教育移住者が7割 日本初のイエナプラン小学校「大日向小」を選んだ理由

シリーズ「教育移住」#2「学校法人茂来学園 大日向小学校」前編

ライター:片岡 由衣

長野に移住してからの子どもたち。秋は紅葉した落ち葉で遊ぶのに夢中になります。 写真提供:上岡美里

「主役は子ども」を前提に 移住に向けて家族を観察

いくら上岡さんがイエナプラン教育を素晴らしいと考えていても、移住となると、家族それぞれの考えがあります。

「やっぱり主役は子どもです。私自身が子どものころに何度か転校を経験して、暖かいところから寒いところに急に環境が変わって嫌だった記憶もあったので、まずは子どもたちの意見を聞きました。

小3の次女と小1の三女は年齢的にも新しい学校にすぐなじめるかなと思っていましたが、小6の長女が嫌だと言ったら、あきらめるつもりでした」(上岡さん)

上岡さんが子どもたちに学校のことを伝えると、3人とも「大日向小に行きたい! 」と答えました。それでも、まだ長女への心配の気持ちがあったと言います。

「長女は小さい頃から自然が好きな子でした。私の実家は長野県伊那市で、毎年帰省をしていましたが、『長野に住みたいなあ』とも言うほどで。でも私は、ないものへの憧れなのかなと思っていたんです。

長野出身の私がずっと東京へ憧れていたように、一時の憧れなのでは? と思って、慎重に長女の様子を見ていました」(上岡さん)

移住を考え始めてから、何度も長野へ足を運び、オープンスクールや説明会に参加。子どもたちは「絶対に大日向小がいい!」とどんどん熱意を増していきました。

一方、上岡さんご夫婦は会社を経営し、企業や個人、学習塾などへ向けてコーチングサービスや研修講師など幅広い仕事をしています。家族にとって移住が本当に良いことなのか、迷いがあったと話します。

「当時のお客様は皆さん東京でした。新幹線で1時間ほどとはいえ、仕事面の不安がありました。私も長野出身とはいえ東京での生活の方が長くなっていたし、夫は東京で生まれ育ち、地方で暮らした経験がありません。

それに、子どもの『行きたい』は一過性の可能性もあって、今は良い面しか見えていないだけかもしれない、との迷いもありました」(上岡さん)

しかし、上岡さんの決意を確かなものにしたのは、長女でした。

「長野からの帰り道、紅葉が綺麗で山が赤く染まっていました。車の窓から眺めていた長女が『山がすごいよ!  ヤバいよ!』って言ったんです。

ヤバいよってイマドキの子だなあと思いながらも(笑)、長女のあまりにうれしそうな表情を見て驚きました。

私が夕陽をきれいだと感じたのは、20歳過ぎてからだったんじゃないかな。紅葉を美しいと話す長女の感性を見て、移住してもやっていける、大丈夫だと思えました」(上岡さん)

黄金に輝く稲穂の風景。「この世の中でいちばんきれいなものって何か知ってる? 自然だよ」と次女が話してくれたことがありました(上岡さん)。 写真提供:上岡美里

この時点で、入学まで半年ほど。2018年の12月に入学説明会に参加し、翌年1月に正式なエントリー。

12月の説明会の時点で「2019年4月開校予定ですが、認可が降りなかったら開校できない可能性もあります」と説明を受けるなど、新しい学校ならではのドタバタな日々でした。

面談を経て、無事、3姉妹の入学が決まりました。

「学校は、全校で30名も来ればいいかな、と目標人数を考えていたようなのですが、実際は75名。ほとんどが移住者です。

もともと『イエナプランの学びを子どもたちに贈りたい』と思っていたことと、大日向小の理事・中川綾氏を尊敬し応援していたこともあり、大日向小への期待や安心感は移住が近づくにつれ、高まりました」

大日向小の理事が設立の経緯と方法を記した『あたらしいしょうがっこうのつくりかた』(著:中川綾/星雲社)。

「夫は海が好きで釣りや登山をしていましたが、長野で暮らすのはあまりピンと来ていない様子でしたね。夫は東京に残ってもいいかな、とも考えましたが、娘たちの『お父さんも一緒がいい!』の言葉に押されて、家族みんなで移住しました。

東京での環境に不満や不安を抱えたまま過ごすよりも、動いてみてから考えよう、との思いが強くて。ダメなら戻ればいいや! とも思っていました」(上岡さん)

心配や不安を抱えながらも、長年願っていたイエナプランの学校へ娘たちを通わせるため、長野への教育移住を決めた上岡さん。移住前は「なんで長野? 海もないし……」と話していた夫も、6月には「長野って最高!」と言うまでに変化したと言います。

さて、移住後はどのような学校生活や暮らしが待っていたのでしょうか。後編では3姉妹の学校生活などについてお伝えします。

取材・文/片岡由衣

※「大日向小学校」のある長野県佐久穂町へ教育移住した上岡美里さんへのインタビューは全2回。後編は2022年6月8日公開予定(公開までリンク無効)です。
#2 「夏休みなんていらない!」イエナ小学校に入った三姉妹の驚く変化

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かたおか ゆい

片岡 由衣

ライター

ライター。東京都出身、竹富島在住。東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社にて広報やイベント企画に携わる。3人子育ての発信を続けるうちにライターへ。 積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた児童館のような家で暮らしている。いつも片付かないのが悩み。 朝日新聞社「おしごとはくぶつかん」や小学館「kufura」など、メディアや企業サイトで取材記事やコラムを執筆中。 Instagram Twitter

ライター。東京都出身、竹富島在住。東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社にて広報やイベント企画に携わる。3人子育ての発信を続けるうちにライターへ。 積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた児童館のような家で暮らしている。いつも片付かないのが悩み。 朝日新聞社「おしごとはくぶつかん」や小学館「kufura」など、メディアや企業サイトで取材記事やコラムを執筆中。 Instagram Twitter