平原依文が中国で出会った「忘れられない先生」農業高校の生徒と取り組んだSDGs

社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える 第2回

編集者・ライター:山口 真央

小学2年生から単身で、中国に留学した経験を持つ、社会起業家の平原 依文(ひらはら いぶん)さん。

自身の経験を生かし、テレビのコメンテーターとして活躍するほか、SDGsの観点から、全国の子どもたちに「自身の力で問題を考える方法」を伝える授業をおこなっています。

シリーズ「社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える」では、そんな平原さんの授業内容を紹介。また、平原さんが経験してきた留学先での出来事や、青年版ダボス会議とも呼ばれる「One Young World」に参加して感じたことを伺います。

第2回は、中国留学で経験したとある出来事と、SDGs目標「貧困をなくそう」を考える授業内容お話しいただきました。

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中国の先生が「アジアの歴史を振り返る会」を開いてくれた

メキシコ留学中の平原依文さん(左)がホストブラザーと撮影した写真。

小学2年生で中国に留学できたのは、正直なところ、リスクを知らなかったから。実際に中国に行くと、大変なことは、たくさんありました。

通ったのは現地の中国人が通っている小学校で、まったく言語がわからない。テストで10点や5点をとるのは当たり前で、まわりの生徒からも白い目で見られる始末。円形脱毛症になるほど、ストレスを抱えてしまいました。

そんなときに手を差し伸べてくれたのが、担任の先生。おいしいご飯を食べさせてくれたり、私の好きな日本のアニメの中国語版を見せてくれたりと、いろいろな形で親身になってくれました。

中国に留学中の平原依文さん(左)。

アニメで少しずつ中国語を覚えた私は、徐々に現地に馴染んでいきました。

ある日、歴史の授業をうけていて、ふと「これは中国からみた歴史だけど、他の国からみるとどうなんだろう?」と疑問に思いました。先生に尋ねたところ、じゃあ実際に聞いてみよう、と。なんと先生は、中国にある韓国人、台湾人学校に呼びかけ、週に1回「アジアの歴史を振り返る会」が開いてくれました。

その時間を通して知ったのは、アジアの歴史は、国によってまったく違うストーリーで教えられていることです。私は驚くのと同時に、発見をしていくこと自体に喜びを感じました。当たり前の世界なんてない、もっと広い世界をみたい、という気持ちが、よりいっそう強くなりました。

最初は5人程度からはじまった小さな会が、徐々に人数を増やしていき、最終的には大人数の会に発展しました。その後、青年版ダボス会議に参加することになる私の、原体験と言える出来事です。

農業高校の生徒がつくった農家の「顔」が見える資料

私が歴史の授業で感じたときのように、これからの子どもたちには、当たり前のことにいつも疑問を持ってほしいと思います。

「当たり前」という思考を持つことは、自分を縛ってしまう。「これはどうして、こうなっているの?」と思考をとめないことが、成長につながると考えています。

私は全国の子どもたちに向けておこなっているSDGsの授業でも、自分で考える力を養う時間になるように心がけています。農業高校の授業では、子どもたちのアイデアが、地域の農業や観光に貢献する結果となりました。

北海道のニセコにある農業高校の生徒さんには、『おはなしSDGs 貧困をなくそう みんなはアイスをなめている』を事前に読み、身近な貧困について考えてきてもらいました。

そして世界には、奴隷制度のなかで農業をしている国があることを伝え、なぜ農業の職業価値が低見積もられるのか、そして農業で稼いでいくには、どうしたらいいのかを、みんなで議論しました。

『おはなしSDGs 貧困をなくそう みんなはアイスをなめている』
作:安田夏菜/絵:黒須高嶺

あらすじ

小学6年生の陸(りく)は、3年生の妹と母親と3人暮らし。父親は陸が小2のときに、いなくなってしまいました。

ある日、テレビを見ていると、やせた外国の子どもたちが映りました。汚れた水を飲んで、病気になれば簡単に命を落としてしまう子どもたち。陸の妹の美波(みなみ)は、そういう子どもと自分を比べて「うちは貧乏なんかじゃない!」と言います。でも、陸はモヤモヤをかくせません。

陸の母親は、腰が悪く、パートで働いています。安月給ですから、陸と美波の給食費や学童保育のお金を払うことができません。兄妹は毎日、500円玉を握りしめ、スーパーのお総菜売り場に夕食の買い物に行っています。

ある日、美波が歯が痛くなったことから、少しずつ陸の気持ちはとめられなくなっていって……。

ある生徒さんからは、農家の苦労が伝わっていないからじゃないか、という発言があがりました。たしかに農業は天候によって収穫量が左右されるし、労働時間も長く、体力的に厳しい仕事だとされています。

また、ひとつの野菜ができるまでには、語るべき物語がたくさんあります。そこで、そのプロセスを消費者に伝えたら、農作物の価値を上げることができるのではないかと、生徒さんたちの議論は進んでいきました。

授業を終えたあと、生徒さんたちは近くの農家をまわり、農業をはじめた理由や、心がけていることを聞いて、ひとつの資料としてまとめたそうです。

ニセコ近くにある野菜の直売所では、生徒さんたちがまとめた資料を見ることができます。農家さん一人一人の背景を知ることで、消費者に「こんなに思いのこもった野菜なんだ」と伝える内容になっています。

農業高校の生徒さんは、自分たちにとって「当たり前」と思っていたことを、改めて考えた結果、自分たちの将来の仕事の価値を高めることになりました。

みなさんも『おはなしSDGs 貧困をなくそう みんなはアイスをなめている』を読んで、身近な労働賃金について、考えるきっかけにしてほしいと思います。

農業高校での授業風景。

平原 依文(ひらはら いぶん)
HI合同会社代表。小学2年生から単身で中国、カナダ、メキシコ、スペインに留学。東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、デジタルマーケティングを担当。その後、組織開発コンサルへ転職し、CMOとしてマーケティングを牽引しながら、広報とブランドコンサルティングを推進。「地球を一つの学校にする」をミッションに掲げるWORLD ROADを設立し、世界中の人々がお互いから学び合える教育事業を立ち上げる。2022年には自身の夢である「社会の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を設立。SDGs×教育を軸に、国内外の企業や、個人に対して、一人ひとりが自分の軸を通じて輝ける、持続可能な社会のあり方やビジネスモデルを追求する。青年版ダボス会議 One Young World日本代表や、教育未来創造会議(内閣官房)構成員も務める。2021年度のForbes JAPANには 「今年の 100人」に選出された。

平原依文さんは中国留学中に、アジア各国の人と議論するという貴重な体験をされました。その原体験が「社会の境界線を溶かしたい」という現在の夢へと繋がっています。

「社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える」第3回は、7月2日公開です。

写真提供/平原依文

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。