長谷川さん:『杉森くんを殺すには』を書いたときに、巻末の解説を書いてくださった臨床心理士・公認心理師の高橋恵一さんに、自傷している人への声のかけ方を教えてもらいました。そして、「これはきちんと書かねば」と思い、本の中に盛り込んだのです。それが誰かの助けになればうれしいです。
──「誰か」というのは、どんな人でしょう。
長谷川さん:『杉森くんを殺すには』なら、主人公のヒロのような立場の子たちですね。
この本は苦しんでいる友だちのまわりにいる人に向けて書いたのです。まわりの人たちが、「こんなときどうしたらいいの? そういえば『杉森くんを殺すには』では、こう対処していたな」と思い出してくれればと思います。
──児童文学作家で、野間児童文学賞選考委員の富安陽子さんが、選評でこうおっしゃっています。
「……友だちの死をどうやって乗り越えるか。そのときにヒロがとった手段は、自分が作り上げた虚構の中で、もういちど友だちの死を認識し直し、再定義し、なんとか受け入れようとする。そうやって前に進んでいこうとするヒロの物語でした。ともすれば、ヒリヒリと重く暗くつらい話になるはずの物語を、よくここまで軽やかに明るい希望を持って書かれたものだと、まず感服しました。
読み終わったときに、身構えていたはずの肩から力が抜けて、『ああ、面白かった』という気持ちに心が満たされる、そんな作品でした。これはたぶん、長谷川さんの緻密に組まれた構成力と、ほんとにテンポのよいセンスのよい言葉の選び方と、そういう文章力があったからだと思います。若い書き手の新しい才能に出会えたことをほんとうにうれしく思っています」(第62回野間児童文芸賞・贈呈式のスピーチより)
誰かの助けになると信じて
──始めに読んだときには、次々と明かされる事実に振り回されるばかりでしたが、2回目に落ち着いて読み直してみると、たくさんの伏線や奥行きに気づいて、再読したときのほうが面白かったです。いろいろな世代の人の心に響くお話だと思いました。
長谷川さん:私は『杉森くんを殺すには』を子ども向けと思って書いていないんです。ヤングアダルト文学としてこの話を書きました。
ヤングアダルト(YA)は、中高生やティーンエイジャー(12~18歳)向けとされていますが、私は20代前半の大学生くらいまでをヤングアダルトの対象だと思っています。
ヤングアダルトの対象は、「自分のことを子どもとは思っていない人」だといいます。もしも作者が子ども向けとして意識して書けば、読者にはすぐにわかってしまうでしょう。ですから、私はいつも子ども向けではなく、若者向けを意識して書いています。
「児童文学は卒業した」と思っているヤングアダルト世代に、ぜひこの分野を知ってもらいたいと思っています。
──『杉森くんを殺すには』の読者に伝えたい想いがありますか。
長谷川さん:この本には、私が友人の死を経験した大学生の頃に「知りたかったこと」を全部書きました。きっと誰かの助けになると信じています。そして、これからも「必要な人に読んでもらえること」を願っています。
──これからどんな作品を書いていきたいですか。
長谷川さん:面白い作品を書くことを第一に精進します。そして、幅広い世代に向けた作品を書いていきたいと思っています。
──読み終わってからも、心の中で反芻するような作品でした。きっと多くの読者に長く愛される本になると思います。貴重なお話をありがとうございました。
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長谷川まりるさんにお話を伺う連載は前後編。前編となる今回は、第62回野間児童文芸賞を受賞した『杉森くんを殺すには』についてお聞きしました。後編では、作家への道のりと創作のアドバイスについてお聞きします。
【野間児童文芸賞】
児童を対象として創作された小説・童話・戯曲・ノンフィクション・詩・童謡・その他で、選考対象期間中に新聞・雑誌・単行本等で新しく発表された作品を対象とした賞。財団法人野間文化財団が1963年から設けた文学賞で、「野間4賞(野間文芸賞、野間文芸新人賞、野間児童文芸賞、野間出版文化賞)」のひとつ。
撮影/市谷明美
高木 香織
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。
長谷川 まりる
長野県生まれ、東京育ち。『お絵かき禁止の国』で第59回講談社児童文学新人賞佳作を受賞、同作で講談社よりデビュー。『かすみ川の人魚』(講談社)で第55回日本児童文学者協会新人賞受賞。『杉森くんを殺すには』(くもん出版)で第62回野間児童文芸賞受賞。その他の作品に『満天inサマラファーム』(講談社)、『キノトリ/カナイ 流され者のラジオ』(静山社)、『砂漠の旅ガラス』(小学館 絵も担当)がある。
長野県生まれ、東京育ち。『お絵かき禁止の国』で第59回講談社児童文学新人賞佳作を受賞、同作で講談社よりデビュー。『かすみ川の人魚』(講談社)で第55回日本児童文学者協会新人賞受賞。『杉森くんを殺すには』(くもん出版)で第62回野間児童文芸賞受賞。その他の作品に『満天inサマラファーム』(講談社)、『キノトリ/カナイ 流され者のラジオ』(静山社)、『砂漠の旅ガラス』(小学館 絵も担当)がある。