「動物の義足やさん」が約3万匹の犬・猫・うさぎ・鳥たちを救った! 「動物専門の義肢装具士」の感動秘話 

たった一人で始めた動物の装具作りが一生の仕事に 島田旭緒さん

作家:沢田 俊子

張り切って会社を立ち上げたものの、注文は2件

どうしても動物の装具士になりたかった島田さんは、澤獣医師に認められたのをチャンスとばかり、2007年、きっぱり会社を辞めました。26歳のときでした。

このとき、澤獣医師は反対しました。

まだ世間的に知られていない動物用の装具を作る仕事だけで生活していくのは、経済的にとても無理だと考えたからです。

反対されたにもかかわらず、情熱に燃えていた島田さんは、覚悟を決めて、母方の祖父が経営していた元工場の一室を借りて、動物のための装具の製作所を設立しました。

「東洋装具医療器具製作所」の第一歩です。

会社名に、「義肢」という語句を入れなかったのは、このころは、世間的に動物に義肢(義足)が必要だとは思われていなかっただけではなく、島田さん自身も義肢を作れるとは、思っていなかったからです。

張り切って会社を立ち上げたものの、数ヵ月の間に2件しか注文がありませんでした。

澤獣医師が心配していた通りです。

貯金はどんどん減っていきます。

(どうしよう……)

島田さんは追いつめられました。

作った装具は3万点以上

苦境に立たされた島田さんに手をさしのべてくれたのは、澤獣医師でした。

知り合いの動物病院に島田さんを紹介してくれたのです。

それをきっかけに、動物にも義肢装具が必要だと認めてくれる獣医師が少しずつ増えていきました。 

使用例が増えるにつれ、島田さんの製作したコルセットや義肢は、獣医師はもちろん、飼い主の間でも評判になっていきました。

こうして日本でただ一人の動物専門の義肢装具士として活動を続けてきた島田さんが、今までに作った義肢や補助装具の数は3万点を超えました。

ペットの犬やねこが主ですが、ポニーやペンギン、うさぎやたぬきなどの装具を作ることもあります。
跳ねることができるように助ける装具
骨折したあごを守る装具
島田さんに、休日はほとんどありません。

2024年4月現在、獣医学科のある12の大学と連携し、1500を超える動物病院から依頼を受け、月の半分以上は、日本全国を走り回っています。

島田さんのエネルギー源は、どうすればよりよい義肢や補助具が作れるか考えることです。

また、亡くなった犬の飼い主さんから、

「おかげで、犬もわたしも、最期まで楽しくすごすことができました。」

とよろこんでもらったことも、はげみになっています。

感謝の手紙が、全国からたくさん届いています。
イヌワシの足の動きを助ける装具

3Dプリンターでの装具作りにも挑戦!

島田さんは、個々に合う装具や義肢を作るために、ミリ単位で採寸し、試行錯誤を重ねてここまできました。

ところが2023年、アメリカでは、3Dプリンターを利用して、もっと簡単に作っていることを知り、島田さんは驚きました。

早速、知人の協力を得て、3Dプリンターでの装具作りの研究も始めました。

島田さんの挑戦は続きます。
『動物の義足やさん』(文:沢田俊子 講談社刊)
27 件
さわだ としこ

沢田 俊子

Toshiko Sawada
作家

京都府生まれ。ノンフィクションから童話まで小学校初級から中級向けの作品を中心に幅広く執筆している。『盲導犬不合格物語』(Gakken)で、第52回産経児童出版文化賞を受賞。(同書は、加筆・修正のうえ講談社青い鳥文庫に収録)。 『サバンナで野生動物を守る』(講談社)で、第9回児童ペン賞ノンフィクション賞受賞。ほかのおもな作品に『目の見えない子ねこ、どろっぷ』『犬たちよ、今、助けに行くからね』(講談社)、『盲導犬引退物語』『犬の車いす物語』(いずれも講談社青い鳥文庫)、『命の重さはみな同じ』『助かった命と、助からなかった命』(いずれも学研教育出版)などがある。日本児童文芸家協会会員。日本ペンクラブ会員。

京都府生まれ。ノンフィクションから童話まで小学校初級から中級向けの作品を中心に幅広く執筆している。『盲導犬不合格物語』(Gakken)で、第52回産経児童出版文化賞を受賞。(同書は、加筆・修正のうえ講談社青い鳥文庫に収録)。 『サバンナで野生動物を守る』(講談社)で、第9回児童ペン賞ノンフィクション賞受賞。ほかのおもな作品に『目の見えない子ねこ、どろっぷ』『犬たちよ、今、助けに行くからね』(講談社)、『盲導犬引退物語』『犬の車いす物語』(いずれも講談社青い鳥文庫)、『命の重さはみな同じ』『助かった命と、助からなかった命』(いずれも学研教育出版)などがある。日本児童文芸家協会会員。日本ペンクラブ会員。