弁護士・相談員「支援のプロ」につながる居場所
例えば月に1度、「豊島区子どもの権利擁護委員」の出張相談デーがあり、弁護士がジャンプ東池袋に訪れます。
また、「豊島区子ども若者総合相談『アシスとしま』」の相談員が出張で来てくれることも。
例えば、「アルバイト先で不当な扱いを受けた」「家では話せない心身的なトラブルがあった」など、誰に相談すれば良いのかわからず困っていたことなどを、弁護士や相談員へ無料で相談ができます。
もちろん大きな相談ごとだけではなく、日頃の小さな疑問についても質問が可能です。
豊島区の素晴らしい点は、こうした弁護士や相談員に限らず、さまざまなNPO団体との連携をしていることです。
親を頼れず、学校や社会に馴染めず孤立している人、望まない妊娠で苦しんでいる人、ヤングケアラー問題、進路・就職相談など、こうした悩みや困りごとについてサポートするNPO団体との連携が進んでいます。
こどもと関わりを持つプロ・児童館職員とは
児童館のスタッフもまた、こどもと関わりをもつプロフェッショナルです。
児童館で働くためには「児童の遊びを指導する者(児童厚生員)」として保育士や社会福祉士、小中高いずれかの教諭資格等が必要です。そのため、一般的な児童館の常勤スタッフは、基本的にこのいずれかの資格を有しています。(ただし補助スタッフに資格などは問われず。また施設によって常勤スタッフの人数・勤務体制は異なる)
その他にも、児童館や児童クラブの職員の専門性を高めるため、一般財団法人 児童健全育成推進財団の認定する「認定児童厚生員資格」があります。
指導員および指導士の認定資格を得るためには、児童館、児童クラブの機能、こどもの発達、援助技術等の研修や課題提出、論文作成の過程を経て知識を深めていく必要があります。
演習科目も盛り込まれ、単にこどもについての概念論を学ぶだけでなく、実践に基づいた知識が必要となる資格です。
このように、児童の健全な育成を支える知識と資格をもったプロの人材が、こども・若者の居場所としての児童館を支えているのです。
こうした資格や知識に加えて、スタッフ自身が持つ個々の人生経験も重要です。
勉強・友達・恋愛・家庭・進路…多感な時期の中高生世代には、心揺れる事柄がたくさんあります。そして、利用者たちにとって児童館の職員は、身近に出会える「大人」のサンプル(見本)でもあります。
スタッフは、利用者の気持ちや悩みを受け止め、時にはアドバイスをすることも。中高生世代の支援において、資格や知識だけでなく、スタッフそれぞれの人生経験も役立っていると職員の1人は話します。
また、利用者と接するときには、心地よい距離感を保つよう意識しているそうです。
「中高生世代になってくると、他者との関わり方も変化してきますよね。大人へ心を開いてくれるようになるまで、時間もかかります。
ですから、なにかあったとき『この人に頼りたい』と思ってもらえるような信頼を築けるよう、心がけています。
ここでの過ごし方は、基本的に自己責任。中高生世代は、大人に向けて歩み出す年頃で、自由と責任のバランスを学ぶ年代です。
そのため、もし人に迷惑をかけるようなことがあれば、注意の声かけや仲裁をしますが、干渉しすぎることは避けています。
“困ったことがあれば相談に乗るよ”というスタンスで接するのです。この距離感が心地よいのかもしれないですね」(ジャンプ東池袋・職員)
若者の「サードプレイス(第3の居場所)」として
家庭や部活・塾とは異なる「第3の居場所」として居心地の良さを感じる子は多く、高校を卒業しても、故郷に帰ってくるかのように足をのばす利用者もいるそうです。
「大学生になってからも顔を見せてくれる人はいますよ。大学が遠方で一人暮らしをしている人が、帰省のたびに『ジャンプ』に足を運ぶこともあります、まるで同窓会のようです。新しい生活が始まってちょっと不安になったとき、ここの存在を思い出して、心の支えにしてもらえると嬉しいですね」(ジャンプ東池袋・職員)
ジャンプ東池袋の利用者が高校を卒業後、イベント等のボランティアスタッフとして関わることも。
「大学生や大学院生ボランティアも受け入れていますが、利用者と近い年齢であることから、職員と児童のパイプ役にもなってくれるありがたい存在ですね。
中高生世代と年齢の近いボランティアさんが共感を示すことで、利用者たちが心を開くきっかけになることもあるんです」(ジャンプ東池袋・職員)
「安心して過ごせる場所」があるという大切さ
児童館の職員には異動や退職もあるため、いつまでもずっと同じ施設にいるわけではありません。
せっかく積み上げてきた利用者たちとの関係が、こうした変化により途切れかけてしまうことは、支援活動を継続していく上での課題の一つなのかもしれません。
学校以外の「こども・若者の居場所」問題。塾や部活に参加している人もいますが、もちろんそうではないこどももたくさんいます。そうなると、彼らはどこへ行き、どのように過ごしているのでしょうか?
放課後や休日ともなればショッピングセンターやフードコートなどに集まる姿をよく目にしますが、それは彼らにとって、居場所が他に見つけられないからなのかもしれません。
考えれば考えるほど、安価で安心安全な子どもの居場所が街中にない、という問題が浮き彫りになります。特に長期休暇時などはなおさらです。
「こどもなら誰でも、気軽に無料で安全に過ごすことができる快適な場所、それが児童館です。そのことを大人もほぼ知らないんですよね。
利用者であるこども自身に知ってほしいのはもちろんですが、支援する立場である大人がまず、こうした児童のための施設が地域に開いているんだよ、ということをもっと知ってくれたらいいなと願っています」(ジャンプ東池袋・職員)
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児童館の情報は、各自治体のウェブサイトや児童館・児童クラブの情報サイト「コドモネクスト」などで見ることができます。ぜひお住まいの地域の児童館について調べてみてください。
【〈こどもの居場所・児童館〉シリーズは前後編。こどもの居場所づくりが必要とされる理由・居場所としての児童館についてレポートした前編に続き、この後編では、こども・若者の支援について取材。たんなる遊び場としてだけでなく、さまざまな「事情」を抱えたこども・若者たちを手厚くサポートする「居場所」としての児童館をお伝えしました】
<参考>
こども家庭庁「こどもの居場所づくりに関する指針」
(一財)児童健全育成推進財団「認定児童厚生員資格制度」
撮影/市谷明美
永見 薫
複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm
複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm