親が「がん」に 子どもにとって“突然死“にしない 告知のタイミング

ホープツリー代表理事・大沢かおりさんに聞いた、がんになった親が子どものためにできること#2 子どもへの伝え方~大切なこと編~

NPO法人ホープツリー代表理事:大沢 かおり

低年齢の子どもでも、家族の中の些細な変化を敏感にキャッチします。「自分のせいで悪いことが起きている」と、子どもが自身を責めないためにも、親ががんであることを正直に伝えたほうがいいと、大沢さんは言います。  イメージ写真:アフロ

NPO法人ホープツリー代表理事として、がんになった親とその子ども、家族を支援している大沢かおり(おおさわ・かおり)さん。

前回は、がんと診断された後の受け止め方、必要な手続きなどについてお話を聞きました。

今回は、がんになった親の大きな心配事のひとつ、子どもへの伝え方について。そもそも、「がんになった」と子どもに伝える必要はあるのでしょうか。

引き続き、大沢かおりさんにうかがいます。

※2回目/全4回(#1を読む

大沢かおりPROFILE
医療ソーシャルワーカー。1991年より東京共済病院(東京・目黒区)に勤務し、2007年、院内のがん相談支援センター専任のソーシャルワーカーに。2008年、がんになった親とその子ども、家族をサポートするNPO法人ホープツリーを設立。子どものサポートプログラム「CLIMB®」を実施するほか、ホームページ上での情報提供や研修会を行うなど、さまざまな支援活動を続けている。

東京共済病院10階にある乳がん相談支援センターにて、患者さんや家族の相談にのるのが大沢さんの仕事。言葉のひとつひとつから、明るくあたたかな人柄が感じられます。  撮影:星野早百合

子どもは家族の些細な変化に気づいている

──前回、がんと診断されたら、患者本人がその宣告を受け止められるまで、一般的に2週間ほどかかるとうかがいました。大人でもこれほどショックなのですから、親ががんだと知ったら、子どもは相当なショックを受けると思います。そもそも、子どもに伝える必要はあるのでしょうか。

大沢かおりさん(以下、大沢さん) 私は、なるべくなら正直に、がんである事実を伝えたほうがいいと思います。それは、お子さんのためでもあるし、患者の親御さん本人のためでもあります。

子どもは家族の変化にとても敏感で、何となく嫌なことが家族に起きているのを感じています。でも、親が隠していると、「聞いちゃいけないことなんだ」と考えて、親のためを思って気づかないふりをするのです。

また、大人は想像もしないことですが、子どもは「自分のせいで悪いことが起きているのではないか」と思うこともあります。がんが原因なのに、「ママの機嫌が悪いのは僕が悪い子だから」と自分を責めてしまうなんて、あまりにもかわいそうですよね。

患者さんにとってもいいことはなく、がんを隠していると、少しずつ辻褄(つじつま)が合わないことが出てきます。本当は体調が悪いのに「大丈夫だよ」と明るく振る舞えば、お子さんの不安はつのるでしょう。隠しごとや触れたくないことがあると、親子間でコミュニケーションを取るのが難しくなってしまうのです。

子どもにとって“突然死”にしてはいけない

──子どもには、どのタイミングで伝えるのがいいでしょうか。

大沢さん 治療が始まる前など、できれば早いうちがいいのですが、患者さんには「遅すぎることはないよ」と伝えるようにしています。

早いほうがいいのには理由があって、親からがんだと告げられた多くの子どもは「家族の一員として認められたみたいでうれしい」と言います。家族の中に隠しごとがなく、みんなで治療に臨めば、患者さんも心強いですよね。

そうして、治療の最初から寄り添って、良くなって、悪くなって、薬が効いて、効かなくなって……と、がんの治療という長い旅をずっとそばで見ていたら、たとえ最悪の結果になってしまったとしても、子どもも「がんばってたよね」と、悲しいながらも受け止めやすくなります。

反対に、治療の経過が芳しくなく、死が近づいてから子どもに伝えるのは、患者さんにとって非常にハードルが高いです。お子さんのほうも、突然「あと数日……」と言われたら、相当なショックを受けるはずです。

死が近づいてから親のがんを知った子どもたちは、「もっと優しくしてあげればよかった」「もっとお手伝いをすればよかった」「なんであんなひどいことを言ってしまったのだろう」と、自分を責めてしまいがちです。「がんと知っていたら、もっと違う時間の過ごし方をしていたのに」とも。

患者さん自身、心に余裕がなければ急ぐことはありませんが、落ち着きを取り戻したら、なるべく早くお子さんに伝えていただきたいと思います。

──子どもの心を守るためでもあるのですね。

大沢さん 講演会などでお話しするとき、「ほかのことは忘れてもいいから、このふたつのメッセージだけは持ち帰ってほしい」とお伝えしていることがあります。

ひとつは、きょうだいがいるなら全員に伝えること。

子どものころに親御さんをがんで亡くしていて、「いちばん下の自分だけが知らされていなかった。しばらく経ってから、がんだったと聞かされた」と、大人になっても大きな傷を抱えたままの方が多くいらっしゃいます。

きょうだいがいる場合、いちばん下の子の理解力に合わせて、最初は全員一緒に伝えることをおすすめします。話し終わった後、上の子には足りなかった情報を、上の子の理解力に合わせた言葉でフォローするのがよいと思います。

「伝えてもまだわからないから」と、下の子にだけ黙っていると、「下の子には隠さなければいけないんだ」と、上の子に余計な負担を負わせることに。家族の隠しごとも増えてしまうのです。

もうひとつは、子どもにとって“突然死”にしないこと。

がんは、災害や事故、事件と違って、前もって死が近づいていることがわかるものです。何も聞かされていないまま親が亡くなってしまうと、それは突然死と同じ。大きなトラウマになってしまいます。

周りの大人ができることは、子どもにとって親が突然死にならないように、きちんと伝えることではないでしょうか。

「がん」という病名をはっきり伝える

──子どもに伝えるとき、どのようなポイントがありますか。

大沢さん 子どもといっても、赤ちゃんから思春期まで、年代によって理解力に大きな差があります。年齢別のポイントは第3回でお伝えしますが、はじめに伝えるときに押さえたい3つのポイントをご紹介します。

①「“がん”という病気であること」②「うつる病気ではないこと」③「子どものせいで引き起こされたものではないこと」です。

①「“がん”という病気であること」
はっきりと“がん”という病名を伝えることが重要です。ただ単に“病気”と説明すると、“病気=がん”と思ってしまい、低年齢の子どもは、病気すべてを怖がるようになるケースも。

あいまいな説明ではなく、事実を知ったほうが子どもは安心します。治療の内容や副作用、治療期間についても説明するとよいでしょう。

②「うつる病気ではないこと」
風邪と違ってうつらないとわかれば、子どもは安心できます。一緒に食事をしたり、お風呂に入ったり、手をつなぐこともできるのだと伝えましょう。

③「子どものせいで引き起こされたものではないこと」
先にも述べたとおり、子どもの想像力は本当に豊かで、起きたことを自分と結び付けて理解しがちです。「自分のせいで、がんになったのではないか」と罪悪感を持つこともあるので、そうではないこと、誰のせいでもないことをきちんと伝えます。

そして、重要なのは、患者さん自身がお子さんにとって“いちばん最初の相談相手”になってほしいということです。例えば同じ乳がんでも、人によって症状も経過も治療内容も違います。

自分のがんについて、いちばん詳しいのは主治医を除けば患者さん自身。親戚や近所の人など周囲の大人に聞くのではなく、インターネットで検索するのでもなく、「聞きたいことがあったら、私に聞いてね」と伝えてあげてください。

そして、「何か変化があったら、ちゃんと言うね」と約束すれば、お子さんはより安心できるはずです。

─・─・─・─

第3回は、子どもにがんを伝えるときの年代別のポイントと、がんになった親がしがちな注意したい行動についてうかがいます。

取材・文/星野早百合


取材協力
●NPO法人ホープツリー
がんになった親とその子ども、家族を支援するため、医療ソーシャルワーカーや臨床心理士、チャイルドライフスペシャリスト、医師、看護師などが集まり、2008年に設立(2015年にNPO法人化)。2010年より、日本で初めてがんになった親を持つ子どものサポートグループ「CLIMB®」を運営。2022年、公益財団法人日本対がん協会より「日本対がん協会賞」(団体の部)受賞。

【関連サイト】
NPO法人Hope Tree HP 
NPO法人Hope Tree Facebook

大沢さんの著書『がんになった親が子どもにしてあげられること』(ポプラ社)。子育て中のがん患者へ、専門家である大沢さんがわかりやすく、あたたかい言葉でアドバイスを送る一冊です。
おおさわ かおり

大沢 かおり

Kaori Osawa
ホープツリー代表理事

医療ソーシャルワーカー、NPO法人ホープツリー代表理事。上智大学文学部社会福祉学科を卒業後、1991年より東京共済病院(東京・目黒区)に勤務。2007年、院内のがん相談支援センター専任のソーシャルワーカーに。 2008年、がんになった親とその子ども、家族をサポートするNPO法人ホープツリーを設立。国内で初めて、がんになった親を持つ子どもをサポートする「CLIMB®プログラム」を実施するほか、ホームページ上での情報提供や研修会を行うなど、支援活動を続けている。 過去に自らも乳がんを患い、最愛の夫を自死で亡くし、その経験が現在の仕事に生きている。 著書に『がんになった親が子どもにしてあげられること』(ポプラ社)。 NPO法人Hope Tree HP  NPO法人Hope Tree Facebook

医療ソーシャルワーカー、NPO法人ホープツリー代表理事。上智大学文学部社会福祉学科を卒業後、1991年より東京共済病院(東京・目黒区)に勤務。2007年、院内のがん相談支援センター専任のソーシャルワーカーに。 2008年、がんになった親とその子ども、家族をサポートするNPO法人ホープツリーを設立。国内で初めて、がんになった親を持つ子どもをサポートする「CLIMB®プログラム」を実施するほか、ホームページ上での情報提供や研修会を行うなど、支援活動を続けている。 過去に自らも乳がんを患い、最愛の夫を自死で亡くし、その経験が現在の仕事に生きている。 著書に『がんになった親が子どもにしてあげられること』(ポプラ社)。 NPO法人Hope Tree HP  NPO法人Hope Tree Facebook

ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。