本の1%が印象に残れば大成功 「悪口ゲーム」で子どもの読書コンプレックスをなくす

作家・書評家 印南敦史さん「読書ゲームメソッド」#2 ~読書の悪口ゲーム~

作家・書評家:印南 敦史

読書に対する姿勢をストックからフローへ

本を読むのが苦手、読書が億劫だという人は、無意識に「本から何かを学ばなければ」とか「内容を覚えておかなくちゃ」というふうに考えがちだと、印南さんは語ります。

「読書を阻害する要素のひとつに、《読んだ本の内容を覚えておかなくてはいけない》とか《書いてあることのすべてを理解しなければならない》というような考えがあります。が、これは非常に危険だと思っています。

なぜなら人間は、『忘れて当然』だから。すべてを記憶しておくことなど不可能なのです。読んだ本の99%を忘れたとしても、残り1%に強烈なインパクトがあったのだとしたら、その読書は大成功だということになるはずです」(印南さん)

印南さんの著書『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)では、「フロー・リーディング」というメソッドが紹介されています。

「内容を覚えておかなくてはいけない、という従来的な読書観“ストック・リーディング”に対するアンチテーゼ……といったら大げさですが、流しながら(フロー)読んでいても、自分にとって必要な部分はストックされていくものなのです。

本の内容がフローしていく過程で、必要な箇所だけがフックに引っかかるようなイメージ。大層な話ではなく、人間はそうなるようにできているのです。

読んだ内容すべてを記憶できなかったとしても、自分にとって必要な部分は、無意識のうちに“残る”ものです」(印南さん)

ストックではなくフローで大丈夫。そう考えると、ページを繰る手がすこし軽くなるような気がします。

家族で本を好きになれたら素敵なこと!

ではそもそも、印南さんはどうして「家族で本を好きになること」を目指した、読書ゲームメソッドを考えたのでしょう。

「僕は常々、『本を読まなくても生きていける』と言っています。でもそれはアイロニック(皮肉的)な表現で、その裏側に『だけど、読めばもっと人生は豊かになるよ』というメッセージを込めているわけです」(印南さん)

それをふまえたうえで、「でも、子どもにもっと本を読め、と強制すべきではない」ということを強調する印南さん。

「過去の自分に、大人たちから『あれを読め、これも読め』と強制されて辟易(へきえき)した経験があるからです。もちろん名作の類いを読むことは大切ですが、《なにを読むか、いつ、どれだけ読むか》の判断は、本人がするべきこと。

読書に限ったことではないですが、子どもは必ずしも大人の望みどおりに成長するものではないので、あれこれ矯正すると逆にいろいろなことか軋んでくると思うのです」(印南さん)

一方で、子どものときの読書体験は、かけがえのないものだとも言います。もし家族で楽しく読書ができて、本についての感想を話し合う機会が持てたとしたら、それは純粋に素敵なこと。家族間のコミュニケーションも深まります。

「『この本読んだー?』『読んだ読んだ! おもしろかったよねー!』というような会話が飛び交う家庭は、とても魅力的だなぁと感じるのです。

子どものころ、本を買ってもらったときのうれしさとか、初めてページをめくったとき指に伝わってきた紙の質感や匂い、程度の差こそあれ、本にまつわる記憶は誰の心のなかにも残っているはず。

子どもと一緒に読書することで、大人も純粋な気持ちを思い出すことができるのでは。そんな読書の記憶を引っぱり出して、親子でカジュアルに本が読める家族を目指していきましょう」(印南さん)

次回は、印南さんが提案する「読書ゲームメソッド」のなかから、小学校低学年の子どもたちでもできる、初級のゲームをいくつか紹介します。

印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年、東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。さまざまなメディアで書評欄を担当し、読書量は年間700冊以上。2020年には、“日本で一番”を認定するサイト「日本一ネット」において「書評執筆本数日本一」に認定された。読書や文章技術、音楽に関する著書多数。

取材・文/遠藤るりこ

印南敦史さんが、子どものいる家族向けに執筆した『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社)。読書を“ネタ”としてゲーム化しながら楽しめるメソッドが盛りだくさん。きっと、親子で本を好きになるヒントが見つかるはず。

※印南敦史さん「読書ゲームメソッド」インタビューは全4回。第3回は2022年8月6日、4回は8月7日公開予定です(公開日時までリンク無効)。

#3 朝読書から本の墓場?まで 夏休みに子どもを読者好きにするスゴいテクニック
#4 読書感想文を最後に残さない! 本好きになる「読書ゲーム」を家族でやってみたら…
#1 小学生の「不読者」30%時代 子どもの読書量を増やす“読書ゲーム”とは?

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いんなみ あつし

印南 敦史

作家・書評家

作家・書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年、東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。 もともと超・遅読家だったものの、ビジネスパーソンに人気のウェブ媒体「ライフハッカー[日本版]」で書評を担当することになったのをきっかけに、大量の本をすばやく読む方法を発見。土日祝日を除く毎日書き続けている同サイトの連載「印南敦史の毎日書評」は、2022年8月で11年目を迎える。 「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「マイナビニュース」などでも書評欄を担当し、年間700冊以上という読書量を誇る。2020年には、“日本で一番”を認定するサイト「日本一ネット」において「書評執筆本数日本一」に認定された。書評以外の記事も、「文春オンライン」「論座」「e-onkyo music」などに寄稿。 著書に『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『遅読家のための読書術』(PHP文庫)などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

作家・書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年、東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。 もともと超・遅読家だったものの、ビジネスパーソンに人気のウェブ媒体「ライフハッカー[日本版]」で書評を担当することになったのをきっかけに、大量の本をすばやく読む方法を発見。土日祝日を除く毎日書き続けている同サイトの連載「印南敦史の毎日書評」は、2022年8月で11年目を迎える。 「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「マイナビニュース」などでも書評欄を担当し、年間700冊以上という読書量を誇る。2020年には、“日本で一番”を認定するサイト「日本一ネット」において「書評執筆本数日本一」に認定された。書評以外の記事も、「文春オンライン」「論座」「e-onkyo music」などに寄稿。 著書に『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『遅読家のための読書術』(PHP文庫)などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe