。たとえば沖縄にいるこの『ヒメマルゴキブリ』なんかどうだろう。すっごくカワイイしおもしろいよ?
(左上)そのかわいいゴキブリは南西諸島の森にいる。
(右上)これ、ダンゴムシじゃなくてゴキブリなんだぜ……。
(左下)夜行性で、暗くなると木の幹を歩いている。昼間は木の皮の下やウロにもぐりこんで寝ているようだ。
(右下)彼らは雑食性で落ち葉やコケ、果物などいろいろなものを食べる。こうしてキノコに集まっていることも。

…これ、ゴキブリなのよ。脚や触角はみじかいし、翅はないし、体は丸くてカチカチに硬い。大きさは指先にちょこんと乗っかるくらい。その上動きも速くなくて、カサカサ走るというよりチョコチョコチョコッ!といそぎ足で歩く感じ。
カワイイ!ゴキブリというよりまるでダンゴムシみたいでしょ?
……そう。本当にダンゴムシそっくりなんだなぁコレが。なんていったってこいつら身の危険を感じると丸くなるし。

<まるまって身をまもれ!!>
ためしに一匹捕まえてみよう。動きはのろいので指で簡単につまむことができるぞ。すると手の中でもぞもぞと……?
(左)人間の手に捕まったヒメマルゴキブリ。これはピンチだ!
(真ん中)おや?背中をグイッと曲げて……
(右)まん丸になっちゃった!

クルンと、コロンと、一瞬でまんまるに変身!まさにダンゴムシ!!
これで細い脚や小さな頭はかたい背中にまもられる。ゴキブリらしい逃げ足のはやさを捨ててガードに徹するスタイルだ。これならハエトリグモや小さなヤモリでは歯が立たないだろう。
▲もう完全にダンゴムシだ!やたら黒光りしてるけど!

<ダンゴムシっぽいのはメスだけ>
こんな不思議でかわいいヒメマルゴキブリだが、実を言うとダンゴムシ似なのはメスだけ。オスはというと平べったいし翅もはえているし、いわゆるフツーのゴキブリっぽい姿をしている。とても同じ虫とは思えないほど似ていない。となると当然、オスは丸くなることもできない。メスにくらべてガードが甘いのだ。ただしそのかわりに飛んだり走ったりと身軽に動くことができる。
(左)ヒメマルゴキブリのオス。メスとは「別の昆虫でしょ!?」ってくらい似てない。(撮影協力 : 石垣島バンナ公園 世界の昆虫館)
(右)幼虫のあいだはメスもオスも同じダンゴムシ型。生まれたばかりのころはお母さんゴキブリが子守をするぞ。

ヒメマルゴキブリのメスにはもうひとつおもしろい秘密があって、卵をおなかの中でふ化させて赤ちゃんゴキブリを産む(こうした出産スタイルを『卵胎生(らんたいせい)』という)。
お母さんゴキブリは自分の身を守ることがおなかの中の卵を守ることになるからこそ、あんな最強ガードをあみだしたのかもしれない。
でもオスもメスものんびりしすぎてるとさ、おたがい出会えないじゃん?だからオスはメスの分までせかせか走って飛んで、広い森のあちこちへプロポーズしに行ける身軽なゴキブリらしい体つきのままなのかもしれないね。