「女性は医者NG」!? 小2で単身中国留学・平原依文が「SDGs授業」でジェンダーを考える

社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える 第1回

編集者・ライター:山口 真央

小学2年生から単身で、中国に留学した経験を持つ、社会起業家の平原 依文(ひらはら いぶん)さん。

自身の経験を生かし、テレビのコメンテーターとして活躍するほか、SDGsの観点から、全国の子どもたちに「自身の力で問題を考える方法」を伝える授業をおこなっています。

シリーズ「社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える」では、そんな平原さんの授業内容を紹介。また、平原さんが経験してきた留学先での出来事や、青年版ダボス会議とも呼ばれる「One Young World」に参加して感じたことを伺います。

第1回は、中国に留学したきっかけと、奨学金集めに苦労した話、そしてSDGs目標「ジェンダー平等を実現しよう」を考える授業内容について、お話を聞きました。

強くなりたいという思いから、小学2年生で中国に単身留学

社会起業家の平原依文さん。

小学2年生のときに、単身で中国に留学したのは、ある出会いがきっかけでした。

保育園に通っていたころ、友達からいじめにあっていました。でも、なぜ自分がいじめられているのか、ずっとわからなかった。声を上げることもできず、耐える日々が続きました。

小学生になってもいじめは続きましたが、あるとき、いじめのターゲットが、私から中国人の女の子にかわったんです。その中国人の女の子はいじめられても、友達に明るく話しかけ、嫌だと思うことははっきりと表現していました。その姿に、私は心を打たれました。

あるときから「中国に行ったら、私も強くなれるかもしれない」と考えるようになりました。母に頼み込んで、二人で中国を旅することになったんです。

中国は思った通り、感情豊かで、喜怒哀楽がはっきりとした人々が暮らしていました。1週間の旅の予定だったのに、私は「ここで暮らしてみたい」と、母に相談。

母は驚きながらも、シャープの電子辞書を片手に、1週間をつかって現地の学校を一校一校アポなしで訪問し、最終的に見つけた学校で留学を認めてくれました。

スペイン留学中の平原依文さん(右)。

小学2年生で中国に渡ってから、12歳でカナダ、16歳でメキシコ、21歳でスペインと、さまざまな国で留学を経験しました。そう話すと、裕福な家庭だと思われるのですが、一人親だったこともあり、お金のやりくりには苦労したんです。

中学生になるとき、母に次はカナダに留学したいと相談すると「ママは依文のために貯めた貯金が、これぐらいある。これでやりくりしてほしい」と通帳を見せられました。

中国留学の費用は、ホームステイ代なども含めて年間30万円程度(当時)でおさまりましたが、カナダの学費は、そうはいきません。母の用意してくれた貯金額は、どう計算しても、何年もカナダ留学をするのは難しい額でした。

母を苦労させたくないと思った私は、お金がかからずに留学できる方法を徹底的に調べました。カナダ大使館に行って、返済しなくてもいい奨学金について聞いたり、インターネットで企業のおこなう奨学金を調べたり。自分なりのやり方で、ベストな方法を見つけました。

いま、子どもたちに授業するとき「先生これであっていますか」と、よく聞かれます。アイデアや夢を尋ねたときも、そう問われることが多い。日本は「正解」が用意された教育ばかりだと感じ、そのたび心が痛みます。

私の授業では、どんな議題でもなるべく自分の力で、結論を導いてもらうようにしています。私は何を聞かれても「どうしてだろう?」と共感するだけ。自分の力でこたえに到達する経験が、かけがえのないものだと知っているからです。

お医者さんになれなかった「お母さん」からジェンダー平等を考える

4ヵ国への留学や、青年版ダボス会議に参加した経験を生かし、私は全国の子どもたちに向けて、SDGsの授業をしています。

SDGsとは「人類がこの地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき目標」です。「貧困をなくそう」、「ジェンダー平等を実現しよう」など17の目標を掲げていますが、目標を聞いただけでは、子どもたちが自分ごととして考えることはできません。

そこで私が助けられたのが、SDGsの掲げる目標を物語のなかで提示する、シリーズ「おはなしSDGs」です。授業で扱いたいテーマが描かれた物語を、事前に子どもたちに読んでもらうことで、課題の解像度をあげてもらっています。

都内の公立小学校に通う、1年生から3年生の子どもたちには、ジェンダーについての授業をおこないました。

子どもたちには、事前に『おはなしSDGs ジェンダー平等を実現しよう すし屋のすてきな春原さん』を読んでもらい、1週間のうちに出会った大人の、職業と性別をリストアップしてきてもらいました。

『おはなしSDGs ジェンダー平等を実現しよう すし屋のすてきな春原(すのはら)さん』
作:戸森しるこ/絵:しんやゆう子

あらすじ

小学生の小林 伝(こばやし でん)は、お父さんに回らないお寿司屋さんに連れてきてもらいました。そこで女性寿司職人の春原(すのはら)さんと出会います。女性寿司職人の春原さんは、礼儀正しくて、とっても素敵な人でした。

ある日の学校で、クラスメイトの海江田 美緒(かいえだ みお)は、自分の夢が寿司職人であることを明かしました。しかし、他のクラスメイトから夢を否定されてしまいます。

伝は勇気をだして海江田さんを誘い、春原さんのお店へ、お父さんに連れていってもらうことにしたのです。はたして伝と海江田さんは、春原さんと話すことで、どんな発見をするのでしょうか。

授業当日、子どもたちにリストを見せてもらうと、職業によって性別に偏りがあることがわかりました。たとえば、学校の事務職員さんは女性が多い。消防士さんは男性ばかりだ、と教えてくれる生徒さんもいました。

リストを発表するたび、子どもたちは驚きの連続で、授業は大盛りあがり。そこで「どうして職業によって性別に偏りがでるのか、考えてみよう」とうながしました。

一人の生徒さんが、学校などで出会うトイレ清掃の人は、女性が多いけれど、昔はどうだったんだろう、とインターネットで調べていました。すると昔の日本では、糞尿を肥料として売っていた時代があることが発覚。しかも、その仕事をしているのは、男性ばかりだったんです。

どの時代から何をきっかけに、トイレのお手入れをする人がかわったのか、その生徒さんは最後まで熱中して調べていました。自分なりの観点から、どんどん新しい事実がわかっていく様子は、とっても楽しそうに見えました。

公立小学校での授業風景。

私立の小学校5、6年生にも、同じジェンダーの授業をしたことがあります。

その学校はたまたま、お父さんがお医者さんの生徒さんが多い学校で。それを知った私は「どうしてお医者さんは男の人が多いんだろう? 帰ったら、ご両親に聞いてみよう」という問いを投げかけてみました。

すると、ある女性の生徒さんから、おもしろい感想が届きました。その生徒さんがご両親に話をすると、お母さんから「実は、お母さんはお医者さんになりたかったんだよ」と言われたというのです。

そのお母さんは、お父さんがお医者さんだった影響で、小さなころからブラック・ジャックのようなお医者さんに憧れていました。しかし、お祖父さんから「女性は医者になったらだめだ」と言われ、その道を断念したそうです。

そのことを初めて知った生徒さんは「性別で夢をあきらめてしまうのは悲しい。自分は性別にとらわれず、好きな夢を追いたい」と、感想を伝えてくれました。

子どもたちが普段、当たり前のこととして過ごしていることも、ちょっと疑問を持つことで、「当たり前」は存在しないと気づくことができます。私の授業ではこれからも、こういった身近な疑問に取り組んでいきたいと考えています。

平原 依文(ひらはら いぶん)
HI合同会社代表。小学2年生から単身で中国、カナダ、メキシコ、スペインに留学。東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、デジタルマーケティングを担当。その後、組織開発コンサルへ転職し、CMOとしてマーケティングを牽引しながら、広報とブランドコンサルティングを推進。「地球を一つの学校にする」をミッションに掲げるWORLD ROADを設立し、世界中の人々がお互いから学び合える教育事業を立ち上げる。2022年には自身の夢である「社会の境界線を溶かす」を実現するために、HI合同会社を設立。SDGs×教育を軸に、国内外の企業や、個人に対して、一人ひとりが自分の軸を通じて輝ける、持続可能な社会のあり方やビジネスモデルを追求する。青年版ダボス会議 One Young World日本代表や、教育未来創造会議(内閣官房)構成員も務める。2021年度のForbes JAPANには 「今年の 100人」に選出された。

小学2年生で、中国へ単身留学した平原さん。自分の力で道を切り開き、さまざまな「違い」を体感してきたからこそ、当たり前のことに疑問を持ち続けることの大切さを教えてくれました。

「社会起業家・平原依文さんとSDGsを考える」第2回は、7月1日公開です。

写真提供/平原依文

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生ま...