麗美
「びっくりさせてごめんなさい。それに送ってくださるなんて、本当に助かります。」
葉山麗美(はやま・れみ)と名乗ったその女性は、キリさんたちと同年代くらいに見えた。道の駅の商店で買いこんだ食材の重みでよろけ、車にぶつかったという。
転んだはずみに足をひねったらしく、なかなか立ち上がれない麗美さんに、マッキーは紳士らしく「家まで送りましょう。」と手を差し伸べたのである。
マッキー
「いや~、はねたと思ってビビりましたよ。ちょうど車を発進させた瞬間だったから、やっちまったかと。八街(やちまた)だけに。ははは!」
麗美
「マッキーさんっておもしろい人ですね。」
麗美さんはマッキーのダジャレに小さく笑うと、大きな瞳をクルンと動かした。
麗美
「お礼と言ってはなんですけど、車中泊なさるつもりでしたら、うちに泊まりませんか? わたしの家は旅館なんです。もちろん料金はいりません。」
マッキー
「え? いいんですかぁ?」
マッキーはあからさまにデレデレしている。
「ご遠慮なく。部屋は空いてますから。古いけど居心地はいいですよ。すぐに両親に連絡を入れますね。道案内はわたしがします!」
後部座席でこのやりとりを聞いていたキリさんは、麗美さんに落花生の袋を「食べますか?」と差し出した。
マッキーは「バカだな、地元の人にそんなもの……。」とブツブツ言ったが、麗美さんは「ありがとうございます。」とにっこりした。
キリさん
「さっき食堂でもらったんですよ。昼間も、鈴なりの落花生がゆれている畑の脇を通ったもんだから、食べたいなと思ってたところで。」
麗美
「ちょうど今が旬ですもんね。」
麗美さんはそう言いながら落花生を口に入れ、「ふたつ先の交差点を右折です。」とマッキーに告げた。
キリさんは3つせきばらいをした。
これはマッキーとの間の「緊急事態発生」の合図である。
キリさん
「すみません、ぼく、急にお腹の調子が悪くなっちゃって。マッキー、そこのガソリンスタンドで停めてくれ!」
【Q】
キリさんはこの女性を〈怪力乱神〉の一味とにらんだ。なぜか。