低出生体重児は「母子手帳」には何も記録できない…ママやパパを救う「リトルベビーハンドブック」のリアル
小さな赤ちゃんに寄り添う手帳「リトルベビーハンドブック」#1 ~リトルベビーハンドブックとは?~
2023.08.17
国際母子手帳委員会事務局長:板東 あけみ
妊娠がわかり、初めての妊婦健診の際に保健師から渡される母子健康手帳(以下略:母子手帳)。手にしたときに、自分のお腹の中に命が宿っているのだと改めて実感したというママも多いことでしょう。
ただ、この存在に人知れず悩まされ、心を痛めているママもいます。
※1回目/全4回
新生児の10%は2500g以下で生まれる低出生体重児
「母子手帳は見るのも嫌でした。なんでこんなに傷つけられないといけないのかと、見るたびに悲しみと怒りが湧き上がってきていました」
こう語るのは、5年前(2018年)、妊娠22週目で493gの男の子を出産した栃木県に住む小林恵さん。
恵さんは、出産当初、我が子の成長を記入しようと何度となく母子手帳を開きました。
しかし、そこには493gの小さなわが子の体重や身長を記入できる目盛りがありませんでした。何も書くことができず、ため息をついて、ときには涙を流して母子手帳をそっと閉じたそうです。
恵さんのような低出生体重児や極低出生体重児の家族にとって、我が子の成長を記入し、喜びを感じられるはずの母子手帳は、ときに苦しみや悩みを増長させるものになるのです。
そんな低出生体重児や極低出生体重児(=リトルベビー)に寄り添うための“リトルベビーハンドブック”と呼ばれる手帳があるのを知っていますか?
現在、日本国内で出生数は減少しているものの、それに反比例する形で低出生体重児・極低体重出生児の割合は増えており、新生児の約10%が低出生体重児です。
低出生体重児とは、体重が2500g以下で生まれた新生児のことで、さらに低い体重(1500g以下)で生まれた場合は極低出生体重児とされています。極低出生体重児の割合は、全体の0.7%になります(※1)。
※1=「低出生体重児保健指導マニュアル」みずほ情報総研株式会社
低出生体重児・極低出生体重児は、出産時に母子ともに多くの危険を伴うほか、成長過程においても発達がゆっくりであったり、のちに障がいを抱える場合も少なくありません。
心配要素はたくさんあるものの、全出生児での割合が少ないこともあり、社会的なフォローや理解が十分ではないのが現実です。
リトルベビーハンドブックは全38都道府県で発行
そのような社会状況の中で、立ち上がったのが自ら低出生体重児や極低出生体重児の親として子育てをしてきたママたちです。リトルベビーサークルを発足させ、全国各地でリトルベビーの親子などを対象に支援活動をおこなっています。
その活動のひとつとして制作したのが、“リトルベビーハンドブック”です。母子手帳のサブブックとしての役割を果たし、またリトルベビーのママたちにとって心のよりどころとなっています。
2011年に初めて静岡県のリトルベビーサークル「ポコアポコ」が当事者として制作し、2023年8月現在では38都道府県で発行。まだ発行していない県でも制作が検討されるまでに拡がっています。
全国のリトルベビーサークルの活動をサポートしているのが、国際NGO国際母子手帳委員会事務局長・板東あけみさんです。事務局では日本スタイルの母子手帳の国際的普及を目指しています。事務局に所属する以前に板東さんは、長年小学校教員を務め、特別支援児への教育を専門としてきました。
そんな板東さんがリトルベビーサークルのサポートを始めたのは、「ポコアポコ」が作ったリトルベビーハンドブックがきっかけでした。
「もともとサークルの存在は知っていたのですが、そこでハンドブックを作られたと聞いて、すぐに会いに行きました。それで、この活動は全国に拡げなければならないと思って、全面的にサポートさせてもらうようになりました」(板東さん)
そこで知ったのはリトルベビーを産んだママたちの苦しみと孤独でした。
「リトルベビーのママたちは、産後自分をとても責めるのです。“私のせいで小さく産んでしまってごめんね”と。生後すぐに、保育器に入れられて、体中にたくさんの管をつけられている我が子を見て、涙を流しながら自分を責める。
リトルベビーは、命の危険にさらされていることも多いのですが、人数が少ないこともあり、周りに悩みを打ち明けられる人がいない。そしてふさぎ込んでしまうママがとても多いんです」(板東さん)
そんなときに、ぜひ手に取ってほしいのがリトルベビーハンドブックだと板東さんは語ります。
「リトルベビーハンドブックは、実際にリトルベビーの子育てをしてきたママたちが“自分たちと同じような孤独や苦しみを感じる人を減らしたい”という思いから生まれました。
母子手帳のサブ的な役割を果たすもので、通常の母子手帳ではフォローが難しいリトルベビーたちの成長記録を残していけるものです」(板東さん)