「ごはん外来」開設の小児科医が教える「離乳食期の悩みはこう解決できる」

小児科医・江田明日香先生「ごはん外来へようこそ」#1~離乳食の悩み編~

小児科医:江田 明日香

ご自身も2児の男の子を育てるお母さんでもある江田先生。自身の子育て経験を生かしながら、母親たちに寄り添う小児科医でありたいと話してくれました
写真:日下部真紀

「離乳食を食べてくれない」「なかなか子どもの体重が増えない」「好き嫌いが多い」……。

授乳期を終え、離乳食期が始まった途端に直面する悩みの数々。
そんな離乳食期ならでは心配事を相談できるのが、「かるがも藤沢クリニック」(神奈川県藤沢市)の院長で、小児科医の江田明日香先生が開設した「ごはん外来」です。

いったい「ごはん外来」ではどんなことが行われているのでしょうか。

赤ちゃんの健やかな成長を願うパパママに代わって、江田先生にインタビューを敢行。そこには、江田先生の確かな知識と献身的な情熱に裏付けられた実践がありました。

さあ、それでは「ごはん外来」のドアを叩いてみましょう。(全4回の1回目)

日本で唯一「ごはん外来」ってどういうところ?

日本で唯一となる「ごはん外来」を立ち上げた、小児科医の江田先生。自身のクリニックを2015年に開院してから、国際認定のコンサルタントとして(※1)授乳期の母子を支援するうちに、離乳食の悩みを持つ母親たちが多いことに気がついたと言います。
※1=「アメリカに本部を置くラクテーション・コンサルタント資格試験国際評議会(International Board of Lactation Consultant Examiners:IBLCE)が認定する母乳育児支援の専門家」

「母乳やミルクを上手く飲ませられず悩む母親や、体重が思うように増えていかない赤ちゃんを支援する授乳相談室をやっています。授乳期は、適切な情報と支援があれば、ほとんどの親子が自分たちの軌道にのっていきます。そこまで難しくはないんです。

その後、赤ちゃんに意思がでてきて、いよいよ離乳食期が始まると、つまずいてしまう親子がとっても多くなることに気づきました。でも、そんなお母さんたちに対して、支援の手が回っていなかったんです」(江田先生)

江田先生が母乳育児支援や摂食支援の師と仰ぐ、神奈川県立こども医療センターの大山牧子先生という新生児科医がいます。大山先生は、食に対して課題のある子どものために“偏食外来”を立ち上げ、経口で食事を摂るのが難しい子どもたちの支援を行っています。江田先生はその大山先生の影響に受け、離乳食期の子どもの食についても勉強を始めました。

「大山先生のもとで専門的な勉強をさせてもらううちに、『これは自分のクリニックでも、外来としてやっていくべき』と考えるようになりました。授乳期後の受け皿として、『ごはん外来』という看板を掲げたのが、2018年のことです。

子どもの食事のことって、誰もがちょっとずつ困りごとがあるはずなのに、小児科で相談できることだと思っていない方が多いんです。もっと気軽にごはんの相談をしてほしいと思って、あえて“ごはん外来”と、誰でもわかりやすく親しみやすい名前をつけて、門を構えました」(江田先生)

離乳食期の悩みってどんなもの? 全国から電話相談が続々

江田先生の「ごはん外来」には、日々、全国から相談が寄せられます。コロナ禍では、電話相談やオンライン診察も行っていました(※現在は休止中)。実際にどのような患者が、どういった症状やお悩みで先生のもとへ訪れるのでしょうか。

「やはりもっとも多いのが『子どもが離乳食を食べてくれない』という悩みです。お子さんが食べないのにはいろいろな理由があるので、その原因を探っていきます。

食べるという行為は、身体の育ちや運動発達、知的発達が伴ってようやくできるようになるものです。ですからまずは、そうした食べるための発育と発達が整っているお子さんなのかを診ます。

例えば、食べ物に興味を示すか、支えれば座る体勢をとれるのか、などです。子ども側の食べる準備がまだできてないのに、一生懸命食べさせようとしても難しいですよね」(江田先生)

「赤ちゃんの両脇を抱えて抱っこをすると、その子の筋緊張(筋肉の状態)が把握できます。食べる姿勢がとれる状態かどうか分かるんです」(江田先生)
写真:日下部真紀

「そういった総合的な状況で判断できるのは、小児科医が食事支援をする強みです。食事のレシピや食べさせ方だけに、食べない答えがあるわけではない。健康に育っているお子さんであれば、食べるための発達を底上げしてあげると、上手に食べられるようになることが多いです」(江田先生)

体重が増えない ペースト食の落とし穴

「ごはんを食べてくれているのに、体重が増えていかない」という親子も多く「ごはん外来」を訪れます。

離乳食を始めた直後の生後5ヵ月くらいからガクッと体重が減ってしまって心配になるパターンがひとつ。さらには、生後9ヵ月頃に「今まで食べていたのに、急に食べなくなってしまった」と来院するケースも多々あると言います。

「私たちは、まず発育曲線のグラフで子どもたちの発育状況を診ます。これで体重・身長・頭のサイズが、ゆっくりでもいいから増えていて、かつ平均値の範囲内におさまっていれば問題ないのですが、深刻な子どもは、この折れ線グラフが、月齢が進んでも横ばいだったり、下降してしまっている。このような場合は、支援が必要になってきます」(江田先生)

なかなか体重が増えないと、大きな病院からの紹介状を持って江田先生の元へ訪れる親子も少なくありません。

「こういった『ちゃんと食べてくれているのに体重が増えない』という悩みの答えは明白です」と江田先生は言います。

「食べさせている離乳食の栄養が足りていないのです。このようなお子さんたちはいずれも水分量の多い十倍粥からスタートし、このペースト食からなかなかステップアップしていないことが多い。

残念ながら、十倍粥って栄養価がほぼないんですよ。ある5ヵ月のお子さんは、お粥の水分でお腹を満たされて、離乳食を開始したからと母乳量も減らされてしまった。となると、おのずと体重は減ってしまいますよね。

また、急に食べなくなったという9ヵ月のお子さんは、まだ七倍粥と野菜のペーストを食べていたんです。食べる意欲があっても、食べさせられてばかりでは食が進まなくなります。

とっても悲しいことなのですが、よくある一般的な離乳食マニュアルにそって進めてしまうと、陥りがちな現状なのです」(江田先生)

「ごはん外来」に訪れる、体重を増やすことを目的とした子どもたちには、母乳(ミルク)と食事でサポート。食べる意欲のある子どもには、しっかり栄養が摂れるように、ペースト食に加えて、子ども自身が自分で食べられるような食品を食べていくように伝え、摂食機能を促していくような食事を提案します。

患者の成長曲線を見ると、身長や体重、頭のサイズの変遷が分かる。適切な離乳食支援を行うと、きちんと平均値に沿って成長していくという。
写真:日下部真紀
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