
「クルミアレルギー」も“治る”を目指せる! 食物アレルギーに悩む親の新知識[医師監修]
家の環境とアレルギー #3 国立成育医療研究センター 山本貴和子先生に聞く【発症後の保護者のストレス編】 (3/3) 1ページ目に戻る
2026.08.28
国立成育医療研究センター・アレルギーセンター医師:山本 貴和子
まず、2021~2024年に、当センターで私たちが「超低用量・緩徐増量法」と呼んでいる方法でクルミやカシューナッツのナッツアレルギーの経口免疫療法(※)の治療を受けたお子さんたちのデータを調べました。
その中で、誤って食べてしまっても症状が出る心配がなく、家庭や外食で通常どおり食べられるようになり、特別に避ける必要がなくなったお子さんたちは33人(4~18歳)。この子どもたちを調査対象としました。
※経口免疫療法=専門の医療機関の指導のもと、症状の出ない決められた量を自宅で継続的に食べ、少しずつ量を増やしていきながら耐性を獲得していく治療法
約半数の子どもは過去にアナフィラキシーの経験がありましたが、数年に及び超低用量・緩徐増量法で経口免疫療法をしたところ、経過中も、全員が中等症以上の症状は出ませんでした。
そして、解析対象者の33人は、この治療期間を通じて目標値であるナッツ由来のタンパク質750mg(換算するとナッツ約5g)の耐性を獲得しています。
これは、仮に食事等に微量のナッツが誤って混入していたとしても、安心して食べられることを意味します。この量は、制限を解除する「完全治癒」の前の、段階的な目標値として設定していました。
──「治らない」と言われることが多いナッツ類のアレルギーでも、治療により耐性を獲得できている子どもたちがいるのですね。「超低用量・緩徐増量法」というのが、今回の研究のポイントなのですか?
山本先生:そうです。治療では、アレルギーの原因物質を通常よりさらに少ないナッツ蛋白0.45mg(実物のナッツでは目にも見えない砂粒程度)という「極微量」から食べ始め、数ヵ月~数年単位で「非常にゆっくり」と慣らしていきました。
この方法を「超低用量・緩徐増量法」と呼んでいます。この方法では、よく行われている従来法の経口免疫療法と異なり、負荷試験などで症状が出ずに安全に摂取できる量以下を自宅で継続摂取していきます。
病院で確認したことがない量を自宅で増量していくことは行いません。増量も負荷試験で症状の出ないことを確認してから行うので、ゆっくり、症状が出ないよう安全を第一に実施します。
もともと一般的な負荷試験でも、クルミ0.1gからスタートするため、ごくわずかな量と思われるかもしれません。しかし、WHO/FAOのデータによると、クルミアレルギーの5%の方は、0.008gが症状の出るラインとなっていますので、微量でも症状が出ることがあります。
治療中の子どもたちも、食べたことで蕁麻疹(じんましん)や、口のなかの違和感などのアレルギー症状が軽度でも出てしまうと、よい思いはしません。治療のために食べ続けていくことが嫌になってしまうんです。
特にアナフィラキシーなどの重篤な症状が出た場合は、PTSD(心的外傷後ストレス症)のような症状やトラウマにつながってしまうこともあります。
──子ども自身にとって、治療がストレスになってしまうのですね。
山本先生:そうなってしまうと、治療でもっとも大切な「継続」ができなくなってしまいます。経口免疫療法は、食べる量を「増やす」ことより、わずかな量でも楽しく症状なく「継続」することのほうが、治療効果が高いことが分かっています。
長く続けていく必要があるからこそ、食べたときに蕁麻疹の症状が出てしまうといった、嫌な思いを子どもたちがしないことが大切です。そのために、症状が出ない「極微量」「非常にゆっくり増量」という方法を提唱しています。
──卵など、ほかのアレルギーでも同じでしょうか。
山本先生:卵や牛乳などのアレルギーで重症度が高い場合なども、経口免疫療法を行います。
卵と乳の即時型の食物アレルギーに関しては、従来の経口免疫療法の量の100分の1の極微量からスタートし、10分の1で維持する方法が、安全性や有効性が高いという結果が私たちの研究で出ています。量の多さよりも、継続性のほうが重要です。
食物アレルギーがある場合は自己流で行うのではなく、必ず医療機関の管理下で行うようにしてください。
耐性を獲得して食べられるようになった後も、再びアレルギー症状が戻らないように、意識的に食事等で原因物質のナッツを取り入れ、定期的に摂取を続ける必要があります。
──時間がかかったとしても、「よくなっていく道もある」と思えるのは、精神的にも大きいですね。最後に、食物アレルギーの子どもがいる子育て世代にメッセージをお願いします。
山本先生:ナッツ類を含め、食物アレルギーは重症度にかかわらず、専門の医療機関のもと、少しずつ摂取を続けることで治していける時代になってきています。あきらめず治療を進めて、大人になる前にお友だちとアレルギーの心配なく食事などを楽しめるようになってもらいたいと思います。
まずは誤食によるアナフィラキシーの心配がいらないところを目指していきましょう。少量摂取を続けることは、アナフィラキシーのリスクを下げることにもつながります。
こうした意味でも、保護者が忙しいとなかなか治療を続けるのは大変です。育児ストレスが増加しやすい傾向もあるため、当センターでも実施していますが、医療機関等の食物アレルギーの電話相談を活用したり、主治医と相談しながら負担なく続けてもらえるとよいですね。
◇ ◇ ◇
3回の記事を通じて、ナッツアレルギーを中心に、生活環境と食物アレルギーについて専門家にお話を伺いました。
子育てに加えて、食物アレルギーへの配慮となると保護者の負担も増えますが、発症予防法や新たな治療の進め方など、希望が見えるお話もたくさんありました。
まずは子どもと一緒に、できることから始めてみてはいかがでしょうか。(注:食物アレルギーを発症しているお子さんは、自己判断で摂取を開始せず、必ず医師の指導の下で行ってください)
取材・文/原田美咲
<国立成育医療研究センターからのお知らせ>
「超低用量・緩徐増量法」の治療は、当センターでも実施していますが、まだ一般的な治療ではなく、限られた医療機関でのみ実施されています。もし治療を希望する方は、メールでお問い合せをいただければ、同じような治療を行っている医療機関を紹介します。
●国立成育医療研究センター アレルギーセンター事務局
info_allergy@ncchd.go.jp
※回答までに時間がかかる場合があります。

原田 美咲
地域情報紙の記者を経て、2025 年からフリーライターに。これまでは地域の取り組みや活躍する子どもたち、選手への取材・インタビュー等を中心に、広いテーマで執筆。趣味は段ボール工作。
地域情報紙の記者を経て、2025 年からフリーライターに。これまでは地域の取り組みや活躍する子どもたち、選手への取材・インタビュー等を中心に、広いテーマで執筆。趣味は段ボール工作。



































山本 貴和子
山口大学医学部医学科卒業(2003年)、愛知医科大学大学院医学研究科医学博士(2016年早期修了)。 現在(2026年8月)、国立成育医療研究センター・エコチル調査研究部チームリーダー、アレルギーセンター行動機能評価支援室室長(総合アレルギー科診療部長併任)。 国立高度専門医療研究センターの一つで、小児・周産期・女性医療を専門とする国立成育医療研究センターに2009年から所属。免疫アレルギー学や小児科学等を専門に小児アレルギー疾患の診療を行うほか、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などに関する研究や正しい知識の普及に取り組む。これまで、国内外で数多くの論文や研究結果を発表している。 これまでの研究業績、論文、学会発表等の詳細はresearchmapを参照。 (https://researchmap.jp/0000-0003-1288-9620)
山口大学医学部医学科卒業(2003年)、愛知医科大学大学院医学研究科医学博士(2016年早期修了)。 現在(2026年8月)、国立成育医療研究センター・エコチル調査研究部チームリーダー、アレルギーセンター行動機能評価支援室室長(総合アレルギー科診療部長併任)。 国立高度専門医療研究センターの一つで、小児・周産期・女性医療を専門とする国立成育医療研究センターに2009年から所属。免疫アレルギー学や小児科学等を専門に小児アレルギー疾患の診療を行うほか、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などに関する研究や正しい知識の普及に取り組む。これまで、国内外で数多くの論文や研究結果を発表している。 これまでの研究業績、論文、学会発表等の詳細はresearchmapを参照。 (https://researchmap.jp/0000-0003-1288-9620)