「男の子」の子育て 英語ではなく教養が大切なワケを教育ジャーナリストが解説

これからの時代を生きる「男の子」の子育て #1 英語力よりも大事なこと

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

男の子にとって、英語が話せることは強みになるのでしょうか? 写真:アフロ
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母親にとって「男の子」の子育ては、「異性」ということもあり、想像を超えた行動や発言などに、戸惑いながら日々を過ごされている方も多いのではないでしょうか。

「男の子」の育児本も、男女の先天的な違いや習性をもとにしたものがほとんどでした。

しかし、教育ジャーナリスト・おおたとしまささんは、性別に関係なく、お互いの個性を尊重し、支え合える社会をゴールとした「男の子の子育て」を提案しています。

そこで、近著『21世紀の「男の子」の親たちへ』(祥伝社)も話題のおおたとしまささんに21世紀を生きる「男の子の子育て」について取材しました。1回目は、急速なグローバル化によって過熱する男の子の「英語力」について、独自の視点で語っていただきます。

(全3回の1回目)

おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験も。

グローバル化で身につけるべきは「英語」ではなく「教養」

──近年、中学や高校の学校案内を見ると、昔に比べて「グローバル社会で活躍する人間を育てる」といった教育方針が掲げられています。また、「英語のカリキュラムに力を入れています」とアピールする学校も多く見られるようになりました。

加えて2022年、小学生~中学生の子を持つ保護者1,002人を対象に実施した『子どもが社会人になるために必要な力に関する調査』(振興出版社啓林館)でも、「自分が大人になってから、基礎勉強以外の知識や能力について、『もっと早く身に付けておけばよかった』と思った経験はあるか?」という質問に対して、「語学力」(44.9%)が最も多かった回答となり、語学に対する保護者の関心の高さが浮き彫りとなりました。

仕事で外国人と接する機会が増える現代のグローバル社会において、「男の子は英語ができなければ、仕事を見つけるのも大変なのでは」と、心配する親御さんの声もよく耳にします。おおたさんは社会のグローバル化と英語教育について、どうお考えでしょうか。

おおたとしまささん(以下、おおたさん):わが子が海外に出て働くという前提で話をするならば、そこで出会う人たちが「日本の文化」に興味を持つであろうことは知っておくと良いでしょう。

英語を話せること以前に、自分たちの文化に対する理解や教養がなくてはグローバルな社会でユニークな存在にはなれません。欧米の文化に精通していたり、英語がペラペラなことなんて、彼らにとってはどうでもいいことなのです。その国にはない考え方や価値観を持つ稀有な存在だからこそ、「コイツは面白いな」、「一緒に仕事をしたいな」と思ってもらえるのですから。たぶんね。

一見、ビジネス戦略みたいに聞こえますが、異文化で生きる人とコミュニケーションを図るうえで大切なことです。例えば、日本人は当たり前にお箸を使いますよね。これも文化のひとつです。それに、ハロウィンもクリスマスも祝うけれど、年末年始は寺や神社に行くという文化もありますよね。

まずは英語が話せる以前に、自分のルーツや身近なこと、日本人特有の行動や宗教文化について考えを述べることが、海外では最低限求められるんです。

──でも、自国の文化を客観視して、自分なりの意見を述べるというのはなかなか難しいことですよね。

おおたさん:そういうことが面倒だと思ったら、海外に行かなければいいんです。日本人のほとんどは一生日本で仕事をして暮らしていくし、英語なんてできなくても困らないでしょう。もちろん、海外から働きに来る人も多くいるので、彼らの文化をリスペクトしつつ受け入れていくという知恵や度量は必要になってきます。そういう意味で、英語が必要な場合は出てくるでしょうけど。

──ただ、日本の企業でもグローバル化を意識して、就職試験のときに英語の成績を重視する傾向にあります。

おおたさん:だいたい、「海外に通用しなきゃいけない」なんて一体誰が言っているのでしょうか。それは、おそらく海外の市場を奪いたいと思っている企業の幻想で、「海外のマーケットからお金を稼いで持ってこられる社員がいたらいいな」という希望を、子どもたちや教育に押しつけているだけなんです。適当に聞き流しておけばいいんですよ。

もちろん、海外で仕事をしてみたい人や、海外で暮らしてみたい人はどんどん飛び出していって、さまざまな経験をするのはいいと思います。国と国との壁が低くなっていることに対して、「海外に通用しなきゃいけない」なんて、不安を煽る文脈で使うのは、僕は間違っていると思いますけどね。

「先回り子育て」が子どもの「生き抜く力」を弱める

──先ほどの「英語」もそうですが、わが子が将来食べていけるようにと、特に男の子の親はできるだけ多くの武器を子どものうちから持たせようとしたがります。

おおたさん:親が先回りをして、子どもに必要なことをあれこれ与えすぎることと、その子がどんな環境でも生き抜く力を身につけることは、まったく逆のことなんですよ。

例えば、海外旅行に行くとき、不測の事態が起きたらどうしますか? 手持ちのもので何とかするか、現地で調達するなど、臨機応変に対応できる「知恵」や「度胸」、「覚悟」がなによりも必要になりますよね。

グローバルで活躍するということは、文化も価値観も生活様式も異なる人々と渡り合うこと。常にアウェイの状況で力を発揮しなければいけないんです。

親が「これからは英語だ、ITだ、プログラミングだ」と、子どもに与えるのは、海外旅行にレトルトのお粥や梅干しなんかを勝手に子どものバッグに詰め込むのと同じこと。

不測の事態に子どもだけで、必要なものをその場で見極めることができること、または必要なものを手にするまで努力を続ける力を持てるようになることが重要なのではないでしょうか。親の悪い先回りは、子どもの「生き抜く力」をスポイルすることになりかねません。

子育てで悩むこと自体が豊かさである

──全般的な傾向として、男の子は女の子と比べて精神面でやや幼いためか、どうしても息子を持つ親は、身の回りの世話をあれこれ焼いてしまいがちです。

おおたさん:子どもにあれもこれもやってあげることは、「あなたは親の助けがないと生きていけない未熟な存在だ」というメッセージを、言葉を使わずに投げかけているのと同じことなんですよ。

状況にもよりますが、「あなただったら何とかなるでしょう」とちょっと突き放すくらいのほうが、子どもへの励ましになり、自分なりのやり方で挑戦するようになり、それが「生き抜く力を育む」ことにつながります。

──手を差し伸べる場面と、あえて黙って見守るべき場面。さじ加減が難しそうです。

おおたさん:どんな親でもしょっちゅう間違えますから、そんなに恐れなくても大丈夫ですよ(笑)。煮物に加える砂糖みたいなもので、「あ、ちょっと多かったかな」、「今回は少なかったかな」と、機会を重ねることで、さじ加減が徐々にわかってきます。

子育てに正しい物差しや正解なんてありません。どの親御さんも常に迷っていますし、子育てをしている間は、不安からは逃れられません。むしろ、子どものことを想って迷い、悩むこと自体が、人生の豊かさだと僕は思っています。

「今日も不安にしてくれてありがとう」と思うくらいでちょうどいいんですよ(笑)。親が親であるがゆえに、味わうことのできる不安や苦々しさを、存分に嚙み締めればいいんです。

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親があれこれ先回りし、世話することは子どもの「生き抜く力」を弱めてしまうこと。そして、ときには黙って見守り、子どもの挑戦する力を育むことが大切だとわかりました。2回目では、男の子の子育てに必要な「3つの力」について、おおたさんに詳しく解説していただきます。

取材・文/鈴木美和

おおたとしまささんの「男の子の子育て」連載は全3回。
(2回目は2023年4月25日、3回目は4月26日公開。公開日までリンク無効)
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『21世紀の「男の子」の親たちへ 男子校の先生たちからアドバイス』著:おおたとしまさ(祥伝社)
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おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。