女優・杏「ベルばら」「ブッダ」…子ども時代の読書と子育て 映画『窓ぎわのトットちゃん』はママ役で出演
映画『窓ぎわのトットちゃん』出演 女優・杏さんスペシャルインタビューvol.2
2023.12.08
ライター:小川 聖子
トットちゃんこと黒柳徹子さんとも長年交流のある杏さんに、作品の魅力や子育てについてを伺ったインタビューvol.1に続き、vol.2ではフランスでの暮らしや読書の楽しみ、『Ane♡ひめ.net』読者におすすめの絵本について聞いています。
YouTubeチャンネルへの挑戦で大きな気づきを得られました
杏さん:徹子さんは本当にたくさんの方に影響を与えている方だと思います。日本でテレビが放送された当初から出演しているというのもすごいですよね。まったく得体の知れないもの、新しい世界に飛び込むことは、当時も今も簡単なことではないと思います。
私自身が「飛び込んだ」と言えるのは……これはもう、さきがけでもなんでもありませんが、「YouTube」の世界ですね。私は今、『杏/anne TOKYO』というチャンネルをやっているのですが、最初に話が持ち上がったときは、YouTubeをあまり知らなかったものですから、「どうしようかな、やらないほうがいいかな」と散々迷いました。
でも、「とりあえずやってみよう!」と思いきってスタートしてみたら、思った以上にたくさんの方が受け入れてくださって、今は「やってよかったな」と心から思っています。テレビを始めたときの徹子さんと比べられるようなものではありませんが、それでも面白いことができているな、という手応えはすごく感じているんです。
パリで戸田恵子さんと路上ライブをしました
杏さん:さすがに編集までは自分でできないのでお願いしていますが、「こんなことをやりたい」「こんな場所で撮りたい」と、自分で考えたり、さらにそれをどんどん進めて実現していく楽しさというのは改めて感じています。
私が直接交渉に行って、それで意外とすんなり許可を頂けて……という経験をしたときは、驚きや嬉しさを感じましたし、「やっぱり本人が行くと熱意が伝わりやすいのかな」なんて気づきを得られたことも。自分で動いて、それで面白い結果が生まれる……そんな楽しい循環に気がつけたことは私にとっても大きなプラスになっています。
フランスでの暮らしは、もちろん慣れないことへ戸惑いはゼロではありませんし、日々失敗と努力の積み重ねではあるのですが、私も子どもたちも、今は頑張りどきだと思うのでしっかりやっていきたいと思っています。
フランスの子育て 日本との大きな違いはお休みが多いこと
杏さん:一つの国の中に、「いろいろな国の方がいる」というのは、まず大きな違いだと思います。私が当たり前と思っていることも、別の国の方にとっては全然当たり前ではないですし、ときには「え?」と思うようなことが、相手にとっての常識であったりします。それを踏まえて、自分はどう感じるのか、受け入れるのか受け入れないのか……物事を考える機会はものすごく増えたなと感じています。
子育てや教育に関しては、「お休みが多い」(笑)! 「どうやって辻褄を合わせるんだろう?」と思うこともありますが、子どもたちの授業がお休みになることも多いですし、大人も休日が多いんです。ヨーロッパの方たちは「休むために働いている」という意識が強く、「それが当たり前」という価値観が広く浸透しているんです。
お休みが多いのは、個人の時間を持つことが大切にされているから。お迎えをシッターさんに頼んで、親が外出を楽しむということも当たり前に受け入れられています。
日本でも最近は、保護者ひとりだけに育児の負担がかからないようにと、さまざまな改革がされていますが、制度とともにそんな価値観が共有されると、もっといろいろなことが進みやすくなるんじゃないかなと思います。コロナ禍は大変でしたが、多くの人が暮らしや働き方について考え直すきっかけになったことは、きっと良かったことですよね。
杏さん:そうですね。フランスでは、体調を崩すと「休んでいないからだよ」なんて言われたり、それで有給休暇を消化していなかったりすると、保険が下りない、なんてことまであるそうなんです。休むことは権利でもあるけれど、同時に義務のような部分もあり、体調管理を含めての仕事という捉え方なのです。「好きなことをしたり、遊びを楽しむことも人生には必要だ」とみんなが思っているのは、すごく素敵なことだなと思います。
──杏さんも、お休みを取りながら楽しまれていますか。
杏さん:私はつい欲張って予定を詰めてしまうタイプなので、「休むのも仕事!」と自分に言い聞かせるようにしています(笑)。ただ、詰め込んでいる予定は全部、やりたいことや楽しいことばかりなので、充実はしていると思います。
親がマンガ好きで自然に本に親しみました
杏さん:私の読書のスタートは、親がマンガを大好きだったことから始まっていると思います。家には『黄昏流星群』(弘兼憲史著)のような青年マンガから、『ベルサイユのばら』(池田理代子著)などの少女マンガ、萩尾望都さん、竹宮惠子さんの作品がたくさん並んでいました。ふたつ上に兄がいたので、兄のマンガも読んでいましたね。
さらに、『陽だまりの樹』や『ブッダ』など、手塚治虫作品も多くて……私は小さいころ、動物が大好きだったので、イルカと冒険する『海のトリトン』や、3匹のスーパー犬が活躍する『フライングベン』なども夢中になって読みました。
──手の届く場所にあったおかげで、自然に触れられたのですね。
杏さん:そうですね。手塚作品は学校の図書室にもありましたので、そこでも読みました。さらに小学校のころは、漢字テストのような、学校の小テストで2回100点を取れたら、好きな本を1冊買ってもらえるという家庭のルールがあったんです(笑)。それで頑張って、よく本やマンガを買ってもらっていました。マンガ以外だと岩波少年文庫の『ハイジ』や、『エルマーとりゅう』シリーズ、『かいけつゾロリ』シリーズなどはよく覚えていますね。7~8割はマンガだったと思いますが(笑)。
──それで今もお子さんたちのために、家にたくさん本を置かれているのですか。
杏さん:それはただ自分が好きなだけです(笑)。熱心に読み聞かせをしているということもなく、「何歳までに1万冊の本を……」なんてことも全然意識していなくて。
ただ、子どもたちもフランスに来て、まだそこまで言葉が自在に使えるわけではないので……「日本語の本なら読める」という点では、読書はホッとする時間でもあるのかもしれません。朝起きたときや、夜寝る前……それぞれ好きなときに本を楽しんでいます。
本は、自分では行けない場所にもすぐに連れていってくれますし、経験できないことも経験したかのように感じさせてくれます。そんなことを子どもたちも感じてくれたら嬉しいですね。
〈杏さんがおすすめ! 思い出の本〉
まだらめ三保・作/国井節・絵(ポプラ社)
杏さん:湖に浮かぶ小さな島の小学校に通うお姫さまのお話なのですが、その中に、湖を渡る船がないから、湖をみかんゼリーの素みたいなもので固めちゃう……みたいなところがあるんです。お姫さまはその上を歩いていくのですが、そのお話がすごくかわいくてワクワクして。親御さんもきっと子ども時代のワクワクを感じていただけるはず。大好きな一冊です。
池田あきこ・作/佐藤かずよ・料理(ほるぽ出版)
杏さん:猫のダヤンのお料理ブックなのですが、この本、とってもおしゃれなんです。実際にご飯やお菓子が作れますし、図まで載っていたりするので、親子で見るのも楽しいかなって。持っているだけでかわいい本なので、お出かけのときに持っていって読んでほしいくらいです(笑)。
PROFILE
杏(あん)
2005年以降パリ・コレクションなどの国際的なファッションショーで活躍し、2006年ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。2007年に女優デビューし、『名前をなくした女神』(2011年)で連続ドラマに初主演する。NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』(2013年)でヒロイン役を務め、近年では映画『キングダム 運命の炎』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』に出演。2022年には国連WFP親善大使に就任するなど、女優業を中心にナレーターや声優など多彩な活躍を続けている。