【発達障害】で「怒られっぱなしの会社員」から「葉っぱ切り絵アーティスト」へ 弱点を強みに換えられた理由を明かす
世界が注目するアーティスト「リト@葉っぱ切り絵」が語る 子どもの得意を見つける方法 #後編
2024.09.10
リト@葉っぱ切り絵(りとあっとはっぱきりえ)
葉っぱ切り絵アーティスト。1986年生まれ。神奈川県出身。自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020 年より独学で制作をスタート。SNSに毎日のように投稿する葉っぱ切り絵が注目を集める。
「情熱大陸」(TBS系)、「徹子の部屋」(テレビ朝日)、「あさイチ」(NHK)といったTV番組や新聞など国内メディアで続々と紹介されるほか、世界各国のネットメディアでも驚きをもって取り上げられる。自らの発達障害と向き合ってきた道のりを講演会・トークイベントなどでも伝えている。
作品集に『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』『葉っぱ切り絵いきものずかん』などがある。全国各地にて展覧会を開催するほか、2024年6月、個人美術館「LITO LEAF ART MUSEUM FUKUSHIMA」がオープン。
個人美術館「LITO LEAF ART MUSEUM FUKUSHIMA」 HP https://lito-leafart.com/
ゲームから分かった自分の得意と苦手
僕自身は、子どものころ、自分自身に取り立てて得意なことがあるとは思っていませんでした。子どものころから好きで熱中したのは、強いていえばゲーム。子どものころからゲームはひと通り買ってもらって遊んでいたし、学生時代はもちろん社会人になってからもゲームセンターに通い詰めていました。
ただ小さいころから、得意なゲームと苦手なゲームというのが極端に分かれていました。ドラクエのようなロールプレイングゲームで森の中をぐるぐる歩き回ってモンスターと戦い続けるとか、ガンダムのバトルゲームをひたすら何時間も続けるとか、一点集中型でレベルを上げていくゲームは得意なのですが、たとえばシューティングゲームは苦手でした。
ゲームに夢中だったときは気づいてなかったのですが、自分が発達障害だと診断を受けてから、専門書を読んでその特性を調べたり、自分の苦手なことをリストアップしているときに気づいたのです。そういえばシューティングゲームが苦手なのは、僕は過剰に集中してしまうタイプで、視野が極端に狭くて、画面のあちこちから飛んでくる弾を広くまんべんなく見られないからだ、と。
一般に親というのは「子どもがゲームばかりして困る」で片付けてしまうもの。でも、ゲームといっても、さまざまなジャンルがあります。ロールプレイングゲームやシューティングゲーム以外にも、パズルゲーム、リズムゲーム、シミュレーションゲーム、クイズゲーム、ものづくり系ゲーム……。
もしお子さんがゲームばかりしている、というなら、一度その子の「得意なゲーム」「不得意なゲーム」「好きなゲーム」「興味のないゲーム」をよく観察してみてほしいと思います。そうしたら、子どもの「強みと弱み」、「得意と苦手」というのが見えてくるかもしれません。「ゲームばかりして!」と終わらせていたらもったいないと思います。
苦手を頑張るより 得意を生かせる場所に
僕自身、もっと早くこのことに気づいて、自分の得意なことを生かせる道を見つけられていれば、会社員時代に苦手なことを頑張って続けなくてすんだのに、と考えることもあります。
苦手なことをどんなに頑張っても、ようやく他の人と同じスタート地点に立てるだけでした。それより、自分の得意なことをもっと早く見つけて、それに磨きをかけることができていたらどんなによかっただろう、と考えるのです。
この仕事を始めてから、超人気ロールプレイングゲーム「MOTHER」の作り手でもある糸井重里さんとお会いする機会があったのですが、そのとき言われたことがあります。「君は絶対ゲームをやってきた人だと思った」と。「ゲームのようにルールが決まった世界で工夫していくのと、葉っぱというすごく小さな世界で表現を工夫するというのはとても似てるよね」と言われて、なるほど、と思ったのでした。
僕は、会社員時代はいちばんの短所だった「集中しすぎてしまう」という欠点を長所にできる場所を大人になってから探して葉っぱ切り絵を見つけました。僕自身が変わったのではなく、「いる場所」を変えただけなのです。
子ども時代の体験こそ得意を見つける契機に
そう考えるのも、僕自身がADHDであることを公表して活動していることもあり、「うちの子、発達障害があって、この子をどうやって育てたらいいか悩んでるんです」という相談を受けることが増えたからです。
「この子の将来が不安です」と、みなさんおっしゃいます。分かります。けれど、障害のあるなしにかかわらず、どんな子であっても将来は不安なものだと思います。ただ、小さいうちから心配したとしても、たとえばひとつの心配が解決しても、成長していく過程でまた違う心配が出てくるのではないでしょうか。だとしたら先のことを心配するよりも、まずは毎日「今」を思い切り楽しませて、やりたいことをやらせてあげてほしいと思うのです。
「作品のアイディアってどこから生まれるんですか?」というのも、僕がよく聞かれる質問です。その答えは、子どものころ、親に連れていってもらった場所だったり、友達と遊んだりした記憶だったりするのです。子どものころのなんということもない出来事が頭の中に入っていて、今、それが自分の表現を支えてくれていることを実感しています。
子どもの間は、そのときにしかできない体験を思い切りさせてあげること。僕の場合はゲームはそのひとつでしたが、もちろんゲームでなくてもいい。
子どものときに無条件に没頭した体験がたくさんあるほど、子どもの得意も不得意も見えてくるのではないでしょうか。そうしたら「これが苦手なんだったら、こっちは避けて、こっちを伸ばしてあげよう」といった方向性も見えてくると思うのです。
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リトさんに聞く「子どもの得意を見つける方法」連載は全2回。