発達障害の特性のある子どもを持つ父親への支援【前編 父親の実態】〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説

#14 発達障害の特性のある子の父親のストレス

言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

(3)父親のストレスとは

①父親が我が子に発達障害の特性があることに気づくタイミング
保育園や幼稚園入園のころになると、発達障害の特性がある子の行動的な特徴が顕著に現れてきます。また、集団生活の中で他児と比較する場面も増えます。そのため、入園入学のタイミングで我が子の発達障害の特性に気づく父親は多いです。

「運動会で一人だけ、どんな活動にも参加せず、泣いているのを見たときは衝撃だった」
「友人の同年代の子どもを見たとき『こんなに親の言うことを聞くのだ』と驚いた。うちの子は全く言うことを聞かない」
「悪いことばかりする。やめてほしいということばかりを繰り返して困る」

こんなことばを父親から聞くことがあります。ここで初めて父親も、「困ったことがあるのはわかった。どうにかしたい。しかし、誰に相談したらいいかわからない。困った行動を変えていく道筋が全く見えない」と、心理的なストレスを強く感じるのです。

これに対して母親は、多くの場合、もっと早く子どもの行動の特性に気づき、なんとかしようと情報収集をし、学び、子どもを理解し対応しようと試みています。

発達障害についての理解、我が子の理解と対応という面で、父親は出遅れているのです。その結果、医療機関の受診に難色を示したり、医師が伝える診断名や療育方針に、父親だけが納得しないという話をよく聞きます。

納得できない父親は、支援者の助言で母親が子どもの特性に対応した環境づくりや関わりをしようとしても、協力しようとしなかったり、逆にそのようなアプローチを否定することもあります。これは父親が、まだ発達障害の知識や子どもの状況の認識が不十分であることによるところが大きいように思います。

②父親の不安の特徴
相談を受ける中で感じるのは、母親は生活上の悩み(偏食、顔を洗うのを嫌がるなど)や子どもの精神面に不安を抱くことが多いのに対して、父親は「この子は将来どうなるのか」について不安を抱く傾向があることです。

社会構造における男女平等が道半ばの日本においては、現在も、父親が家計を支えている場合が多く、父親は「稼いで食べていくこと」の厳しさを日々実感しているわけで、どうしても「我が子はこの社会で生きていけるのか」という不安が強いのだろうと想像します。この不安は時に「世の中は甘くない、だから甘やかさない、わがままは許さない、厳しく接する」という関わり方につながっていきます。

③父親の抑うつリスク
発達障害の特性のある子どもとの生活のストレス、医療機関等の指導に納得できないこと、我が子の将来への不安などは父親にとって心理的に大きな負担です。

その結果、母親ほど高率ではないものの、父親もうつ病リスクがあるという研究もあります〈石田徹(2017)高機能広汎性発達障害の中学生をもつ親の抑うつへの影響要因─児童精神科での医療支援を受けている児の父母に着目して─ .小児保健研究,76(3),p.261.〉。

𠮟っても叩いてもうまくいくことはないが…
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