専門家が明かす意外な事実! 「脳の発達を促すため早く習い事を始めるのがよい」とは言えない理由

【セミナーレポート】「うちの子、遅れてる?」を専門家が解説! 「0・1・2・3歳児の発達を知ろう」#3

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

子どもに習い事をやらせてみたい、とお考えの方は必見です。  写真:アフロ

数ある年齢別知育絵本のなかで、長年1番人気の「えほん百科」シリーズ(累計250万部)。その信頼を支えているのは、子どもの発達研究の第一人者である榊原洋一先生の監修です。

講談社コクリコCLUB主催のオンラインセミナーでは、「子どもの発達を知ろう」と題し、「えほん百科」(リンク入れる)にならう形で、榊原先生に子どもの発達についてお話しいただいてきました。

今回は、一連のセミナーの最終回として2023年7月21日に開催された【「うちの子、遅れてる?」を専門家が解説! 0・1・2・3歳児の発達を知ろう】の講演内容をレポートいたします。

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レポート第3回では、次の3つのテーマを取り上げます。

「脳の発達」
「子どもとの接し方」
「発達障害」

さっそく榊原先生の回答を見ていきましょう。

(全3回の3回目/#1#2を読む)

榊原洋一先生プロフィール

榊原洋一(さかきはら・よういち) 1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

脳の発達によい習い事〔質問8〕

脳の発達によい習い事はありますか? 公文、ピアノ、水泳、体操などを考えています

習い事は脳の発達には影響しません〔回答8〕

習い事をしなくても脳は発達する

脳というのは自然に発達します。習い事をしなくてもちゃんと発達していきます。

いまでも世界には森の中で原始的な暮らしを続けている人たちがいます。

そこで育つ子どもは、体操に近いことをしたり、川を渡るために泳いだりすることはあっても、公文もピアノもやりません。それでも、IQテストでは先進国の充実した教育環境にある子と差が出ていません。

「何をやれば脳が発達するか?」という疑問に答えるなら、どれをやっても脳は発達すると断言できますし、一方でどれもやらなくても発達するという回答になります。

自由に遊ぶ経験は子どもの脳の発達を促すことがわかっています。しかし、特定のスキルを身につけるための経験が脳の発達を促すという科学的な根拠はありません。

それでも習い事に意味はある

では、習い事に意味がないかというと、意味はちゃんとあります。

ピアノを2歳から続けてきた6歳の子とピアノに触ったことのない6歳の子で、どちらがピアノを上手に弾けるかといえば、間違いなく2歳からやっている子です。当然のことですよね。

公文をやっていれば計算ができるようになり、水泳教室に通っていれば泳げるようになる。

習い事をするというのは、経験を通じてできることを増やすことと言い換えられるでしょう。できることが増えれば、人生の楽しみが増える可能性があります。ちゃんと意味はあります。

しかし、気をつけたいのは、無理強いしないこと。習い事がその子にむいていないなら、大きなストレスとなり、本人にも嫌な経験になってしまいます。

よく「習い事は何をさせるのがいいですか?」という質問もいただきますが、それは親御さんがやらせたいことをやらせればいいと思います。

子どもは自分では選べませんし、子どもにとってもどうせやるなら親が喜んでくれるものに取り組むほうが楽しいでしょうから。

親子で共通の習い事をするのもいいかもしれません。  写真:アフロ

習い事は可能性を広げてくれる

習い事に意味はあるとお話ししましたが、世界的なピアニストになってほしい、プロゴルファーになってほしいといった希望のもとにトレーニングするのとは別の話です。

将来こうなってほしいという過度な期待は、子どもへのストレスの原因になりますから、あまり持たないほうがいいと思います。

ゴルフを早く始めればみんながタイガー・ウッズのようになれるわけではありません。

トッププロのレベルに至るには、本来その子が持っている素質とゴルフがピッタリ合っていることが条件となります。

スポーツに限らず、算数でも、将棋でも、早くから始めるメリットもあります。それは、才能に気づいてあげる可能性が高まることです。どのような習い事でもその道の先生は、たくさんの子を見ている中で特別な才能を持った子を見つけることができます。

もしかするとピアノにすごく向いているかもしれない、水泳で力を発揮するかもしれない、そのような可能性を広げるという意味では、習い事はとてもいいことだと思います。

さらに付け加えると、習い事によってお子さんのIQ(知能)を上げたいと考える方もいらっしゃいますが、それは脳の発達とはまた別の話であると認識する必要があります。

森での原始的な生活で育った子の例も挙げましたが、知能は訓練で上がるものではありません。知能はおよそ8割が遺伝的に決まっていることが証明されています。

ですから、公文にしても、英語にしても、楽しみとして習うなら賛成ですが、知能アップを目的とするならあまり意味がないかな、というのが私の正直な意見です。

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