子どもの本音を代弁する新たな試み「子どもアドボカシー」を専門家が解説

シリーズ「子どもの声をきく」#1-1  子どもアドボカシー協議会理事長・相澤仁さん~2024年本格スタート「子どもアドボカシー」とは?~

NPO法人子どもアドボカシー協議会理事長・大分大学福祉健康科学部教授:相澤 仁

「子どもアドボカシー」のアドボカシー(英語:advocacy)は、ラテン語の“ad”
(誰かに向かって)+“voco”(呼ぶ)が語源です。  写真:アフロ
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「子どもアドボカシー」という言葉をご存じでしょうか。

子どもの声を聴いて本人の意見や気持ちを汲み取り、周囲に働きかける活動です。約40年前から欧米で先行し、日本でも2019年ごろから取り組みが始まり、広がりつつあります。

なぜ今、子どもの声を聴くニーズが高まっているのでしょうか。NPO法人子どもアドボカシー協議会の理事長で、全国に先駆けて活動に取り組んできた、大分大学福祉健康科学部教授の相澤仁さんに話を聞きました。

※全3回の1回目

相澤 仁(あいざわ・まさし)PROFILE
1956年埼玉県生まれ。大分大学福祉健康科学部教授。現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。

NPO法人子どもアドボカシー協議会理事長で大分大学福祉健康科学部教授の相澤仁さんに話を聞きました。  Zoom取材にて

子どもアドボカシーとは? 対象の子どもは?

「子どもの声を聞く」ことの重要性を語るときに欠かせないのが「子どもアドボカシー」という言葉です。

「アドボカシー」とは、「擁護(ようご)」や「代弁」、「支持をする」といった意味を持つ英語。支援や代弁する行為自体を指し、支援者・代弁者は「アドボケイト」と呼びます。

自分の意思をうまく伝えることのできない患者や高齢者、障害者に代わって、代理人や支援者が意思や権利を伝えるといった意味で、福祉の場でもよく使われています。

そして「子どもアドボカシー」という言葉が指す「子ども」は、特別な配慮が必要な子どもたちに限らず、すべての子どもたちを対象としています。

子どもが意見表明をする権利は、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約 第12条」(※1)でも保障されていますから。そのうえで、話を進めていきます。
※1=子どもの権利条約 第12条

「子どもアドボカシー」は、平たく言えば、子どもの声を聴く、つまり子どもの意見や気持ちを汲み取って、しかるべき場所に働きかける活動です。

例えば、次の事例のように──。
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両親と3人で暮らすAさん(7歳)の家に、ある日突然知らない大人が来て、自分1人だけ一時保護所に連れていかれました。

一時保護所で職員に、自分がここにきた経緯や理由、現在の状況を説明されても、Aさんは突然のことで頭が真っ白。何も言葉が入ってきません。

当然ながら、後日、「私、どうしてここに来たんだろう」「いつになったら家に帰れるんだろう」と、疑問と不安がとめどなくわいてきます。施設の職員に聞きたくても忙しそうで聞きづらい……。

そんな折、ある大人BさんがAさんのもとを訪れ、「何か聞きたいこと、言いたいことはありますか?」と尋ねてくれました。

「私はどうしてここに来たの? いつになったら家に帰れるの?」

Aさんはやっと自分の思いを口にすることができました。

話を聴いた大人Bさんは、再度わかりやすくAさんに説明するよう、施設の職員に働きかけてくれました。おかげでAさんは落ち着いた状態で話を聞くことができ、ようやく現状を理解できます。

それまでのAさんは非常に不安が強く、情緒が不安定でしたが、再度話を聞いてからは少しずつ気持ちが落ち着き、不安でこわばっていた表情は消え、笑顔も見えるようになりました。
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上記の「ある大人B」が、子どもの声を聴く「アドボケイト」(意見表明支援員)です。

実際、こうした事例のようにアドボケイトが週1回など定期的に訪れたおかげで、子どもの精神面に良い変化が出てきたケースがいくつか見られています。

なぜ日本で「子どもアドボカシー」が広がってきているのか

「子どもアドボケイト」の先進国はイギリスやカナダなどで、約40年前から「子どもアドボカシー」に取り組んでいます。

日本では2019年度からモデル事業が始まったばかりですが、その背景のひとつには、相次ぐ児童虐待死事件があります。

例えば、「目黒区5歳女児虐待死事件」(2018年3月に発生)、「野田小4女児虐待死事件」(2019年1月に発生)などの事例では、幼児や児童がSOSを出しながらも、それを児童相談所や学校など、周りにいる大人たちが汲み取ることができませんでした。

子どもたちがちゃんと声を出しているにもかかわらず、届かず、命を落としてしまったわけです。

こうした痛ましい事例などを受け、2019年、国連子どもの権利委員会は、すべての子どもが自由に意見を表明する権利を育ちの場で確保するように日本政府に勧告を出しました。

そして日本では、同年6月に成立した改正児童福祉法の付則で、子どもの意見を聴く機会の確保や支援の仕組みを検討事項として盛り込み、今年2022年6月に成立した同改正法では、「アドボケイト」と呼ばれる意見表明支援員が、児童相談所や児童養護施設、一時保護所などで、子どもから意見を聴くことを努力義務化しました(※2)。
※2=子どもの意見聴取義務化へ 厚労省WT、法改正提言(日本経済新聞)

現在は、2024年6月施行となる上記法改正に向け、子どもの声を拾う「アドボケイト」を養成している段階です。

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