小児科医が解説! 自分で食べる子どもになる「手づかみ食べ」3ステップ

小児科医・江田明日香先生「ごはん外来へようこそ」#3~手づかみ食べ実践編~

小児科医:江田 明日香

「手づかみ食べのはじめのステップは、硬くて大きなものから。握りやすくて大きく、かじり取れない野菜やドライフルーツなどがお勧めです。舐めて味わう時期なので、しゃぶって味がするという点では、昆布やスルメでもいいかも。くさくなりますけどね(笑)。太い油性ペンくらいのサイズがちょうどよいです。

食事という概念でなく、おしゃぶり感覚だと思ってください。まず、赤ちゃんって物を持つのが大変なんですよ。しっかりと持てたら、それを口まで持っていきます。でも最初のうちは上手に口に入りません。

動画を見ると、赤ちゃんはイライラしていますよね。どうしたらうまく口まで食べ物を持っていけるのか、自分で手を持ち替えて、食べ物の角を探して、意欲的に狙って口へ運びます。成功したときにはとっても嬉しそう!」(江田先生)

大きくて硬いおせんべいを食べる赤ちゃん。はじめは自分でものをつかみ、口へ入れるだけでも難しい。
写真提供:かるがも藤沢クリニック
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じっくりと観察し、どこから食べれられるのか考えているよう。口のなかで溶ける食材で、舐めたりかじったりして食べるようになる。
写真提供:かるがも藤沢クリニック

「次のステップでは、唾液で溶けるもの。硬くて大きい、スティックパンやおせんべい、ビスケットなど。舐めているうちにちょっとずつ食べることができるものがおすすめです」(江田先生)

「慣れてきたら、歯茎や前歯でかじり取れるもの。お肉も塊でドン!と出してみて。手羽元は持ちやすく、ガシガシとかじって肉汁を楽しめるので、手づかみ食べには人気の食材ですよ。

おにぎりなんかも小さなサイズにせず、大きなままで大丈夫。やわらかな薄切り肉なども食べられるようになります」(江田先生)

大きな手羽元もそのまましゃぶるように食べられる。手づかみ食べをしている赤ちゃんたちは、みんなイキイキと食事を楽しんでいる。
写真提供:かるがも藤沢クリニック

基本的には、食材を大きなまま目の前に出すだけでOK。赤ちゃんは食材を舐めたりかじったりする練習をするうちに食べるスキルを積んで、実際に食べられるようになっていくのだそうです。

1日の食事の回数と 手づかみ食べのタイミング

でも、与える食事量を調節できるペースト食とちがって、「手づかみ食べ」だと、何をどれくらい食べたのか親が把握しづらくなってしまいます。大丈夫なのでしょうか? 

「はじめのうちは、赤ちゃんが食べられる量は少ないんです。親が決めた量でペースト食を食べさせられている子たちは、自分で食べる量をコントロールできません。

一方で、手づかみ食べをしているお子さんは、ある程度上手になると食べられる量が増えてきます。その方が子どもたちはより意欲的に食べるようになりますし、何より安全です。

1日何グラム食べさせなきゃなんて、マニュアル通りにいく場合の方が少ない。子どもたちにとって適切な食事量は、子ども自身が決めていくものです」

「問題なのは、何を食べさせるかよりも、どう食べさせるか。赤ちゃんが避けるべき食材だけは知っていただいて、それ以外は何でもあげていいよと伝えています」と江田先生。
写真:日下部真紀

1歳前後の赤ちゃんは、軽食もふくめて平均1日4~5回の食事をします。食事時間は、1回長くても20分くらいが目安。「子どもは少しずつ、何度も食べる生き物」と江田先生は言います。

初期だから1回、中期だから2回などと回数を制限する必要はなく、食べたそうなタイミングを逃さずに回数を増やしても大丈夫。おなかが空きすぎていると機嫌が悪いので、空腹時ではなく、疲れていないタイミングがおすすめです。

「お母さんたちには、『何を食べさせたらいいんですか?』ということもよく聞かれますね。赤ちゃんに不足しがちな鉄や、ビタミンDを多く含んだ食材はぜひ摂ってほしいです。鉄だと赤身のお肉やレバー、卵黄、ビタミンDは鮭やキノコなどが最適です。

でも、あれもこれも食べさせなきゃと、栄養ばかりを気にしなくて大丈夫。手づかみ食べでは、食材の内容よりも硬さや大きさが重要です。お母さんたちには、1歳未満が避けるべき食品として、生の肉や魚、はちみつ、窒息の危険がある丸くて小さなものはやめましょうと伝えています。食べてはいけないもの以外は、何でもトライしてみてほしいです」(江田先生)

何をどう食べていくのかは、神奈川県立こども医療センターのパンフレット※1にも「手づかみ食べの実際」として詳しく掲載されています。手づかみ食べを考えている方たちは、こちらも必読です。

※ 1=神奈川県立こども医療センター 偏食外来パンフレット
チャレンジ編 「いつから・なにをどのようにたべる?」

吐き出さないの? 窒息の危険はない?

また、多くの親たちが気にするのが、窒息の危険。確かに「大きな食べ物を与えると喉に詰まったりしないのだろうか?」と、心配になります。

「当院で2018年に手づかみ食べを取り入れてまだ3年ですが、この考えはBLWという食事メソッドに基づいています。BLWはイギリス人の保健師、ジル・ラプレイさんが2002年に提唱以降、世界的に広まり、20ヵ国以上で行われています。ですが、これまで手づかみ食べをしているお子さんに、特に窒息事故が多いという報告はありません。

ただ、窒息の危険がある食品は頭に入れて、与える際に工夫をしてください。ぶどうやトマトなどの丸くてツルッとしているものは1/4に切るか、少し潰してあげましょう。豆やナッツ※2はそのまま与えると窒息の原因になるので、細かく潰したり砕いたりしてください。

万が一の窒息対応※3は、手づかみ食べを実践している人もそうでない人も、すべての保護者に知っておいてほしいです」(江田先生)

※2=消費者庁 食品による子どもの窒息・誤飲に注意!
※3=うつぶせにし背中を強く叩く「背部叩打法」、背部叩打法で異物が除去できない場合に胸骨を圧迫する「胸部突き上げ法」があります。《参考》日本小児学会 こどもの家庭内事故を防ごう 窒息

食べものによる窒息事故は4歳頃までリスクが高いとされ、手づかみ食べに限らずどんな食べ方をしている子でも起こり得るものです。「食事をしているときにはを子どもをひとりにせず、食べる様子をよく観察することが大前提」と、江田先生。

また、窒息・誤飲の原因となるのは食品だけではありません。いついかなるときであっても、子どもの生活と窒息・誤飲の危険は隣り合わせであることを頭に置いておきましょう。

「急激な顔色の変化が窒息や誤飲のサインになります。どんな食べさせ方にしても、子どもが食事をしているときは、必ず大人がそばで見守ることが必要です。

ただ、食事をしている赤ちゃんが咳き込んだり吐いたりするのって、じつはよくあることです。窒息と誤解されがちなのが、ゴホゴホとなる『咳反射』と、オエッとなる『咽頭(いんとう)反射』。これらは子ども自身が危険を察知して起こる生理的な反射なので、むしろファインプレーなんですよ」(江田先生)

赤ちゃん自身が「咳が出て苦しかったから、次はこうやって食べてみよう」と、試行錯誤を繰り返すことで、安全な食べ方を学んでいくと江田先生は言います。

「子どもたちは、これから親を離れて食事をする機会が増えます。ずっと近くで見ていられるわけではないから、子ども自身が危険を回避する術を知っておかないと。窒息事故も、交通事故と同じ。やり方を教えて安全に対処できるように教えていくのは、大人たちの大事な役目だと考えています」(江田先生)

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