家事のプロが実践 子どもを「家事シェア」に巻き込んで生きる力を養おう!

家事研究家・佐光紀子「幼児の家事デビュー」の教え 第2回

佐光 紀子

「それはやらないで」の伝え方もお願いモードが効果大

子どもが家事をするとき、かえって手間が増えることは往々にしてあります。油でべとべとのフライパンの上に、お皿を置く、など。

そのとき思わず「何でこんなことするの!」「これは油でベトベトになるからここに入れちゃダメって言ってるでしょ!」としかると、子どもの手伝おうという気持ちに水を差してしまい、逆効果になります。

それよりは、「油がベトベトになるからここに入れないでね。ママが泣きたくなっちゃうからやめて」と「お願い」方式が有効です。「あ、そうか、こうするとママが泣いちゃうんだ」と思うと、ママのために気をつけてあげようと思うようです。

家庭内だって「ダイバーシティ」 パパ・ママのやり方が違えば協議

夫婦がそれぞれ家事をすると、そのやり方が違うことは多々あります。片方、特に家事歴が長いママの方は自分のやり方が正しいと思いがち。ですが、当然ながら家事にはいろいろなやり方があります。「家庭内ダイバーシティ」を頭に入れたうえで、コミュニケーションを取ることが大切です。「それは正しくない!」と相手を否定するのではなく、「なぜそうなるのか。どっちがいいのか」を、平坦に話をするのです。

例えばパパはTシャツをハンガーにかけるとき、Tシャツの首回りからハンガーを入れる。「なぜそうしているの?」「簡単だからだよ」「でもそうすると首回りが伸びてヨレヨレになりやすいんだよ。下から入れた方が型崩れしにくいよ」「ラクな方がいいなら、いっそ物干しざおに干そうか」ということを子どもたちと3人で話してみてはどうでしょう。

こうして、一緒に解決策まで見つけられればベスト。この調整を積み重ねていくことが、チーム(家族)の家事力を高めることにつながります。

子どもが失敗しても「笑ってフォロー」で生きる力が育める

幼児の家事に失敗はつきもの。ただし、失敗を減らす工夫はできます。たとえば、キッチンのシンクに、色も形も同じ食器洗いのスポンジとシンク洗いのスポンジを置いたら、間違えてしまうのは自明の理。この場合、シンク洗いのスポンジは撤去し、代わりにブラシを置くのも工夫の一つです。

子どもが年長や小学生に上がり、家事手伝いを本格的にやるようになったら、間違いに自分自身で気づいてもらうことも重要です。そのためには、何が間違いなのか分かるように、あらかじめその家事の「完成形」を教えておくこと。

たとえば、「お皿を洗う」という作業は、「お皿の表と裏を洗って、最後は泡がなくなるまですすぐ」ことだと説明しながら、1~2回は一緒にやってみる。その後本人にやってもらい、最初の何回かは「あ、ここをもうちょっとすすぐとよかったね」とフォローを入れるのです。「これじゃダメ!」とダメだしするのではなく、「あー、ここさえやっていれば完璧でしたね~」などと、穏やかに教えることがポイントです。

私の話でいえば、長男が小学校一年生の時にお風呂洗いを教えました。初めて長男が一人でお風呂を洗った日、彼に一番風呂に入ってもらうことに。すると、お風呂が沸いてふたを開けにいった息子が、しょんぼりして戻ってきたんです。曰く、「いつもと違うお風呂ができた」。

見たら、髪の毛や石鹸カスのようなものが浮いていました。本人はショックで泣きそうな顔をしていました。

あのとき、もし私がお風呂のフタをあけて、汚れているのを見つけたら「ちゃんと洗えてないじゃん!」と怒っていたかもしれません。ですが、本人が自分自身で結果を検証して、気づいた。それは1回、完成形を見せていたからこそ。

ここで学んだのは、親が結果を検証せず、その家事をした本人に検証を任せてみることの重要さでした。最初のうちは失敗してもいいんです。そして失敗したら、一緒に笑えばいい。米研ぎだって、おかゆみたいなものができたら、本人も「ちゃんと測らないとダメなんだ」と気が付くでしょう。そこを笑って「お腹に入ったら一緒だから大丈夫だよ。次はちょっと気をつけてお水を測ってね」とフォローするのが親の役割だと思います。

子どもに家事をさせることは、すなわち親がラクになることに直結しません。むしろ、ラクになろうと思うと、親の期待値に合わないときは怒りがわいてきます。一方、彼らの生活力、つまり生きる力を長年かけて育てていこうと思えば、一緒に困って一緒に笑うことができます。親が寛容に受け入れることで、彼らは失敗を乗り越えて、生きる力を育くんでいくんです。


構成/桜田容子

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さこう のりこ

佐光 紀子

ナチュラルライフ研究家・

1961年、東京都生まれ。国際基督教大学を卒業後、繊維メーカーや証券会社で翻訳や調査に従事後、フリーの翻訳者に。本の翻訳を機に、重曹や酢などの自然素材を使った家事の研究を開始。 2002年に『キッチンの材料でおそうじする ナチュラルクリーニング』(ブロンズ新社)を上梓する。その後、『もう「女の家事」はやめなさい――「飯炊き女」返上が家族を救う』(さくら舎)など、家事の負担を軽減する著書を多数執筆。 近著は、家事シェアを円滑に進めるコミュニケーション方法などを説いた『なぜ妻は「手伝う」と怒るのか 妻と夫の溝を埋める54のヒント』(平凡社新書)。プライベートでは、2021年6月時点で社会人として活躍する三児を育てた母でもある。

1961年、東京都生まれ。国際基督教大学を卒業後、繊維メーカーや証券会社で翻訳や調査に従事後、フリーの翻訳者に。本の翻訳を機に、重曹や酢などの自然素材を使った家事の研究を開始。 2002年に『キッチンの材料でおそうじする ナチュラルクリーニング』(ブロンズ新社)を上梓する。その後、『もう「女の家事」はやめなさい――「飯炊き女」返上が家族を救う』(さくら舎)など、家事の負担を軽減する著書を多数執筆。 近著は、家事シェアを円滑に進めるコミュニケーション方法などを説いた『なぜ妻は「手伝う」と怒るのか 妻と夫の溝を埋める54のヒント』(平凡社新書)。プライベートでは、2021年6月時点で社会人として活躍する三児を育てた母でもある。