銭湯のピアニスト・米津真浩「子どもたちの“好き”を引き出してあげたい」

ピアニスト米津真浩さん「私の“音育”」#3 ~野望編~

子どものレッスンにも意欲的な米津さん。習い事をする子どもへの向き合い方はぜひ参考にしたい。  写真:日下部真紀
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ピアニスト・米津真浩さんへのインタビュー第3回。米津さんは日本でもっと多くの人にクラシックを聞いてもらうため、ネットとリアルにまたがって、斬新な活動に取り組んでいます。また、子どもへのレッスンを通じて、子どもにピアノを習わせる際に、親が気をつけるべきポイントも語ってくれました。

日本ではとっつきにくいクラシックがイタリアでは日常

米津真浩さんのピアニストとしての活動は、リサイタルだけにとどまりません。SNSはもちろん、YouTubeで日常を発信することもあれば、ライブ配信アプリ「17LIVE」で練習風景やリクエスト演奏なども行っています。米津さんがこうした活動に積極的なのは、今よりもっと多くの人がクラシックに触れてほしいという想いからです。

「僕には僕の個性があると思うものの、ピアノのテクニックに秀でているタイプではありません。でも、幸運なことにたくさんの人から支持もしていただけている。一方で、すごいテクニックがあるのに、セルフプロデュースが苦手で、生計を立てられずピアノから離れてしまうピアニストも多いのが日本のクラシックの現状です。また、ショパン国際ピアノコンクールやチャイコフスキー国際コンクールといった、世界的に有名な海外のコンクールで優勝するような人が来日したときでも、客席が埋まらないこともある。そこに違和感があります」

クラシックといえば、日本だとまだまだ堅苦しいイメージがあり、多くの人にとってチケットを買うまでの心理的ハードルがなかなか高いもの。大学院を卒業後、イタリアへの留学を経験した米津さんは、人々のクラシックとの関わり方が日本と大きく違うのを目にし、衝撃を受けたそうです。

「イタリアで街を歩いていると、野外でやっているピアノの無料コンサートを、近所のおじさんがジェラートを食べながら聴いているんです。またある日、自宅でピアノを練習していたところ、家のチャイムが鳴ったので『苦情がきた!』とあわてて出たらそうじゃない。『素敵! 今度ベートベンの曲を聴いてみたい』って、リクエストされてしまって(笑)。それってすごいことですよね? 

イタリアでは街中に音楽があふれている。野外でコンサートをしているのも日常で、興味がなければ素通りされて逆にシビアですが、クラシックそのものを聴く機会が日本とは比較にならないほど多いんです」

「ピアノを弾いていて、突然『今のカッコイイ曲は何ていうの?』と話しかけられたこともありました」(米津さん)。  写真:日下部真紀

銭湯でビール片手にクラシック

米津さんの音楽活動のひとつに「銭湯のピアニスト」があります。これは銭湯にピアノを持ち込み、浴場でコンサートを開くというもの。客層は子どもから年配まで幅広く、Tシャツとハーフパンツといったラフな格好の人ばかり。ビールやジュースを片手に、来場者は思い思いのスタイルでクラシックを楽しみます。

「テレビ番組のBGMとしてクラシックが使われていると『聞いたことある!』と感じる人は多いですよね? それほど浸透しているのに、日本では生で聴ける機会がすごく少ない。生の演奏を聴いたうえで『ピンとこない』『堅苦しい』と思うのは受け手の自由ですが、なかには『よくわからないけど感動した』と言ってくれる人もいるはず。

いずれにしても、機会がないと広がりようがありません。クラシックの特別感を大切にする人の中には、僕のやり方にいい気がしない人もいるかもしれませんが、僕はもう少しクラシックを身近に感じてもらいたいんです」

米津さんによる銭湯を舞台にしたリサイタル「銭湯のピアニスト」。背景にシャワーなど洗い場がうっすら見える。  写真提供:米津真浩

クラシックが広まっていくと、日本の優秀な音楽家が生き残れる道にもつながると米津さんは続けます。

「そうなれば、やがて日本で埋もれている優れたピアニストが正当に評価されるようになるかもしれない。彼らを心から尊敬しているからこそ、多くの人に知ってもらいたいんです。自分のピアニストとしての活動も大切ですが、僕はその架け橋になりたいし、大好きなクラシックのために自分ができることだと思っています。『銭湯のピアニスト』に関しては、正直なところ僕自身が楽しむ遊びみたいなものですが(笑)」

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