正しく知れば怖くない!小学校入学で直面する「小1の壁」の乗り越え方

【講談社コクリコCLUB】オンラインセミナーレポート#1「小1の壁」とは?

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

「小1の壁」に悩む親は少なくありません。  写真:アフロ
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「小1の壁」または「小1プロブレム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 小学校入学後、学校になじめず、登校をしぶったり、落ち着いて授業を受けられないなどの問題を指します。

講談社コクリコCLUBでは、会員を対象に【正しく知れば怖くない! コロナ禍での「小1の壁」】と題したオンラインセミナーを実施。

子どもの発達研究の第一人者であり、現在も小児科医として発達障害児の診察を続けている榊原洋一先生に、「小1の壁」「小1プロブレム」とは何なのか? 家庭ではどのように対処すればよいのかについてうかがいました。

「親としても焦りがなくなり、肩の力が抜けたような気がします」
「先生の話を聞いて、心がラクになりました」
「子どもらしさを押し潰さないように接していかなくてはと反省しました」

など、大きな反響を呼んだセミナーの内容を、全2回に分けてお届けします。​

(全2回の1回目)

榊原洋一先生プロフィール

「小1の壁」「小1プロブレム」とは何かを詳しく教えてくれた榊原先生。  写真:嶋田礼奈(講談社)

榊原 洋一(さかきはら よういち) 1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

保育園・幼稚園と小学校の間に存在する見えない壁

「小1プロブレム」は、今から20年ほど前から話題になっている教育現場の課題です。小学校に入学したばかりの児童が、学校生活になかなかなじめず、静かに授業を受けられなかったり、集団行動がとれなかったりする状態が続くことを指します。

まず、なぜこのようなことが起こるかを考えてみましょう。

保育園や幼稚園は「遊び」を中心に活動する場です。子どもの成長にとって遊びがとても重要であることは発達心理学でわかっていて、日本だけでなく世界中の保育園・幼稚園ではさまざまな遊びが行われています。

遊びには“目的がない”、そして“楽しい”という2つの要素があります。それが小学校に入ると「学習」、とりわけ座学が中心の生活に変化します。

自分の席に着き、先生と黒板を見つめ、先生に指されたとき以外は発言してはいけないという、時間と空間を厳しく制限された環境に移行するわけです。中には、この環境の変化にうまく適応できずに、席を立って動いてしまったり、おしゃべりをしてしまったりする児童がでてきます。

保育園・幼稚園と小学校は文化がまったく異なる環境であり、その間には見えない壁が存在します。「小1の壁」は、この壁をうまく乗り越えられないことが原因となって発生する問題なのです。

この問題に対し、教育の現場ではさまざまな取り組みがされるようになっています。幼児教育と小学校教育をつなぐ幼保小連携によって幼稚園で学習の体験を行う一方、小学校でも遊びの授業を行うなど、壁をなるべく感じさせないための工夫がされています。

そのようなカリキュラムの工夫もなされていますが、私がそれ以上に大切だと考えているのは、子ども一人ひとりが壁に対応するスキルと体力をつけていくことです。

ストレスに耐え、壁を乗り越えることで成長する

壁はどうしても存在するものであり、壊すことはできません。「壁のようなストレスなんてないほうがいいのでは?」という意見もあるかもしれません。しかし、その発想は子どもの成長には決してプラスにはなりません。

なぜなら、子どものときからストレスを乗り越える経験を積んでいかないと、大人になってから些細なことでいちいちストレスを感じるようなってしまい、日常がとても生きづらくなってしまうからです。

逆に、ストレスに耐えながら直面した課題を解決していく経験を積み重ねていくと、大人になってから多少のことでは挫けず、課題に対してたくましく対処していけるようになります。壁に直面すること、そして、その壁をスキルと体力をつけながら克服していくプロセスが、子どもの成長には不可欠なのです。

では、壁を乗り越えるスキルと体力を効果的につけていくために、どんなことができるでしょうか?

家庭内で子どもにさまざまなチャレンジを用意し、取り組んでいく環境をつくることが有効です。子どもには、個人差はあるものの、誰にも壁を乗り越えようとする力がもともと備わっています。その力を伸ばしてあげることが大切です。

入学前の準備は「プレイフルラーニング」で

壁を乗り越えるスキルと体力をつけるためのチャレンジとして、キーワードとなるのが「プレイフルラーニング」です。

プレイフルは「遊びがある」、ラーニングは「学び」という意味で、「遊びながらの学び」のことを指す言葉です。子どもは遊びや楽しみがある学びの中で、ワクワクドキドキしながら自発的に探究心を育んでいくことができます。小学校入学前の時期に、このプレイフルラーニングで壁に立ち向かうための準備をすることをおすすめしています。

私が監修した本に、家庭でプレイフルラーニングを実践するための『あそんで、天才!』シリーズがあります。

▲〈『あそんで、天才!』シリーズ 表紙ギャラリー〉 左右に表紙画像がめくれます

これは小学校で壁に直面する前の子どもたちに向けた絵本です。「学ぶっておもしろい」と日常生活で感じてもらうためのヒントを詰め込んでいます。小学校に入ってから学ぶ算数、国語、理科などについて、楽しみながら、学ぶことのトレーニングが自然とできるような内容になっています。

さらに、「なかよしの天才」は友だち関係について、「せいかつの天才」は生活習慣について考え、社会の中で生きる力を身につけるための絵本に仕上げています。

この絵本のポイントは、親が教えるのではなく、子どもが楽しみながら学べること。パズルなどの遊び要素の強いドリルを解いていくことによって、知らず知らずのうちに必要な知識を得て、学ぶことのおもしろさを体験していくことができるように工夫しました。実際、私の孫たちも夢中になって読んでくれました。ありそうでなかった絵本に仕上がったと思っています。

さあ、ここからは皆さんから事前にお送りいただいた質問にお答えしていきたいと思います。

(第2回「子どもの発達研究の第一人者が回答 「小1の壁」を乗り越える7つのヒント」に続く)

構成・文/渡辺高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。