この非常時につまらないことでけんかするのは得策ではない。
キリさん
「おい、どうした?」
キリさんが声をかけると、マッキーは深刻な顔で腹をさすっている。
マッキー
「至急トイレを見つけてくれ! 急に下りてきた。うぅ~ヤバい。」
キリさんは青ざめた。「下りてきた」と言うところを見ると大のほうだろう。
キリさん
「わかった、頼むからガマンしてくれよ!」
数分後、キリさんは「道の駅」の駐車場に車を停めた。道の駅とは一般道にある休憩施設で、飲食店やショップなどが併設されている。
キリさん
「やれやれ、間に合ったか!」
キリさんは大きく息をはいたが、マッキーは急いで車を飛び出すかと思いきや、ゆったりのびなんかしている。キリさんはまゆをひそめた。
キリさん
「おまえ、まさか……。」
マッキー
「へへへ、作戦大成功。この程度の芝居にだまされるなんてキリさんもまだまだだね。ここの食堂で食っていこうぜ。」
さて、ふたりがイノシシ肉のみそ焼き定食をぺろりと平らげると、店員のおばさんがお茶のおかわりを注ぎながら愛想よく話しかけてきた。
店員のおばさん
「おいしかった? この辺じゃ野生のイノシシが増えててね。捕獲したイノシシを千葉の新しい特産品にしようって力を入れてるのよ。」
キリさん
「とてもおいしかったですよ。」
キリさんが言うと、おばさんは「あら、お客さんイケメンねぇ。」と目を細めた。
そして、おばさんは奥からいそいそと何か出してきた。
店員のおばさん
「これ、よかったらどうぞ。開けたら早めに食べてね。」
キリさん
「落花生ですか。ありがたくいただきます!」
にこやかな笑顔に見送られ、ふたりは食堂を出た。
キリさん
「マッキー、運転代わってくれ。」
キリさんは助手席に座ると、さっそくレトルトパウチの袋を開ける。
キリさん
「うまいよなぁ。さすがは千葉県。落花生の名産地。」
マッキー
「何それ。ピーナッツだよな?」
キリさん
「ゆでピーナッツだよ。食ったことない?」
キリさんが茶色いうす皮のついた落花生を空中に一粒はじくと、マッキーは上手に口でキャッチする。
キリさん
「おみごと。マッキーってホントにどうでもいいことはなんでもうまいよな。」
マッキー
「うるせぇ。なんだこれ……ゆでたピーナッツって初めて食べたけどホクホクしててめちゃうまいじゃん。で、これからどうするんだ?」
キリさん
「この駐車場は仮眠ならOKだけど、朝まで寝る『宿泊』は禁止なんだ。河原とか……風呂がついてる車中泊施設を探すかなぁ。」
マッキー
「河原はやだね! オレは絶対風呂に入る!」
マッキーが車を発進させようとしたとき。
ドンッ! 何かが車にぶつかったので、マッキーはあわててブレーキをかけた。
マッキー
「なんだ? イノシシか?」
キリさんが窓から外を見下ろすと、そこには人が倒れていた。