驚くほど神秘的! 夏の夜はセミの羽化を観察しよう!

[ちょっとマニアな季節の生きもの]昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

昆虫研究家:伊藤 弥寿彦

セミの羽化工程、みたことありますか?

暑い日が続いていますね。夏の虫の代表選手といえばなんといってもセミ。私の住んでいる東京のマンションでは毎日のように、夜になると明かりに飛んできたアブラゼミやミンミンゼミが廊下に転がっています。死んでいるのかと思って手に取ると、突然「ジジジジジーッ」と大声で鳴いて暴れることがある。これ、「セミ爆弾」っていうらしいですね(笑)。
クマゼミの羽化
夏の夜、セミの羽化を観察したことはありますか? 何年間も土の中で過ごした幼虫が地上に出てきて殻を脱ぎ、成虫に変身する羽化の様子は本当に神秘的です。茶色いはねのアブラゼミが羽化直後は、真っ白なのを見て驚かない人はいないでしょう。都会でもその気にさえなれば公園などで割と簡単に見られますからぜひ、実物を観察してほしいものです。
アブラゼミの羽化①
アブラゼミの羽化②(2023年7月26 日東京都品川区)
アブラゼミの羽化③ はねが色づいてきた。
アブラゼミの成虫

クマゼミは東京では珍しい!?

東京では最近、クマゼミの声が聞かれるようになりました。クマゼミは西日本に多いセミで、昔は東京にはいませんでした。それが年々増えています。おそらく植木の根についた幼虫が関西方面などから東京に運ばれて来て、それが居ついてしまったのだと考えられています。

品川区にある私の家でも10年くらい前から朝方クマゼミの声が響いています。声が大きいので、たくさんいるように思えますが、東京ではまだまだアブラゼミのほうが圧倒的に多くて、クマゼミは声は聞けども姿を間近で見ることはそう簡単ではありません。
クマゼミ
東京ではなかなか観察できないクマゼミの羽化を見たくて、静岡県の沼津まで行って来ました。静岡までくると、アブラゼミとクマゼミの数の多さが逆転します。ねらいを付けた沼津市の公園は、予想どおり、辺り一面シャンシャンシャンシャンとクマゼミの大合唱。

低いところにも留まっていて網で簡単に捕まえられました。東京で見慣れたアブラゼミやミンミンゼミより一回り大きくて立派です。オスとメスを捕まえてひっくり返して腹側を比較してみました。オスには鳴くためのオレンジ色の大きな「複弁」があって、これをふるわせてメスを呼びます。メスには複弁がないのでオスとメスは一目で区別できますね。
クマゼミのオスとメスの比較 左:オス、右:メス
羽化が始まるのは日没後。日暮れと共に地面から出てきた幼虫が木に登って気に入った場所に落ちついて羽化を始めるには数時間はかかるだろうと考えて、午後8時すぎに昼間の公園を訪れました。

午後9時過ぎ羽化が始まったクマゼミを発見。殻を破ってからはねが伸びるまで1時間半。写真はその時間経過の様子です。9時55分、殻から全身が抜けるとあとはあっという間で、9分後の10時4分には、はねが伸びきりました。
羽化する場所を探すクマゼミの幼虫
午後9時9分 背中が割れた!
午後9時36分
午後9時52分
午後9時56分
午後10時4分
午後10時14分
驚いたのは、はねが伸びたあとの数分間「翅脈(しみゃく)」の先端部が青く輝いて見えたことでした!「翅脈」というのは、はねについている筋で、傘のホネのようなもの。

羽化の時、翅脈に体液を送り込んで、縮れているはねを伸ばします。はねの根元のほうの翅脈は、うす緑色に見えますが、この緑色は体がすっかり固まった成虫にも残っています(でも死んだあと標本にすると、このきれいな緑色はつまらない茶色に変わってしまいます)。

昼間、活動している成虫の「翅脈」の先端部は黒です。それが羽化直後の数分間、青く見えたのは予想もしなかったことで感激しました。やはり自然の中で生きた実物を見ることは大切だと思いました。
午後10時23分(翅脈の先端が青く見えたのは、羽化直後の短い間だった)
写真提供/伊藤弥寿彦
いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。