プロが教える“アリ飼育”のコツ 自宅で世界的大発見ができるかも!? 

「公園が100倍楽しくなる“アリ道”入門」#3〜アリの飼育編〜

アリの生態を詳しく知りたい人は「女王アリ」を飼おう

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アリの飼育キットを販売する島田さんは、アリを飼う魅力を次のように話します。

「アリの子育てや巣のなかで仲間と協力して暮らしている様子は、本来は土のなかで行われていることであり、野外では見られないもの。それを自宅で観察できるというのが飼育の1番の魅力です。

アリの行動にはまだまだ分からないことがたくさんあります。私はこれまでにアリ観察を通じてさまざまな発見をしました。

その一つが「ブルドックアリ」という種の女王アリの食性です。あるとき、働きアリが一定数増えた状態の女王アリを観察しているうちに、何も食べていないことに気づきました。しばらく観察を続けていると、女王アリは働きアリが産んだ卵を直接口で受け取って食べていることが分かったのです。

ブルドックアリは、女王アリや働きアリがひんぱんに産卵をして幼虫に与えるという興味深い習性がありますが、女王アリ自身もこの卵を食べて栄養を摂取していたとは驚きました。

自宅のテーブルの上でアリを観察しているだけで、世界中で誰も知らないような大発見があるかもしれません。そういうおもしろさもアリの飼育の魅力の一つです」

さらに、アリの飼育をするには、大きく2パターンに分かれると島田さんは続けます。

「働きアリを捕まえてきて空き瓶や飼育キットなどで飼う方法と、女王アリを採集する方法です。働きアリの寿命は約1年ほどですが、女王アリの寿命は10年〜20年で、その間に卵を産み続けます。アリの生態を深く、長く知りたい人には、女王アリの飼育をおすすめします」

「女王アリは特有の体型がある」と島田さんはいいますが、見慣れないと見分けるのは難しいものです。そこで、夏に女王アリを見つけるためのコツを教えてもらいました。

「女王アリは繁殖期になると一斉に飛び立って、オスと交尾をします。これを『結婚飛行』といい、交尾を終えた女王アリは足で翅(はね)を落とし、巣をつくるのです。

8月は、トビイロケアリという種の女王アリが結婚飛行をします。雨上がりなどの蒸し暑い夏の夜には、コンビニの灯りや街灯の下に小さな羽アリが飛んでいて、地面をよく見ると翅(はね)を落とした女王アリが歩いていることがあります。それが結婚飛行を終えた女王アリです。

体をよく見ると胸部に厚みがあり、腹部がふっくら大きいのが分かります。これが、女王アリ特有の体型です

1匹連れて帰ってくれば、卵を産み家族が増えて、何年も飼育を楽しむことができますよ」

トビイロケアリの女王アリ。  写真提供:島田拓
トビイロケアリの働きアリ。大きさや腹部のふくらみなど、女王アリと見比べると全く違うことが分かります。  写真提供:島田拓

飛んでいる羽アリも女王アリであるものの、「翅(はね)のある女王アリは交尾を終えていない可能性があり、連れて帰っても卵を産むことはない」ことを覚えておくのも大事なポイントです。

このように灯りの下には、季節ごとにさまざまな種類の女王アリが集まってきます。9月になると、キイロシリアゲアリという種の女王アリがよく見つかるそうです。

キイロシリアゲアリの女王アリ(右)と働きアリ(左)。大きさの違いがよく分かります。  写真提供/島田拓

また、女王アリを飼うのに特別な飼育環境は必要ないとも島田さんは言います。

「女王アリを1匹捕まえたら、小さなプラスチック容器やタッパーなどに湿らせたキッチンペーパーを敷いて、そこに女王アリを入れておくだけ。女王アリは何も食べずに卵を産み、卵は幼虫になります。幼虫は脱皮をくりかえしてまゆをつくり、そこから働きアリが出てきます」

島田さんは、女王アリを捕まえたらこのようなプラスチックケースで飼育しています。小さなアリは、この女王アリから生まれた働きアリです。  Zoom取材にて

小さなトビイロケアリの女王アリなら、フィルムケースのようなプラスチック容器でもいいとのこと。ここで女王アリは、まゆから働きアリが出てくるまでワンオペで育児をします。人間にも通じる部分があると知ると、アリがぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。

トビイロケアリの女王アリが入っている小さな容器。なかには湿らせたティッシュを入れています。  Zoom取材にて

「働きアリが生まれたら、今度はエサが必要です。僕は別のプラスチック容器を“エサ場”にして、そこにエサを入れています。

二つの容器に穴を開けてチューブで連結させると、働きアリは通路を通って巣のなかにエサを持ち帰ることができます」

エサ場のプラスチック容器は、中身が見える透明プラスチックであればプリンカップなどでもOKです(ただし、フタを用意する)。

プリンカップを使った飼育ケース。左側の容器が餌場です。  写真提供:島田拓

女王アリの部屋とエサ場をつなぐチューブは、ホームセンターなどで購入できる透明のビニールチューブを使用するとのこと。島田さんは、直径8mm程度のものを使っています。

「働きアリが増えたら巣が狭くなりますよね。その場合は、また別の容器を用意して、チューブで連結して増築します。このように、アリの数に応じて部屋を増やしていくわけです」

両方の容器にプラスチック用のドリルで穴を開けて、チューブで連結したもの。プリンカップなどのやわらかい素材の容器を使うと、ハサミで簡単に穴を開けられます。  Zoom取材にて

一方、働きアリの飼育はとてもシンプルです。

「公園で働きアリを見つけたら、軍手をした手ですくったり、スコップで土ごとすくったりして捕まえましょう。家に連れて帰ったら、湿らせたキッチンペーパーを敷いた瓶、プラスチック、飼育キットで飼育します。

女王アリと同様に土は必要ありませんが、働きアリは仕事がないとやることがなくなるので、容器に土を入れて巣を掘る姿を見て楽しむのもいいですね」

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