子どもの「考える力」を奪わない 渋谷保育園の「じっくり対話」を専門家が絶賛する理由

乳幼児からの探究 渋谷保育園の挑戦 後編 (2/3) 1ページ目に戻る

探究活動を発展させる「振り返り」

2021年から探究活動を実践している渋谷保育園。子どもたちの興味から出発し、じっくり対話しながら「なんで?」を深める探究活動をとおして、乳幼児であっても自分が感じたことを掘り下げて考える、それを表情や言葉で伝えるなど、先生たちは子ども一人ひとりの成長を実感してきました。

【乳幼児の探究活動とは】
「なぜ」「どうして」という疑問に答えを与えるのではなく、子どもも大人も一緒に問いを深め、自分の考えや世界観を協働で創っていくプロセス。観察だけでなく、絵を描いたり工作したりもするが、作品(成果)を残すためではなく考えたことや感じたことを表現するために行う。

2025年度の3歳児の探究活動のテーマは「身近な自然」。自分が「自然だと思うもの」を自宅から持ってきて、手で触ったりマイクロスコープを使ったり、さまざまな方法で観察を楽しんできました。取材した日は3回目で、友だちが持ってきた自然から好きなものを選んで観察しました(詳細は前編参照)。

探究活動は、子どもたちの活動の終わりが「終了」を意味するわけではありません。

先生たちは、活動のなかで子どもに問いかけて一緒に考えるだけでなく、写真やメモ、動画などで子どもの発見の「瞬間」を残しています。この記録を元に、先生や専門家が子どもたちの姿を共有し、今後の活動の方向性などを考えるのです。

▲探究活動の流れ  図:東京都
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取材した日の午後も探究活動専任の高橋彩(たかはしあや)先生とクラス担任、東大CEDEP所属の研究者、活動開始時から継続的に伴走・助言を行う専門家・津田純佳(つだあやか)氏らが参加して「振り返り」が行われました。探究活動を推進する幼稚園や保育園、こども園を都がサポートする「すくわくプログラム」などの活用により、渋谷保育園は研究者や専門家とともに探究活動を推進する体制が構築され、共同で実践しています。

まずは高橋先生から、子どもたちが気になったもの、発言の内容などが写真と一緒に丁寧に報告されます。

「Aくんは貝にすごく興味があって、ずっと見ていました。言葉で細かく表現はしていませんでしたが、『見て見て』といろいろな貝を順番に見せてくれて、私が『色が違うね』『こっちは大きいね』と問いかけると、とてもうれしそうにうなずいていました」

貝が気になってずっと観察しています。  写真:コクリコ編集部

「Bちゃんは前回まですごく緊張していたので、今日もどうかな……と思っていましたが、途中からニコニコして、たくさん感想を話してくれました。マイクロスコープも積極的に動かし、いろいろな角度から観察していました」

高橋先生の報告を受けて、担任の先生からも次々に声があがります。

「確かにBちゃんは、今日はすごく笑顔で、マイクロスコープを持ったときは集中していました。その分、他の子の待ち時間が長くなってしまって(笑)、待ちきれなくなった子が『そろそろ順番でやらない?』と提案していました。そのやりとりがとても優しくて、いい関係ができていると感じました」

マイクロスコープで見える世界に夢中です。  写真:コクリコ編集部

「Cくんは、探究活動に行く前から『柿の実が見たい』と話していて、私が『(前回の探究活動で)緑色だった柿の実はどうなっていると思う?』と聞くと、『緑の柿はずっとそのまま、硬いままなんだよ』といっていました。その後、茶色く変色した柿を前にしたときは、なんともいえず、息を吞むような表情をしていて……。すごく心が動いたんだろうなと思いました」

茶色く潰れた柿の実をマイクロスコープで観察しています。  写真:コクリコ編集部

先生たちの気づきは、非常に多岐にわたります。一人ひとりの興味や関心、表情、日常保育とのつながり、子ども同士の関係性などを丁寧に共有し、子どもたちの理解を深めていることに驚きます。

最後に先生たちは改善点を確認し、今後の探究活動にいかしていくことを決めました。こうしたきめ細かい「振り返り」が、その後の探究活動を充実したものにしていくのです。

専門家が語る 「探究活動の本質」

振り返りのなかで、探究の専門家・津田氏は先生の子どもたちとの関わりについて、次のようにコメントしました。

「少人数のグループで先生たちがじっくり子どもの言葉を受け止め、問いかけてきた結果、子どもたちがどんどん想像力を広げることができるという、とてもよい環境が生まれていますね。

なかなか言葉が出てこない子も、先生がさりげなく言語化をサポートしたり、表情から予測して話しかけたりすることで、以前より表現できるようになっています。子どもたちとの信頼が深まり、よい関係性で探究のプロセスが進んでいると思います」(津田氏)

先生と子どもが対話しながら、一緒に探究する様子が見られます。  写真:コクリコ編集部

さらに津田氏は、2025年度の3歳児クラスの探究活動の全体構成について、「探究の本質をとらえた内容だった」と評します。

「1回目、2回目の活動ではそれぞれ自分が自然だと思ったものを確認し、観察しましたが、そこで終わらせるのではなく、3回目では友だちが異なる視点で選んだ『自然』にも興味を持ち、観察して語り合いました。

まずは自分の視点で考える。それをベースに友だちと比較し、自分の考えも変化させていく。3歳児クラスでこんなに『探究らしい探究』が展開されていることが、とてもうれしいです」(津田氏)

一人で黙々と興味や関心を深めていく、というイメージが強い探究活動ですが、友だちや先生との関わり合いは非常に重要な意味を持ちます。特に、幼児クラス(3歳、4歳、5歳児のクラス)は言語やコミュニケーションの力が育ってくることから、友だちへの反応や対話が増えていきます。

異なる考えに触れることで、自分の枠組みを変えて新たな考えや方法を生み出す。探究活動をとおして、子どもたちは自分とも友だちとも向き合い、大きく成長していきます。

4歳児になると探究はどう進化する?

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