
発達障害の特性のある子どもの“きょうだい児”4つのタイプとストレス〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説
#16 発達障害の特性のある子どもの「きょうだい児」の支援─前編~きょうだい児のリアル~
2025.07.31
言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也
発達障害の特性のある子のきょうだい児の状況
きょうだい児は、発達障害の特性のある子に対して否定的であったり、ストレスを抱えて生活しているといわれることがありますが、実際はどうなのでしょう。
私自身が臨床や相談現場で保護者から聞いたことやきょうだい児へのインタビューをした研究の中で語られた彼らの生の声を見てみましょう。
◆発達障害の特性のある兄弟姉妹と生活する中でのストレス
・僕は悪くないのに、僕が悪いって怒るんだよね
・こだわりが強くて、思ったとおりじゃないと騒ぐ、うるさいの
・いろいろ知って、それで、私の家族は普通じゃないんだって感じましたね。それに気づいたのが、小学校のころでした
・僕のものを壊したり、勝手に持っていったりする
・いじわるばかりするので嫌い
・花火の音が嫌いで、外から音が聞こえると「ぎゃー」と大きな声を出すから、私もびっくりしちゃう
・パニックやこだわりが強いとき、どうしてあげたらいいかわからない
・発達障害の特性のある子の兄弟姉妹として一緒にいて変な目で見られないかなって感じがする
・友だちに発達障害の特性のある子のことでからかわれた。「へん」「きも」などの心ない言葉を言われた
・発達障害の特性のある兄弟姉妹がいじめられるのを何も言えずに黙って見ていることしかできなかった
◆両親との関係
・(発達障害の特性のある兄弟姉妹が)イライラしていると、お父さんもお母さんもイライラしちゃって、家が嫌な雰囲気になることもたくさんある
・お母さんは発達障害の特性のある兄弟姉妹のことで忙しそう。いつも、癇癪(かんしゃく)を起こさないように気を使っているので、自分は甘えたりできないなと思う
・発達障害の特性のある兄弟姉妹が大変だから、自分は、“いい子”でいなくちゃいけないって思ったのは小学校のときかもしれない
・発達障害の特性のある兄弟姉妹に期待できないこと(勉学や将来等)に対し、その分、あんたはがんばれみたいなプレッシャーは感じる
・自分は弟なのに、お兄ちゃんの面倒見てねと親に言われる。大きくなっても面倒見るのかな
◆きょうだい児として暮らす中での良いこと
・母親が発達障害の特性のある兄弟姉妹と一生懸命かかわる様子を見て、すごいと思ったし、真似してかかわってみたりした
・発達障害の特性のある兄弟姉妹のきょうだい児としてずっと生活して、少しずつ発達障害の特性のある兄弟姉妹のいいところがわかるようになった
参考
「自閉性障害児・者のきょうだいに対する家庭での支援のあり方」2005
柳澤亜希子 家族心理学研究 第19巻第2号 P91~104
「葛藤経験のある発達障害児・者のきょうだいに関する探索的研究─周囲を意識するために生じる心理的変化のプロセスに注目してー」2020 井上あかり 白百合女子大学 発達臨床センター紀要 No.23 P109-122
「発達障害のある人のきょうだいに対する支援の実態と要望」2018 小林宏明・本間沙穂 金沢大学人間社会研究域学校教育系紀要
親が発達障害の特性のある兄弟姉妹の対応に必死になる中で、きょうだい児も孤独、混乱、イラ立ちや不安などの気持ちの浮き沈みを抱えながら生活しています。
そして、成長するにつれて、発達障害の特性のある兄弟姉妹の良いところや暮らしの中で自分自身が役に立っていることを実感することもあるようです。
研究によると、一般的に中学生の時期は自尊心が低下する傾向にありますが、きょうだい児は、自分が発達障害の特性のある兄弟姉妹をサポートすることで自尊感情を得られることから、学業以外の価値によって自分自身の自尊心を保つことができる、ともいわれています。
「障害児を同胞に持つきょうだいの適応に関する質問紙調査」 原幸一・西村辨作 1998 特殊教育学研究、36(1)、1-11