東大ワクチン専門家が教える「はたらく細胞」図鑑シリーズの活用法

『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』監修の免疫学者に感染症とワクチンのお話を聞いた vol.1

編集者・文筆家:高木 香織

写真:アフロ
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子どもたちの感染が目立つ中、いよいよ2022年3月1日から、全国で新型コロナウイルスの5歳から11歳向けの接種が始まりました。「ようやくワクチンを接種してもらえる」という安心感と「子どもへの影響は?」という不安感の間で揺れるパパやママも多いといいます。

そんなぴったりのタイミングで『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』(講談社)が2月28日刊行。そこで、この本の監修者でもある東京大学医科学研究所 感染・免疫部門ワクチン科学分野の石井健教授に「新型コロナワクチンって、子どもにどうなの?」を伺ってきました!

免疫学の本質である「自分と自分でないもの」を的確に表現

――『はたらく細胞』は、シリーズ累計930万部突破(電子版、関連書籍等含む)を突破した大人気マンガで、アニメにもなって注目を集めました。関連のスピンオフ本も多数発行され、累計45万部の「はたらく細胞 図鑑シリーズ」の新刊『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』が刊行されました。まず最初に『はたらく細胞』をご覧になった時にどう思われましたか?

石井先生:『はたらく細胞』との最初の出合いは、息子が9歳くらいのときです。子どもに買ってあげたのに、親の私のほうが夢中になってしまって。免疫学の本はたくさんあるのですが、ここまで免疫学の本質に迫る本はなく、すっかり感激してしまいました。その後、免疫学の偉い先生方にも「騙されたと思って読んでください」と言っておすすめしているのですが、みなさん「面白い」とおっしゃってくださいますね。

――どこがそれほどよいのでしょうか。

石井先生免疫学の本質とは、「自分と自分でないもの(自己と非自己)」を体はどうやって見分けているのだろう、ということを哲学のように突き詰める学問なんです。それをきちんととらえています。

そのうえで免疫細胞をキャラクター化して、敵と味方に分けて、ときには闘い、ときには共生し合いながら、キャラクター同士の会話で分かりやすく子どもに教えてくれています。これは素晴らしいと思います。

たとえば、「怖がり屋のナイーブT細胞」は、やがて活性化して筋肉ムキムキのT細胞に成長しますが、そのキャラクター設定はほんとに学者が涙するほど正しいんですね。樹状細胞のようなちょっと言葉では伝えにくいような細胞も、なるほどと思わせるようなストーリーになっています。ただ、コミックスはバトルシーンが多いので、小学校低学年や未就学の子どもには、アニメをおすすめしています。

――『はたらく細胞 ウイルス&おくすり図鑑』のなかで、親子でぜひ読んでほしいのはどのあたりでしょうか?

石井先生:新型コロナでいえば、「新型コロナウイルス感染症ってどんな病気?」というページで、新型コロナを分かりやすく説明するとともに、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの違いを表や図解を入れて説明しています。ここなどはいいポイントですよね。

「この間打ったワクチンは、どんなものだったのかな」と、生活に密着した情報として読むといいのではないでしょうか。体験を踏まえて話しながら読める、そんな図鑑はめずらしいですよね。

大きくなって思い出すことこそ最高の英才教育

――3月から本格的に全国で5歳から11歳のコロナのワクチン接種が始まりました。「ようやく受けられる」という思いを持たれる方がいる一方で、接種させるべきか迷っている方も少なくないようです。

石井先生「ほんとうに子どもにワクチンを打たせた方がいいのか」というのは、親御さんにとっては悩ましいところですよね。ただ、私はワクチンを打たないのは、シートベルトをしないのと一緒だと思うんです。シートベルトをしないで一生事故に遭わない人もいるかもしれない。しかし、シートベルトをしなかったことを後悔するのは、事故に遭ったときです。

すべての予防接種にいえることですが、もしワクチンを接種せずに、その後「感染してしまったときに何ごともなくすむ」という保証はないのです。子どもが病気になったときに、「あのときワクチンを打っておけばよかった」と思うのは、後悔先に立たずの際たるものです。

――インフルエンザの場合でも、ワクチンを打っているのにかかるときがあります。ただ、「接種していたから軽くすんだ」といいますね。それはコロナワクチンでもあることでしょうか。

石井先生:はい、臨床の情報では、軽くすんだケースがたくさん報告されています。今回のコロナワクチンでも、9割くらいの有効率があるというエビデンス(科学的根拠)がありますから、ワクチンを打つと、もしコロナにかかっても何か症状が起きたり、ひどくなることは避けられると思います。

――小さな子どもたち向けには、『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ウイルス&おくすり図鑑』のほかに、『からだのしくみを学べる! はたらく細胞 人体のふしぎ図鑑』『感染症を正しく学べる! はたらく細胞 ウイルス&細菌図鑑』『めくって学べる! はたらく細胞 からだのしくみ』も刊行されています。

石井先生図鑑ですから、時間があったら繰り返し親と子どもが一緒に読むといいですね。子どものころに読んだ本は目に焼き付いているものですから、大きくなったときに「ああ、これは『はたらく細胞』の図鑑にあったな」と思い出してくれたら、こんなにすばらしい英才教育はないと思います。
「びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑」1540円(税込み)/講談社
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いしい けん

石井 健

Ken Ishii
医学博士・東京大学医科学研究所教授

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野教授、同研究所・国際ワクチンデザインセンター・センター長。横浜市立大学医学部卒業。臨床経験を経て米国FDA・CBERにて7年間ワクチンの基礎研究、臨床試験審査を務める。帰国後、JST・ERATO審良自然免疫プロジェクトのグループリーダー、大阪大学・微生物病研究所・准教授、医薬基盤健康栄養研究所アジュバント開発プロジェクトリーダー、ワクチンアジュバント研究センター長を経て、平成22年より現在まで大阪大学・免疫学フロンテイア研究センター教授。また、日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部長、科学技術顧問を歴任。

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野教授、同研究所・国際ワクチンデザインセンター・センター長。横浜市立大学医学部卒業。臨床経験を経て米国FDA・CBERにて7年間ワクチンの基礎研究、臨床試験審査を務める。帰国後、JST・ERATO審良自然免疫プロジェクトのグループリーダー、大阪大学・微生物病研究所・准教授、医薬基盤健康栄養研究所アジュバント開発プロジェクトリーダー、ワクチンアジュバント研究センター長を経て、平成22年より現在まで大阪大学・免疫学フロンテイア研究センター教授。また、日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部長、科学技術顧問を歴任。

たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。