イヤイヤ期はどうして起こるの? いつまで続くの? 素朴な疑問編

公認心理師・佐藤めぐみさんインタビュー 第1回

公認心理師:佐藤 めぐみ

言葉が発達し、自我が芽生える1歳半〜2歳ごろから始まると言われている「イヤイヤ期」。「イヤイヤ期」は子どもがきちんと成長している証です。とはいえ、何をしても「イヤ!」「違う!」と泣きわめかれてしまうと、「泣きたいのはこっちのほう……」とお父さん、お母さんも悩んでしまいますよね。そこで、育児ストレスの心のケアを目的とした『ポジ育クラブ』を運営する公認心理師の佐藤めぐみさんに、「イヤイヤ期」を上手く乗り越えるためのポイントを教えていただきました。第1回は、「イヤイヤ期」はどうして起こるの? いつまで続くの? といった「イヤイヤ期」の素朴な疑問についてお聞きします。

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育児に役立つ心理学を発信する公認心理師の佐藤めぐみさん
写真提供:本人

イヤイヤ期は自我の芽生えの時期

――まず、イヤイヤ期はどうして起こるのでしょうか。

「イヤイヤ期は、認知面の発達とともに起こる自我の芽生えの時期。生まれたばかりの赤ちゃんはまだ自分を認識できず、お母さんと一体化しているような感覚です。生後半年を過ぎたあたりから少しずつ過去を記憶できるようになり、毎日一緒に過ごす家族を“よく見る人”と認識し、初めて会う人と見分けられるようにもなっていきます。心理学の実験で、1歳頃の子どものおでこにシールを貼って鏡の前に座らせると、まだ自分だと認識できていないので、まわりの誰かに貼ってあるような仕草するのですが、1歳半頃の子どもだと、自分のおでこを触ってシールを取ろうとするんですよ」

――だいたい1歳半〜2歳頃には、「自分が1人の人間である」と認識しはじめて自我が芽生えていくのですね。

「お子さんによっても違いはありますが、だいたいその頃ですね。自我は”形”として存在するものではなく、捉えどころがないもの。しかし子どもの心の中には、”自分が!”自分が!”という気持ちが確かに湧き起こっている状態だと言えます。その上、身体能力もどんどんと伸びていく時期なので、できないことまでも“自分で!”とやりたくなる気持ちが強まっていくのです」

「イヤイヤ期」は「自我成長期」

――確かに2歳前後は、「イヤ!」と言うのと同じくらい「自分で!」という意思表示が多いですよね。

「例えば、ハンカチをたたんで渡したら、“○○ちゃんが(やるの)!”と広げてやり直しをする“やり直し行動”も増えていきます。やり直し行動は明らかに”イヤイヤ期”の兆候なのですが、一方で自分の我を通したい“ワガママ”の場合もあるので、その区別は必要です」

――「イヤイヤ」と「ワガママ」はどう区別すればよいのでしょうか?

「何に対して“イヤ”と言っているかで区別ができます。例えば、あと10分でごはんの時間なのに、おやつがもっとほしいなど自分の欲求に対しての場合であれば“ダメ”と覚えさせてあげたほうがよいですよね。自分で靴下を履こうとするなど、今後身につけてほしい行動に対する“イヤ”は、できる限り付き合ってあげることが望ましいです。いずれやめてもらいたい、癖にしたくないことまで見守ってしまうと、後々お父さん、お母さんが大変になってきます。イヤイヤは成長の過程ではありますが、ダメなものはダメと教えるのが望ましいです。そもそも『イヤイヤ期』は大人がつけた呼び方なので、自我を成長させるお手伝いをしてあげる時期だとわかる、『自我成長期』と言い換えるとわかりやすいかもしれません」

写真:maroke/イメージマート

できるだけ優しく見守り、安心感を与えること

――「イヤイヤ期」がなくて楽だった、という声も聞きますが、そういうこともあるものなのでしょうか?

「持って生まれた性格や心身の発達には個人差がありますから、イヤイヤの出方の強さや弱さ、時期の早さ遅さは様々です。きょうだいでもまるで違う場合もありますよね。また、お父さん、お母さんが子どもにいろいろなことをチャレンジさせて自立が促され、“やりたい”という欲求が消化されたイヤイヤが目立たないというパターンもあります。
最近では育児書などでよく見かける『アタッチメント(愛着)』も、大変になりがちなイヤイヤ期をスムーズにするのに有効ということが言われています。親子間の精神的な結びつきが強いと、“イヤイヤ!”となった場合でも、ひどくこじらせず、なんとかその場を解決へと持って行きやすいというデータも。できるだけ温かく優しく見守り、お子さんに安心感を与えることで信頼関係を築いていくことが理想ではありますね」

――お父さん、お母さんの時間があるときには、できるだけ自我の成長と見られる欲求に応えてあげたほうがいいということですね。

「お父さん、お母さんがアタッチメントを育むのが理想ではありますが、周りの協力してくれる方々、保育士の方やベビーシッターの方とのアタッチメントの形成ももちろん有効です。ワンオペ育児や働いていて余裕がないというお父さん、お母さんもいると思いますが、もし可能であれば今だけは家事の手を抜いて、お子さんと向き合う時間を増やすなど工夫してみるとよいかもしれません」

イヤイヤ期はいつまで続く!?

――少し家事の手を止めて、向き合うことも大事ということですね。しかし今だけのこととは思いつつも「イヤイヤ期」はやっぱり大変です。「イヤイヤ期」はいつまで続くのでしょうか?

「『イヤイヤ期』は言葉の発達にも関係しているので、だいたい1歳半から3歳頃までが一般的です。4歳になるとさらに認知面が発達していくので、“イヤイヤ”よりも巧みになっていきます。
子どもに関する調査は、言葉でのやりとりが可能な年齢の場合はその子自身の計測ができるのですが、自分で回答できない時期はお父さん、お母さんへの問診でデータを集めることになります。例えば、“イヤイヤ期はどうでしたか?”という問いに“反抗がひどかった”と回答している場合は、お父さん、お母さんが翻弄されたということはわかりますが、その子の反抗の度合いが実際に他の子と比べてひどかったかまではわかりませんよね。親の主観が基本なので、同じくらいイヤイヤ期が続いていたとしても、感じ方もそれぞれで、大変だったと感じる人とそうでもなかったと思う方がいると思います。ですので何歳まで、とは明確には言えないのが正直なところです」

――確かに育児に参加してくれている大人の手が多いと大変さはやわらぎますよね。ただ、ワンオペ育児で「イヤイヤ期」に大変な思いをされている方もいると思います。

「そうですね。周りのサポートがあることが理想的ですが、実際、今の日本は1人で育児も家事もしているお母さんがたくさんいらっしゃいます。私もこれまで育児ストレスを抱えるお母さんたちの声をたくさん聞いてきたので、今の日本のこの状況をなんとかしなくては! という思いで日々活動しています。公認心理師として言えることは、心理学は私たち人間の心の知識の宝庫。ぜひ育児に取り入れていってほしいと思っています」

第2回では、「イヤイヤ!」となってしまった子どもにどう接するかなど、「魔の2歳児」への具体的な攻略法を教えてもらいます。

取材・文 石本真樹

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さとう めぐみ

佐藤 めぐみ

公認心理師

0~10歳の子の育児に役立つ心理学を発信する公認心理師。英・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会認定心理士。自身が運営する『育児相談室・ポジカフェ』では、子どもの困った行動に悩むご家庭向けの行動改善プログラムや育児ストレスのカウンセリングを行う傍ら、学びの場『ポジ育ラボ』にてスマホで受講できるオンラインの子育て心理学講座を配信中。2020年11月、コロナ禍で育児ストレスを抱えるママが自分の心のケアを学べる『ポジ育クラブ』をスタート。テレビ・雑誌などのメディアや企業への執筆活動を通じ、子育て心理学でママをサポートしている。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。海外経験が長く、諸外国の子育て事情にも詳しい。

0~10歳の子の育児に役立つ心理学を発信する公認心理師。英・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会認定心理士。自身が運営する『育児相談室・ポジカフェ』では、子どもの困った行動に悩むご家庭向けの行動改善プログラムや育児ストレスのカウンセリングを行う傍ら、学びの場『ポジ育ラボ』にてスマホで受講できるオンラインの子育て心理学講座を配信中。2020年11月、コロナ禍で育児ストレスを抱えるママが自分の心のケアを学べる『ポジ育クラブ』をスタート。テレビ・雑誌などのメディアや企業への執筆活動を通じ、子育て心理学でママをサポートしている。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。海外経験が長く、諸外国の子育て事情にも詳しい。