
子どもは何に怒っているのか?
さて、先ほど“不当に𠮟られる”という事例がありましたが、子どもが“キレる”ときの気持ちを考える上でヒントになるキーワードがあります。「不当性」と「故意性」です。
感情心理学者で、怒りの制御やマインドフルネスなどを研究している湯川進太郎氏は、怒りというのは、自分や社会に対して不当な、もしくは故意による物理的・心理的な侵害があったときに、自己防衛や社会維持のために生じるものだと定義しています。
この定義にそって考えると、なんらかの出来事によって被害を受けたとき、それを「正当ではない」または「わざと行われた」と感じた場合に、怒りが生じることになります。
例えば、子どもが家庭内のルールを守ってゲームをしているときに、親の急用で中断することになったら、その子はおそらく怒るでしょう。「自分は約束を守っているのに、どうしてこんな扱いを受けるのか」と「不当性」を感じて、キレるのです。
また、子どもが友達に悪口を言われたり、からかわれたりして怒ることもあります。相手の言動に悪意を感じて、「この人はわざとひどいことをしている」と思ったときにも、怒りがわいてくるわけです。このときに感じるのが「故意性」です。
子どもは「自分が悪いことをした」という自覚があるときには、𠮟られても激しく怒ったりはしないものです。子どもが怒ってキレるときには、多くの場合、不当性や故意性を感じています。その思いを誰かが受け止めて、理解してくれれば、子どもの怒りや悲しみはやわらいでいくのです。
大人は子どもの発言を打ち消しがち
子どもが何を不当だと感じて怒ったのかは、本人に聞いてみなければわかりません。
例えば、子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、親は「そんなこと言わないで」と応じてしまう。子どもの発言が期待に反した内容だった場合に、大人は即座に否定的な反応を返してしまうことがあります。この場面で親は「がんばって登校したほうがいいよ」と伝えたかったのかもしれません。しかし結果としては子どもの訴えを打ち消すような返答になり、子どもは反発してキレてしまいます。
会話は言葉のキャッチボールです。相手の言葉を打ち返していては、会話は成り立ちません。子どもが何か言おうとしているときには、その言葉をバットで打ち返すのではなく、グローブで受け止める必要があります。

子どもは急に無茶な話を始めることがあります。学校に行きたくないから「引っ越したい」などと、非現実的な要求をしてくることもあるかもしれません。それは受け入れられないでしょう。
しかし、即座に否定するのではなく、まずは「そのくらいつらいんだね」と子どもの言い分を聞いてください。受け止めることを優先し、ものごとを教えるのは後回しでかまいません。
子どもの話を聞くときのポイントは「子どもの話を否定しないこと」です。「そんなこと言わないで」と頭ごなしに否定するのではなく、まずは話を聞きます。話を聞いて、お互いに少し落ち着いてきたら、「どういうところが嫌なのかな?」と質問するのもよいかもしれません。