子どもの本音を代弁する新たな試み「子どもアドボカシー」を専門家が解説

シリーズ「子どもの声をきく」#1-1  子どもアドボカシー協議会理事長・相澤仁さん~2024年本格スタート「子どもアドボカシー」とは?~

NPO法人子どもアドボカシー協議会理事長・大分大学福祉健康科学部教授:相澤 仁

声をあげたくてもあげられない子ども

九州の大分県や福岡県では日本全国に先駆けてモデル事業を始めていて、大分県は今年度で3年目。

一時保護所や各県内の児童養護施設、そのほか里親家庭など、社会的養護のもとで生活している子どもたちを中心に、前述のAさんの事例のように、アドボカシー(意見表明支援)活動を行っています。

こうした場所では、身体的虐待や心理的虐待、ネグレクト(育児放棄)など、不適切な養育を受けてきた子どもたちが多く、彼らは自分の声をあげたくてもあげにくい。

特に虐待を受けてきた子どもは大人に対する不信感を持っていたりして、なかなか自分の本音を言えません。「言っても無駄だ」と思う傾向すらあります。

だからこそ、まずは意見を聴く環境をしっかり作ろうと、基盤づくりを進めているわけです。

もちろん、年齢や発達段階によってはまだ自分の意見をしっかり言えない、語ることが困難な子どももいます。その場合にはアドボケイト(意見表明支援員)が子どもの意見表明をサポートしたり、代弁したりします。

子ども自身が「誰に伝えたいか」を選べるように

しかしながら、思いきって子どもが声をあげても、結果的に子どもの思いに沿う形で物事が運ばないケースもあります。

わかりやすい例でいえば、虐待を受けて一時保護所に保護されている子どもの多くが「家に帰りたい」と言います。

ところが、施設の職員は専門職として、あるいは組織としての判断などを優先する場合もあります。もし、子どもにとって最善の利益を考慮した結果、「家に帰すわけにはいかない」と判断したら、子どもの声はかなえられません。

そんなとき、子どもが、誰に自分の思いを伝えたいかを選べるシステムがあればいいですよね。話す相手によっては、自分の思いが救われる可能性があるから。

そこで現在、構築しているのが、施設や学校、親などに“忖度”する必要がない、独立した「アドボケイト」です。

以下の図表のとおり、これまで「子どもアドボカシー」の中には「セルフアドボカシー」を中心に、4つのアドボカシーがありました。そして今作っているのが5つめの「独立アドボカシー」です。

【5つの子どもアドボカシー】
1.セルフアドボカシー:子どもが自分自身で権利、利益、ニーズを主張すること

2.フォーマル(制度的)アドボカシー:児童相談所などの施設職員、里親、学校の先生などが聞き出し、主張・代弁する

3.インフォーマル(非制度的)アドボカシー:親、家族、友人など身近な大人が聞き出し、主張・代弁する

4.ピアアドボカシー:いじめ、虐待、障害など類似した経験や背景を持つ人が聞き出し、主張・代弁する

5.独立(専門)アドボカシー:子ども意見表明支援員。行政や里親家庭・施設などに寄り添った調整は行わず、行政などとの利害関係もない独立的な第三者が聞き出し、主張・代弁する

アドボカシーに関するガイドライン案より、NPO法人子どもアドボカシー協議会が改編。  画像提供:NPO法人子どもアドボカシー協議会

今、養成しているのは、独立アドボカシーの支援員です。これまで子どもの電話相談に乗ってきたボランティアなど、子育て支援に携わってきた実践者の方々が中心です。

子どもは、施設の職員や学校の先生、親などには言いづらい内容でも、身近な存在ではない「独立アドボカシー」だからこそ本心が話せ、意見を表明することができる場合があります。

その声を受け、代弁者を担うアドボケイトは先生や保護者のような教育的態度は取らず、子どもの立場から子どもが考えを整理すること、意見を表明することを支援する。

本人に代わって発言することもある。大人の解釈を入れず、誰かに配慮することもなく、子どもの声をそのままストレートに伝える。いわばマイクのような役割を担うのです。

最終的には、セルフアドボカシー、つまり子どもが自分の権利、利益、ニーズなどを自ら主張できるように、支援することを目指しています。

子どもアドボカシーはまだ始まったばかり。2年後の本格スタート時に勢いよく飛べるように、できるだけ滑走路を長く取り、アドボケイトを養成していきたい。学校や保育所、幼稚園、もちろん一般家庭にも認知を広げたいですね。

そして親御さんもぜひ子どもの小さな声に耳を傾けてほしい。どのように? それは次回お話ししますね。

─・─・─・─・─・─・
大人の顔色をうかがい主張ができない子ども、自分の気持ちを言語化できない子どもなどにとって、自分の代わりに主張、代弁をしてくれたり、自分自身で言えるようサポートしてくれたりする大人がいれば、どんなに心強いでしょう。

そんな「子どもアドボケイト」は、私たち誰もがなりえます。ではどんな視点で聞いたらよいか、次回以降、相澤先生に伺っていきます。

相澤 仁(あいざわ・まさし) 
全国子どもアドボカシー協議会理事長。1956年埼玉県生まれ。立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程満期退学。国立武蔵野学院長を経て、2016年4月より、大分大学福祉健康科学部教授。専門は、子ども家庭福祉と非行臨床。1982年から約30年間、児童自立支援施設にケアワーカーなどとして勤務。長年子どもたちと寝食をともにする生活を送り、実践研究を重ねてきた。

現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。


取材・文/桜田容子

17 件
あいざわ まさし

相澤 仁

全国子どもアドボカシー協議会理事長

1956年埼玉県生まれ。立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程満期退学。国立武蔵野学院長を経て、2016年4月より、大分大学福祉健康科学部教授。専門は、子ども家庭福祉と非行臨床。1982年から約30年間、児童自立支援施設にケアワーカーなどとして勤務。長年子どもたちと寝食をともにする生活を送り、実践研究を重ねてきた。 現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。 『おおいたの子ども家庭福祉──子育て満足度日本一をめざして』(編著:井上登生、河野洋子、相澤仁/明石書店刊2022年)、『みんなで育てる家庭養護シリーズ全5巻』(編集代表、明石書店刊2021年)、『やさしくわかる社会的養護シリーズ全7巻』(編集代表明石書店刊2012~2014年)、『社会的養護Ⅰ』(共編、中央法規刊2019年)など。

1956年埼玉県生まれ。立教大学大学院文学研究科教育学専攻博士課程後期課程満期退学。国立武蔵野学院長を経て、2016年4月より、大分大学福祉健康科学部教授。専門は、子ども家庭福祉と非行臨床。1982年から約30年間、児童自立支援施設にケアワーカーなどとして勤務。長年子どもたちと寝食をともにする生活を送り、実践研究を重ねてきた。 現在、日本子ども家庭福祉学会会長、厚生労働省社会保障審議会児童部会部会長代理、全国家庭養護推進ネットワーク共同代表、全国子ども家庭養育支援研究会会長も兼任。 『おおいたの子ども家庭福祉──子育て満足度日本一をめざして』(編著:井上登生、河野洋子、相澤仁/明石書店刊2022年)、『みんなで育てる家庭養護シリーズ全5巻』(編集代表、明石書店刊2021年)、『やさしくわかる社会的養護シリーズ全7巻』(編集代表明石書店刊2012~2014年)、『社会的養護Ⅰ』(共編、中央法規刊2019年)など。

さくらだ ようこ

桜田 容子

ライター

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。

ライター。主に女性誌やウェブメディアで、女性の生き方、子育て、マネー分野などの取材・執筆を行う。2014年生まれの男児のママ。息子に揚げ足を取られてばかりの日々で、子育て・仕事・家事と、力戦奮闘している。