ショートアニメ化決定の大人気シリーズ「はりねずみのルーチカ」 作家と画家が二人三脚で紡いだ「癒やし」の物語

シリーズ11年目を迎えて 作家・かんのゆうこ×画家・北見葉胡のスペシャル対談

ライター:山口 真央

文と絵だけでなく地図や音楽まで 広がる「ふたり」の物語

かんのさんが「ルーチカ」のモデルにしたアンティークのぬいぐるみ。物語を描くときはいつも、かんのさんの側にいるという。
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──「はりねずみのルーチカ」シリーズに登場するキャラクターや、お話をどのようにつくったのか、教えていただけますか。

かんの:「はりねずみのルーチカ」の文章は私が書いているとはいえ、ふたりで考えた部分も多いんです。たとえば、キャラクターは葉胡さんが作品の中で描いていた子を、何人か登場させました。

北見:私が『はりねずみのルーチカ』の絵を描く前に、タブロー画に描いていた子たちを、ゆうこさんがお話に書いてくれました。「ノッコ」(森の妖精の女の子)や「そらうお」(空を飛ぶ魚)、「桃胡」(古い桃の木の妖精)がそうです。

北見:「ルーチカ」は実物のはりねずみを参考にして描いていたのですが、あとからゆうこさんに、モデルのぬいぐるみがいると聞いて驚きました。私が描いたルーチカとあまり似てないけど、大丈夫かしらって。

かんの:葉胡さんの自由に描いてほしくて、ぬいぐるみのことはあえて伝えませんでした。『はりねずみのルーチカ』を描く前にアンティークショップで出会った、ビンテージのぬいぐるみです。「ルーチカ」の物語を描くときは、その子をかたわらに置いて、あれこれ空想をしていました。

私の家にいるはりねずみの「ルーチカ」は、妖精の国から人間界に遊びに来て、妖精の国で起きた素敵な出来事を、私に話してくれている。私がそのお話に感動して「このお話を本にして、みんなにも教えてあげたいのだけど、書いていい?」と尋ねます。「もちろん、いいよ」とはりねずみは応えてくれる……こんな空想です。

心の中でそんな設定をつくり、空想しているうちに、物語のかけらが舞い降りてきます。それをつなぎ合わせていくことで、「ルーチカ」の世界がだんだんと出来上がっていきました。

「私は物語のモチーフとなる物を手元に置くことで、執筆がはかどるタイプです」と語るかんのさん。
かんのさんが考えを深めるときに取り入れているのが「スイスチーズプロジェクト」。チーズの穴のような円のなかにメモをとり、穴と穴をつなぎ合わせて、考えをまとめていく。

北見:私がゆうこさんのお話を読んだときにやってみたいと思ったことは、「ルーチカ」が住む「フェリエの森」を地図にすること。幼いときに読んでいた絵本に、登場人物がいる世界の地図があって、ワクワクした思い出があるんです。ゆうこさんに見せながら、少しずつ「フェリエの森」の地図をつくっていきました。

かんの:私は方向音痴なので、まったくイメージできなくて、地図はすべて葉胡さんにお任せしました。あと驚いたのは、歌に曲をつけてくれたこと。葉胡さんから「あの歌に曲をつけてもいい?」と聞かれて、「えっ、曲も作れるの!?」と、椅子から転げ落ちそうになるほど驚きました。

北見:単純に、あったら楽しいなって思って、ゆうこさんに提案しました。昔、ピアノを習っていたので、楽しく作曲できました。こんなふうに、ふたりで楽しみながらアイデアを出し合って、物語を膨らませてきました。

北見さんが作曲した歌。楽譜は「はりねずみのルーチカ」シリーズに載っている。

──かんのさんが掲げた最初の目標どおり「はりねずみのルーチカ」はおふたりのライフワークとなり、シリーズは10年以上続きました。いまの心境と、これからのことをお聞かせください。

かんの:ルーチカが巻を重ねていくごとに、あたたかいお手紙や感想をたくさんいただくようになりました。本当にありがとうございます。読んでくださった皆さんの心のなかで、それぞれのキャラクターに命が吹き込まれているのを知るたび、胸がいっぱいになります。

北見:私も読者の方のご感想やお手紙は大切な宝物です。ルーチカたちの絵まで描いてくださっているのを見ると、心打たれます。また、ショートアニメとして映像化されることは、2人の念願でしたので夢のようですね。自分の描いた絵が動くなんて、まるで魔法をかけられたような、不思議な感覚になりました。

かんの:アニメ化するに当たって、低年齢向けの子が楽しめるように『はりねずみのルーチカ たまごのあかちゃんだーれだ?』を描きました。こちらは短編集の『はりねずみのルーチカ にじいろのたまご』の1編を、低年齢向けに加筆修正した物語です。絵もすべて描きおろしなんですよね。

北見:小さい子が感情移入できるように、「ルーチカ」たちの等身を少し変えて、幼くしました。表情や仕草もわかりやすいように、なるべく登場する子たちを大きく描いています。カラーページもあるので、ちょっと文章の長い絵本のように楽しんでいただけたら嬉しいです。

かんの:「はりねずみのルーチカ」シリーズのアイデアはすべて、心の中に自然と降ってくるように、プレゼントされたものでした。これからも自然な流れを大切にしながら、優しくて楽しくて、あたたかな気持ちになれる物語を書いていきたいです。

北見:お子さんが「ルーチカ」の本を読んでいる姿を想像するだけで、心があたたかくなりますよね。これからも、ゆうこさんが紡いでくださった物語を、楽しみにしながら描いていけたら幸せです。

編集部に寄せられた「はりねずみのルーチカ」シリーズの読者ハガキ。北見さんのイラスト付きの特別なハガキには、読者の熱い思いが綴られる。
頭の上にりんごをのせて歩く、「ルーチカ」の設定を思いついた小物入れ(右下)。白樺の樹皮を薄くなめしてつくられた、ロシア産の伝統工芸品だ。

写真/嶋田礼奈(講談社写真映像部)
取材・文/山口真央

『はりねずみのルーチカ たまごのあかちゃんだーれだ?』

10年以上続くロングセラー童話「はりねずみのルーチカ」シリーズに、待望の低学年向けシリーズが登場です。

絵本と同じ横書きなので、年長さんや、小学1年生のひとり読みデビューに最適! ルーチカのイラストも大きくてわかりやすく、さらにイラストのカラーページを増やし、低年齢の子も物語に没頭しやすくなっています。

第1作は、はりねずみのルーチカが、森で不思議な「たまご」をひろって、愛情いっぱいに育てるドキドキする話。ルーチカのことを知らない人でも、これを読めば世界観を味わえる! 弱い者を助ける優しい気持ちが育つ、心あたたまる童話をお楽しみください。

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

かんの ゆうこ

Yuko Kanno
作家

東京都生まれ。東京女学館短期大学文科卒業。児童書に「はりねずみのルーチカ」シリーズ、(絵・北見葉胡)、 「ソラタとヒナタ」シリーズ(絵・くまあやこ)、『白うさぎと天の音 雅楽のおはなし』(絵・東儀秀樹)(以上、講談社)、 『とびらの向こうに』(絵・みやこしあきこ/岩崎書店)など。 絵本に、『はるねこ』(絵・松成真理子)、『はこちゃん』(絵・江頭路子)、プラネタリウム番組にもなった 「星うさぎと月のふね」(絵・田中鮎子)(以上、講談社)などがある。令和6年度、小学校教科書『ひろがることば小学国語二上』(教育出版)に、絵本『はるねこ』(絵・松成真理子/講談社)が掲載される。

東京都生まれ。東京女学館短期大学文科卒業。児童書に「はりねずみのルーチカ」シリーズ、(絵・北見葉胡)、 「ソラタとヒナタ」シリーズ(絵・くまあやこ)、『白うさぎと天の音 雅楽のおはなし』(絵・東儀秀樹)(以上、講談社)、 『とびらの向こうに』(絵・みやこしあきこ/岩崎書店)など。 絵本に、『はるねこ』(絵・松成真理子)、『はこちゃん』(絵・江頭路子)、プラネタリウム番組にもなった 「星うさぎと月のふね」(絵・田中鮎子)(以上、講談社)などがある。令和6年度、小学校教科書『ひろがることば小学国語二上』(教育出版)に、絵本『はるねこ』(絵・松成真理子/講談社)が掲載される。

きたみ ようこ

北見 葉胡

Yoko Kitami
画家

神奈川県生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。児童書に、「はりねずみのルーチカ」シリーズ、「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズ(ともに作・かんのゆうこ/講談社)、絵本に『マーシカちゃん』(アリス館)、『マッチ箱のカーニャ』(白泉社)、『小学生になる日』(新日本出版社)など。書籍挿画に「安房直子コレクション」(全7巻/偕成社)、ぬりえブックに『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』(講談社)がある。2005年、2015年に、ボローニャ国際絵本原画展入選、2009年『ルウとリンデン 旅とおるすばん』(作・小手鞠るい/講談社)が、ボローニャ国際児童図書賞受賞。

神奈川県生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。児童書に、「はりねずみのルーチカ」シリーズ、「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズ(ともに作・かんのゆうこ/講談社)、絵本に『マーシカちゃん』(アリス館)、『マッチ箱のカーニャ』(白泉社)、『小学生になる日』(新日本出版社)など。書籍挿画に「安房直子コレクション」(全7巻/偕成社)、ぬりえブックに『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』(講談社)がある。2005年、2015年に、ボローニャ国際絵本原画展入選、2009年『ルウとリンデン 旅とおるすばん』(作・小手鞠るい/講談社)が、ボローニャ国際児童図書賞受賞。