【発達障害】特別支援学級とインクルーシブ教育の壁…文科省通達で広がる波紋

「それぞれのメリット・デメリットは?」発達障害と特別支援学級#3

ジャーナリスト、特別支援教育支援員:小山 朝子

「インクルーシブ教育」と「特別支援教育」の違い、それぞれのメリットを解説(写真:アフロ)

近年「インクルーシブ教育」に注目が集まっています。

2022年には、国連が日本政府に「障害児を分離した特別支援教育の中止」を要請し、「インクルーシブ教育」に向けた行動計画の策定を求めたことも、教育界では波紋を呼びました
(※)

「インクルーシブ教育」と、従来の「特別支援教育」は、どのような違いがあるのでしょうか。

この記事は、小学校の特別支援教育支援員もつとめるジャーナリストの小山朝子氏が、発達障害と特別支援学級をテーマに解説する連載です(全3回)。最後となる3回目では、注目の「インクルーシブ教育」に焦点をあてます。


(※2022年に、国連の障害者権利委員会が「障害児を分離した特別支援教育の中止」を日本政府に要請。国連の勧告は「障害のある子どもの分離された特別教育が永続している」ことや、「障害のある児童生徒に対する合理的配慮の提供が不十分」であることを指摘。「インクルーシブ教育」に向けた、国の行動計画の策定を求めています)

【小山朝子(こやまあさこ)】介護ジャーナリスト。高齢者・障害者・児童のケアを行う全国の宅老所なども精力的に取材。著書に『世の中への扉 介護というお仕事』(2017年度厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財に選出)など。ボランティアとして地域の小学校の特別支援教育支援員も担っている。

インクルーシブ教育とは

インクルーシブ教育とは、2006年の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で示されたもので、障害のある児童も、ない児童も、共に教育を受けることです。これまで社会参加できなかった障害者などが積極的に参加・貢献できる社会、すなわち「共生社会」の実現を目指しています。

一方、特別支援教育は対象となる児童ひとり一人のニーズを把握し、生活や学習上の困難さを軽減し改善するための指導や支援を行う教育のことです。

特別支援とインクルーシブの概念

インクルーシブ教育を構築するには、以下の3点に基づいた特別支援教育が必要だとされています。

①障害者が一般的な教育制度から排除されないこと
②自分が生活している地域で初等中等教育の機会が与えられること
③個人に必要な合理的配慮が提供されること


③の「合理的配慮」は、「障害者の権利に関する条約」の第2条で以下のように記されています。

「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」

具体的には、教員の確保、設備の整備、個別の教育支援計画や指導計画に対応した柔軟な教育などが挙げられます。

それぞれの立場から考えるメリット・デメリット

インクルーシブ教育にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

障害のある児童・保護者の立場からのメリットは、「今まで受けられなかった教育を受けることができる」、「自分が生活する地域の学校に通うことができる」、「これまでになかった交友関係が広がる」、「地域の理解が得られ差別や偏見の解消に繫がる」といったことが考えられます。

デメリットとしては、「特別扱いをされることへの心理的なストレス」、「周りの児童からいじめを受ける可能性もある」といった点です。

では、周囲の児童にとってのメリットとデメリットはどのような点なのでしょうか。

インクルーシブ教育のメリット・デメリット

メリットは、「障害について理解が進み、思いやりをもって接することができる」、「多様な人と関わることが成長につながる」といった点が考えられます。デメリットとしては、「障害がある児童のペースに合わせることで授業の進行が遅れることがある」といったことがあります。

一方、教員側にとってのメリットには「医学や療育(障害のある児童が自立した生活を送れるように支援すること)の知識や理解が深まる」、「さまざまな児童と関わることで教育技術が向上する」、デメリットとしては「合理的配慮をどこまで行うかの判断が難しく、業務が増える」、「授業の進行が滞る場合がある」といった点があります。

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