銭湯のピアニスト・米津真浩「子どもたちの“好き”を引き出してあげたい」
ピアニスト米津真浩さん「私の“音育”」#3 ~野望編~
2021.08.15
環境よりも大切な「好きを維持し続けること」
クラシックの裾野を広げる活動に力を注ぐなかで、後進の育成にも興味があるそうです。米津さんは大学院を卒業後、異例の若さで東京音楽大学の非常勤助手を務めました。現在は大学で教鞭を執ってはいませんが、一般に向けたレッスンは行っていて、子どもに教えることもあります。そこで感じたのは「熱中」と「上達」の関係だと言います。
「年齢を問わず『親に言われたから』『なんとなくやってみようかな?』といったスタンスでスタートした人と、『こういうところが楽しそうだからやってみたい』などの目的を持っている人では、上達するスピードが全然違います。意気込みがある人は、こっちから言わなくても『先生、これが弾きたいんだけど』『どうすればいい?』と質問してくる。そういう人は上達が早いです。それは、自分なりに音楽の楽しさや、やりがいを見つけた方が伸びるということだと思います。
音楽にどんな楽しさを見出すかは本当に人それぞれです。例えば人前での演奏。失敗するかもしれないから嫌だという人でも、実際にやってみると、また出たいと言う人は多いです。うまくいかなかったらしばらく落ち込むけど、くやしいからまたやりたくなってハマっていく。楽譜の読み方を学ぶのもそう。楽譜を読むのって覚えることがいっぱいあって面倒なんですが、曲が難しくなるほど演奏するために必要になってきます。自分の力で弾けるようになったときの達成感はひとしおです」
「だから僕がレッスンで意識するのは、すでに目的や楽しさを持っている人には、その気持ちを強めてもらうにはどうすればいいか。反対に、それを自覚できていない人には好きになるきっかけを探して、モチベーションを上げてあげること。親が子どもにピアノを習わせるのであっても、楽しいと思ってもらうきっかけを作ってあげられれば、多くの子はどんどんのめり込むと思います。
そのために大切なのは、『上手だね』『きれいに弾けているよ』など、うまくいったときはちゃんとほめることと過度に叱らないこと。もともと興味がない子どもに『練習しなさい!』とか、『何でできないの!』といった指導をすると、自発的でないぶん、なぜ怒られなければいけないのか不満を抱いてしまう。好きで始めた僕ですら、強制されるのは嫌なんですから(笑)。これってピアノだけでなく習い事の多くで言える当たり前のことですよね? 『子どもがどうすればうまくなるか』の前に、どうすれば続けるか、どうすればポジティブにのぞむのか。“好き”をエネルギーに変えることこそ、親がもっとも意識すべきことだと思います」
子どもが上達すればするほど、親は期待をかけてしまい、厳しくもなりがちです。ときには厳しさも必要ですが、米津さんが「過度に叱らない」と言うように、感情に任せるのではなく、子どもが納得できる伝え方をする。それが、子どもの“好きを尊重する”ために大切なことなのではないでしょうか。
取材・文/井上良太(シーアール)
※米津真浩さんインタビューは全3回です。
#1 米津真浩「月謝が払えなかった僕がプロピアニストになれたワケ」
#2 米津真浩の“普通じゃない”ピアノ道「家にピアノがなくても音大合格」
米津 真浩
1986年2月14日生まれ。千葉県出身。ピアニスト。千葉県立幕張総合高校を経て、東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)を卒業。同大学院を首席で卒業。大学・大学院ともに特待奨学生として在学。 第76回日本音楽コンクールピアノ部門(2007年)で第2位入賞と岩谷賞(聴衆賞)を受賞。2013年・2014年度ローム・ミュージックファンデーション奨学生としてイタリアの名門・イモラ音楽院へ留学。 リサイタルなど演奏家としての活躍のかたわら、YouTubeや17LIVEなどでの積極的な発信を行い、クラシックをより多くの人に広める活動をしている。 https://linktr.ee/yonezutadahiro
1986年2月14日生まれ。千葉県出身。ピアニスト。千葉県立幕張総合高校を経て、東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)を卒業。同大学院を首席で卒業。大学・大学院ともに特待奨学生として在学。 第76回日本音楽コンクールピアノ部門(2007年)で第2位入賞と岩谷賞(聴衆賞)を受賞。2013年・2014年度ローム・ミュージックファンデーション奨学生としてイタリアの名門・イモラ音楽院へ留学。 リサイタルなど演奏家としての活躍のかたわら、YouTubeや17LIVEなどでの積極的な発信を行い、クラシックをより多くの人に広める活動をしている。 https://linktr.ee/yonezutadahiro