「クビアカツヤカミキリ」は黒光りする体に真っ赤な胸の“カッコいい嫌われ者”

【ちょっとマニアな夏の生きもの】昆虫研究家・伊藤 弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

これ、なーんだ?

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2021年7月下旬、話題になっているカミキリムシを捕りにいきました。向かったのは、群馬県の館林市と板倉町。樹齢70年ほどの大きなサクラ(ソメイヨシノ)の木にその虫はいるといいます。

現場についてものの5分。立ち並ぶソメイヨシノの幹を見ていたら……いました! 体長3.5センチ、オスは伸ばした触角まで含めると10センチもある巨大なカミキリです。黒光りする体に真っ赤な胸が特徴で、クビアカツヤカミキリ(又はクロジャコウカミキリ)と呼ばれています。捕まえると体からプシュッとジャコウのような甘い香りのする白い液体を放ちます。めちゃくちゃカッコいい!(笑)
撮影/伊藤 弥寿彦
このカミキリは、元々日本にいる昆虫ではありません。恐らく中国から人の手によって持ち込まれた「外来種」で、今から10年ほど前に初めて埼玉県と愛知県で発見されました。

生きたサクラ、ウメ、モモなどの木に卵を産み、幼虫が木の中に入り込んで食い荒らすので、とりつかれた木はやがて弱って枯れてしまいます。日本人はサクラが大好きですから「このままでは日本中のサクラが枯れて春のお花見ができなくなる!」と大きな問題となり、さらにモモやウメの農家にとっても脅威なので、2018年に環境省の「特定指定外来種」に指定されました。
撮影/伊藤 弥寿彦
「特定指定外来種」は、見つけたらすぐに駆除(殺虫)しなくてはなりません。生きたまま他の場所に持っていくことは法律違反になります。

現在、このカミキリが見つかっているのは、関東では群馬、栃木、埼玉、東京(あきる野市と福生市)。西日本では、愛知、奈良、三重、和歌山、愛知、大阪、徳島で記録されています。今回、数時間で20匹ほど捕獲しましたが、まだまだいくらでもいそうでした。

行政でも一生懸命駆除しようとしていますが、採集だけで根絶させるのは不可能でしょう。今のところは、加害された木を切り倒して焼くしかなさそうですが、それには相当なお金が必要です。

外来種の問題というは、いろいろなことを考えさせられます。私たちのまわりで見かける動植物は、実は外来種だらけ。みなさんの身近にいる何が外来種で、そこにはどんな問題があるのか? それともないのか? を一度考えてみてください。
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いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。