世界が注目! 新しい学びの形‘‘プレイフルラーニング’’とは?

榊原洋一先生インタビュー 第1回


最近、ときどき見かける"プレイフルラーニング”という言葉。日本語にすると、”遊びながらの学び”。これがとても効果的ということがわかってきて、世界でも人気の学び方になりつつあります。

「子どもは遊ぶのがお仕事」といいますが、でも、楽しんでいてしかも勉強になる、なんてこと、ほんとにあるんでしょうか。

発達心理の権威でもあり、日々、たくさんの子どもたちと接している榊原洋一先生に、「あそんで、天才!」編集チームがインタビューしました。

榊原先生、新しい学びの形"プレイフルラーニング”ってなんですか?

――いま話題のプレイフルラーニングについて、そして、みなさんお悩みのコロナ禍のなかでの家庭での学習について、たっぷりお話を伺いたいと思います。

それでは、まずは「プレイフルラーニングとはなにか?」ということについてお話ししましょうか。


【 ''プレイフルラーニング’’ とは? 】

プレイフルラーニングとは、日本語にすると、「遊びながらの学び」という意味になります。日本の幼稚園や保育園では、経験的に行われてきたことですが、たいへん効果があるということがわかってきて、世界でも人気の学び方になりつつあります。

言葉としては、「プレイ=遊び」「ラーニング=学習」ですね。簡単そうですが、日本語の「遊び」という言葉と、英語の「play(プレイ)」という言葉が表すものは、少しちがうんですよ。例えば、英語で「ピアノを弾く」とは、なんていうでしょうか。

――I play the piano.でしょうか。

そうですね。英語の「play(プレイ)」というのは、“あることを自分からすること”を指します。日本語で「遊び」というと、“勉強以外で”楽しみながらやることをさしていますよね。

――確かにそうですね。

ですから、子どもにとっては、「遊び」と「学習」は、対立しているものではないでしょうか。「遊んでばっかりいないで、勉強しなさい。」という風に、よく言われるわけですから、そう思っていても仕方がないだろうと思います。でも、それはプレイフルラーニングにおける「遊び」のとらえ方と、ちょっと違うんです。

プレイフルラーニングにおける「遊び」(以下、「遊び」と書きます)と「学習」の大きな違いというのは、まず「遊び」は自分でやることを選ぶ、ということです。「遊び」の場合は、やることは何も決まっていません。自分自身で活動の対象を決める。選択が自由なんですね。

もう一つ違うことは、その中に本人が楽しいと思う要素が入っていて、ゴールが決まっていないということ。ここまでやらなくてはいけない、という方向性や目的がないのが「遊び」です。

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――つまり、目的がなくて、本人が楽しいと思う行動が、乳幼児期の子どもの「遊び」の本質なんですね。

その通りです。それに対して、「学習」は、何を勉強するのかという目的があり、ある程度やることが決まっています。“数を覚えましょう。"”文字を覚えましょう。“”九九を覚えましょう。“それは、大人がセッティングしたことであって、子どもは決められたことをやるだけ。そしてそこには、「覚えた」というゴールがあります。

「遊び」の場合には、本人がやることを決める、自由度が高い。そして、自分にとって楽しいと思うことをやる。何もないから、どのようにして遊ぶか、自分で考え出さなくてはいけない。方向や到達点がなく、探究的で、能動的な行動です。「学習」は、対象と目標とゴールが決まっています。だからこそ、子どもは受け身になってしまう。

――ある意味、「遊び」のほうが大変そうですね。

そうなんです。うちにはよく孫が遊びに来るのですが、遊びたくてしょうがないから、一生懸命工夫をするんですよ。

先日も、「かくれんぼしよう!」って言われたので、「この部屋では狭くて、かくれんぼはできないよ。」と伝えたら、考えに考えて、隣の部屋からぬいぐるみを持ってきて、「じゃあ、ぬいぐるみのかくれんぼをしよう!」と。新しい遊びを自分で見つけたんですね。これこそまさに、「遊び」を通じて、探求心が高まっている瞬間だと思いました。

――かわいいですね!

「遊び」を通じて、自分で考え、いろいろな判断を行う。これは、脳のなかでも、前頭葉という部分を働かせている、ということです。「前頭葉を積極的に働かせることができる」。これが、幼児期の活動に、なぜ「遊び」を中心に据えるか、という答えのひとつなんです。

――前頭葉の働きを高めることは大切だとよく言われていますね。

そうです。最近は、AI(人工知能)などの発達があり、これからの子どもたちに必要なのは、いままでにように単純に問題を解いたりする力ではなく、「問題解決型の能力を身につけること」「探究心を養うこと」「イノベーションにつながる力を身につけること」ではないかと言われるようになりました。これは前頭葉の働きと強い関係があります。そして、それこそが「遊び」の中で、子どもたちがやっていることなんですよ。

従来の学習、つまり、物事を覚えたり、答えのある問題を解いたりするという、受け身的な教育も、もちろん必要だし、基礎になります。しかし、それから先にいく探究心、イノベーションにつながる力というものは、受け身な「学習」からは得られません。子どもたちには、「遊び」が必要なんです。

楽しい。目標がない。探求的。自由。そういった「遊び」の状態で学ぶことによって、イノベーションにつながる力、問題解決の能力が身につくということは、心理学でも教育学でも分かっています。

それがわかってきたからこそ、いま、プレイフルラーニングという学び方が世界で人気になっているんですね。


第2回「勉強しなさい」は逆効果! 「遊ぶことで、天才になれる」って本当? に続く

第2回は5月21日公開です。
https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/education/gXrZM


榊原洋一先生監修『あそんで、天才! からだの天才 ウキウキ小学1年生』
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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。