発達が気になる子ども向け「保育園留学」療育プログラムに親子で参加・準備と出発[北海道小樽市]

『保育園留学』体験記#1 準備・出発・到着編

ライター:永見 薫

(写真提供:済生会本部広報室)
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「保育園留学」を知っていますか? 日本初の「発達が気になる子ども向け『保育園留学』プログラム」、山あり谷ありの参加レポートをお届けします〈全3回〉

療育特化型の「保育園留学」プログラム

東京都内在住で、会社員の夫と共に、発達がゆっくりな6歳男児(年長)の子育てをしながら、フリーランスのライターとして仕事をしています。息子は、言葉の発達の遅れや、自分の気持ちがうまく表出できないことの他に、手先の不器用さや感覚過敏など多方面に発達がゆっくりな点があります。

発覚したのは3歳前のこと。当時イヤイヤ期だと思ってやり過ごしていた激しい癇癪が、ある日大噴火。その日は、いつもとはかけ離れた尋常ではない暴れ具合に発展し、こちらがただ呆然と見守るレベルの状態でした。今思えば言葉がうまく話せなくて、思いを伝えられなかったからこその身体表現だったのですが。

「何かおかしい」と感じ取った私は、保育園の先生と相談し、行政の発達相談に駆け込みます。そこで療育の必要性を職員の方から説かれてから約3年間、行政の子育て支援センターでの療育を受け始め、そして民間の療育施設へと転所し、さらには病院での作業療法と自費での言語療育を受けています。

今回私たちは、日本初の「発達支援事業所と保育園併用型の保育園留学プログラム」を体験してきました。

ところでみなさんは、「保育園留学」についてご存知でしょうか。

自然に囲まれた土地で豊かな時間を過ごせるのが『保育園留学』の魅力(写真提供:永見 薫)

保育園留学とは、家族で1、2週間ほど地域に滞在する、こども主役の暮らし体験プログラム。株式会社キッチハイクが2021年から展開しています。

全国各地にある39の拠点から参加者が自ら行きたい場所を選び、現地に渡ってからは、そのエリアで家族で生活を営みます。親がリモートワークや余暇を楽しむ間に、子どもは現地の保育園に通うという内容です。

プログラムには、滞在先保育園と宿泊先の宿(主に民泊が多いよう)がセットされており、滞在地域を決めるともれなく保育園と宿が決まるので安心です。

ある日のこと。私はキッチハイク社に勤める友人から「療育特化型のプログラムがあるんだよ」と話を聞きました。滞在先は北海道小樽市です。

小樽市のプログラムは、医療法人北海道済生会が経営する発達支援事業所「きっずてらす」と、北海道済生会小樽病院に併設する保育園「なでしこキッズクラブ」を行き来できるというもの。

通った発達支援事業所「きっずてらす」のエントランス。ショッピングセンター「ウィングベイ小樽」の中にある。(写真提供:永見薫)

それまで保育園留学には、体験をしたいほどの強い動機がなかったものの、私は友人の一言で心がゆれ動きます。「行ってみたい──」

まもなく小学校入学を迎えようとしていた息子。これから新しい生活が待ち受けています。自分の特性を抱えながら環境変化の中で、うまく波を乗りこえていけるのだろうか、と親の私は溢れるほどの不安を抱えていました。

「知らない人がいる場所で新しい体験をして、それが成功体験となれば、小学生になるときに少し自信がつくかもしれない──」そう思った私たち夫婦は、小樽市での保育園留学プログラムを受ける決意をしました。

もう1つの決め手は、「きっずてらす」の設備の充実度でした。

都内の療育施設は、もちろん療育内容は充実しており、多大なるサポートには感謝しているものの、圧倒的にスペースが狭小なことが気がかりでした。

特に体を動かす作業療法は、決して満足に体を動かせるスペースがあるとは言いがたく、もっと広々とのびのびとした場所で体を動かせたらいいのにな……という思いもどこかにありました。

「きっずてらす」は医療福祉法人が運営するエリア「済生会ビレッジ」の一角にある。発達支援だけではなく、福祉支援に関するエリアもありました。(写真提供:済生会本部広報室)

【1】費用とスケジュールの調整

とはいえ、共働き家族が都内を離れて実際に1~2週間も参加することは至難の業。仕事との調整が必要です。当初我が家は、夫が休暇や仕事の調整に苦戦していたため東京に残り、母子で出発する予定でした。

実際に、長期でワーケーションが難しい場合、母子や父子のみで参加する家族も見られるようです。ところが、夫はその後会社と交渉をして仕事を調整し、参加できるようになり結局家族3人で出発しました。

参加者が決まったら、次に決めることは滞在時期です。話し合った結果、私たち家族は卒園1ヵ月前の2月末に、1週間ほど参加することに決めました。このようにして、急きょ話がまとまったのが、2023年12月のことでした。

プログラムに参加することを決めると、保育園留学の公式サイトより、申し込みをします。参加料金は、行き先や滞在日数によっても異なりますが、おおよそ15万円〜30万円前後と思っておくと、わかりやすいかもしれません。

決して安い金額ではありませんが、この料金には保育料と、滞在先の宿代が含まれています。短期の旅行とは異なり、長期での滞在だと考えると費用面では妥当なのかなとも思います。

さらに私たちは、往復の飛行機と食費を自分たちで賄いましたが、飛行機のセール時期を活用したり、なるべく現地で自炊をすることを心がけて最低限のコンパクトな費用に収めることを意識しました。

雪真っ盛りの時期。暮らす家の前で毎日雪玉を作ったり、雪遊びをしてから事業所と保育園に通っていました。(写真提供:永見薫)

【2】オンライン面談&荷物の準備

申し込み情報が確定になると、キッチハイク社のコーディネーターが、出発まで関係者とやりとりを取り持ってくれます。

私たちは、まず年末に滞在先の発達支援事業所「きっずてらす」の代表者とオンライン面談を行いました。ここでは子どもの発達状況や、どんな困りごとがあるのかをお伝えする他、これまで受けた発達検査の内容なども共有しました。

出発前には事前にオンラインビデオシステムを通じて、「きっずてらす」の担当者とじっくりコミュニケーション。担当者は大ベテランで、発達の困りごとにくわしく、安心して話ができました。(写真提供:済生会本部広報室)

私たちからは、小樽市の気候や温度、生活動線などについてわからないことを質問しました。冬の雪国は、都会の比較的暖かなエリアで暮らす私たちにとって、全く想像がつかないもの。何を用意し、どうのぞめばいいのかわからず、根掘り葉掘りと質問をしたのでした。

ですが、住んでいる地域によって「寒さ・暑さ」の感じ方にも違いがあるのか、現地に着いたら思った以上に寒かったのでした(笑)。

もちろん寒いことは予想していたので、荷物の準備もしっかりします。

宿には洗濯機があるため、洗濯をすることを想定し、3日分の衣類を用意。またダウンコート、スノーブーツ、耳あてや手袋、フェイスガードなども揃えていきました。そして就寝時の寒さが不安だったので、自宅から湯たんぽも持参。この湯たんぽにはずいぶん助けられました。

子どもに「必ず入れて」とせがまれたのは、雪遊びグッズ。100円ショップで購入した雪玉メーカーを荷物にイン。こうしたあれこれの荷物は、海外旅行が10日以上できるLLサイズのトランク1台につめ込んで準備完了。

子どものリュックには、着替えや水筒、タオルなど通園グッズ一式をつめ、大人のリュックには仕事用のパソコンをつめ込みました。

私たちは全てを持って道中を移動しましたが、宿には事前に荷物を送ることもできます。重い荷物を無理して運ばなくてもよいのがありがたいですね。

小樽での滞在先での一棟貸しの民泊。市内の観光地のど真ん中にあり、いつでも観光に行けます。(写真提供:永見薫)
窓のカーテンを開けると迫る雪壁。家が埋もれてしまいそうなほどの積雪量です。(写真提供:永見 薫)

【3】出発までの過ごし方・心の準備が大切!

さて出発までどうしていたかというと……。

息子には2ヵ月近くかけて、「保育園留学」について説明をしてきました。

私たちは2月の末に8日間、飛行機に乗って北海道に行くということ、最初の1日は札幌でホテルに泊まること、2日目からは小樽の一軒家に泊まること、小樽では遊ぶ日もあるけど、基本は保育園と遊び場(我が家では療育のことをそう説明しています)で過ごす、ということを丁寧に繰り返し、話しかけます。

そのたびに北海道への夢と妄想と興奮が、抑えられないほどにふくらむ息子。

出発当日の2月24日。息子は興奮のあまり、私たちの話があまり耳に入らなくなり、気持ちの切り替えがうまくできないことや、興奮の抑えが効かなくなる場面も。

話を聞いていない、どこかに行きそうになるなど、危ない場面も少々ありました。こういうところはもしかしたら発達っ子の特性なのかもしれません。

一方、乗り物のごう音や慣れない雑音など、聴覚過敏の特性が反応してしまうのではと心配していましたが、思いのほか気にならず、スムーズに電車や飛行機に乗れました。

ですが、ご家庭によっては電車や新幹線、飛行機での移動の際には、お子さんの変化を気にしておいたほうが良いかもしれません。

行きの飛行機では嬉しさのあまり飛行機のイラストを描く息子。興奮が抑えられません。(写真提供:永見 薫)
小樽滞在前に宿泊した札幌では都市型水族館「AOAO SAPPORO」へ行きました。(写真提供:永見 薫)

観光のために1日日程をプラスしていた私たち。無事に新千歳空港に到着後、まずは札幌で1日滞在します。

札幌で観光をして満喫した私たちは、翌日特急電車に乗って約40分、小樽市に向かい、いよいよ保育園留学の幕開けとなるのです。

【日本初の「発達が気になる子ども向け『保育園留学』プログラム」体験レポート、第1回では「準備・出発・到着まで」をお届けしました。続く第2回では、いよいよ「保育園留学と療育の実体験」についてレポートします。第3回では、「『保育園留学』プログラム参加で得られたもの・良い変化」についてお伝えします】

(画像:アフロ)

「発達が気になる子ども向け『保育園留学』プログラム」体験レポ
#1 事前準備はどれくらい? 準備・出発・到着編(⇦今回はココ)
#2 北海道小樽市での『保育園留学』と療育の実体験(4月中旬公開予定)
#3『保育園留学』プログラムに参加して得られた良い変化とは?(4月中旬公開予定)

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ながみ かおる

永見 薫

Kaoru Nagami
ライター

複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm

複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm