子どもの発達研究の第一人者が回答 「小1の壁」を乗り越える7つのヒント

【講談社コクリコCLUB】オンラインセミナーレポート#2 質疑応答編

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

質問⑤ 「登校しぶり」にはどう対応すればいいですか?

小学生が感じている「幸福度」について調査結果があります。

それによると、入学後から学年が進むにしたがって幸福度はきれいに右肩下がりになっていきます。つまり、学校というのは、とてもストレスの多い環境なのです。「登校しぶり」は学校のストレスを嫌だと感じる最初のサインと言えます。

嫌ならもう行かなければいいかというと、そうではありません。このストレスに立ち向かい、克服していくことで、力強く生きていくために必要な「レジリエンス(抵抗力)」を獲得していけるからです。

「登校しぶり」は小1の1学期には多くの子どもに見られます。保育園・幼稚園から環境ががらりと変わり、壁に直面したことに対するごく自然な反応です。

親の対応として肝に銘じたいのは、決して無理強いしないこと。叱りつけて無理やりに引っ張っていっても、登校がトラウマになるだけで、いいことは何ひとつありません。

「登校しぶり」は多くの子どもに見られることです。  写真:アフロ

子どもの心を傷つけるようなことはやめたほうがいい

子育てのスタイルは大きく3つ「スパルタ式」「やさしく説得」「甘やかし」に分かれます。

このうち「スパルタ式」で子どもの心を傷つけるような言動を行うことは、発達に悪影響をおよぼすことがわかっています。

朝の出勤前に「登校しぶり」になると、親はつい焦って感情的になりがちです。しかし、「小学生にもなって甘えるな」とか「○○ちゃんみたいにいい子になれ」などは禁句です。

子どもは子どもで苦しい気持ちでいることを理解し、「つらいよね」とやさしく声をかけてあげましょう。

そして、「お友だちに会えるよ」とか「給食おいしそうだよ」とか、子どもが楽しみを見出せそうなことを挙げながらなだめすかし、必要なら学校へ付き添ってなんとか先生に引き渡すことを考えましょう。

近所の友だちに一緒に登校してもらうのも手です。会社に事情を話してフレックスを利用できるように相談しておくなど、仕事のほうを極力調整する努力も必要です。

私個人の考えとしては、学校に事情を話したうえで、時には遅刻してゆっくり登校したり、お休みにして出かけるなど学校とは違った学びを提供したりするのもアリだと思っています。

日本の小学校は無遅刻無欠席がよしとされる行き過ぎた傾向がありますが、もっと家庭に比重を置いた臨機応変な対応をしてよいのではないでしょうか。

「登校しぶり」はたいていは一時的なもので、学校に行きたくない気持ちを次第にコントロールできるようになっていくので、おおらかな心で乗り切りましょう。

質問⑥ 通常級と支援級のどちらに通わせたらいい?

発達障害がある場合、通常級と支援級のどちらに通わせるかを迷われる親御さんも少なくありません。通常級と支援級は一長一短ありますが、迷っているなら、私は通常級のほうがベターだと考えます。

支援級には、障害に応じた先生の指導を手厚く受けられるメリットがあります。

一方、通常級には、先生の指導は支援級に比べてきめ細かさの面ではどうしても劣ってしまうものの、先生以上に周りのクラスメイトからの多くの学びを得ることができます。それが、私が通常級をおすすめする理由です。

さらに、支援級のベテランの先生は、児童に対して先回りして手を差し伸べがちであり、壁を乗り越えて成長する機会が失われているケースも見受けられます。

なお、通常級から支援級への編入は比較的容易であるものの、その逆はむずかしいのが一般的。そのため、まずは通常級でやっていけそうか様子を見るほうが、のちの選択肢が広がります。

学校の方針などをしっかり確認したうえで検討しましょう。

質問⑦ 学校のことを話してくれないのですが、なぜでしょうか?

なぜ学校のことを知りたいのですか? 私は、それは親のエゴだと思っています。

もちろん性格によっては、なんでも話したい、聞いてほしいという子どももいるかもしれませんが、非常にまれだと思います。

自分のこととして考えてみてください。今日、会社で何があった? 仕事はどんな感じだった? と毎日帰宅後に聞かれたらウンザリしますよね。よほど楽しいことなら話したいかもしれませんが、嫌なことなんて思い出したくありませんし、ましてや家族に知られたくはないでしょう。子どもだって、それは同じです。

子どものことを何でも知って、力になりたいという親心もわかりますが、子どもにも事情があり、プライドもあります。子どもの気持ちを尊重し、話したいことはよく聞いてあげましょう。

口下手な子どもには、「今日一番楽しかったことは?」「給食で何がおいしかった?」など答えやすそうな質問を投げかけてみましょう。

逆に話したくないことはあまり詮索しないように配慮してください。

ただし、親に話しづらい問題を抱えている可能性もあります。先生とは連絡帳などを活用して、緊密にやりとりするように心がけましょう。

◆◆◆

いかがでしたでしょうか。

セミナーの最後には榊原先生から、先輩パパとして、子育てに奮闘しているパパママに向けてこのような応援メッセージがありました。

「息子の結婚式で、幼いころからの成長を写真で振り返る、という場面があったんですが、小さなころの息子の写真を見ていると、急に胸が詰まって泣きそうになってしまいました。

子どもに一番手がかかって大変だと思っていた時間こそが、結果的には自分の人生の中で一番楽しいときだったんだ、もうその時間は戻ってこないんだ、と思ったら、寂しくなって胸がいっぱいになってしまったんです。

皆さん、今はお子さんのことが心配だし、たくさんの苦労をされていると思います。でも、その苦労もあとになると、『ああ、あの時が人生の楽しい時だったんだな』と思うときが絶対くるはずです。

パスカルという哲学者は『一番素晴らしいのは、一緒に笑うことじゃない。一緒に泣くことで、人間同士の連帯感が生まれるんだ』ということを言っています。家族として一緒に苦しみ泣いたことが、かけがえのない経験です。皆さんもいずれ、そう気がつかれると思いますよ」

構成・文/渡辺高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。