
東京発「探究活動」をする幼稚園・保育園は約3300に! 小学校にもつながる学びの本質とは?
乳幼児からの探究 東京都の実践 #3 探究活動の「質」を高めるために (2/3) 1ページ目に戻る
2026.03.29
探究活動の「質」をさらに高める 園同士が学び合うネットワークとは
──2023年度にベータ版プログラムからスタートした「すくわくプログラム」ですが、実践園は増えているのでしょうか。
鳥井:探究活動を実践する園は順調に増加しています。2025年度は約3300園で実践を見込んでいます。一方で、探究活動の「質の部分」をさらにどう高めていくかについては、2024年度に全域展開をした当初から課題意識を持っていました。
2024年度は研修会、専門家のアドバイスをまとめたヒント集の提供などを行い、探究活動への理解を深め、実践に反映できる情報を提供してきました。2025年度はワークショップを実施したほか、実践園が互いに学び合える環境、ネットワークの構築を目的として、すくわくナビゲーター園制度を創設しています。
浅井:2023年度にベータ版で実践を開始した園がある4自治体(江東区、渋谷区、福生市、港区)では、先行してネットワーク作りに取り組んできました。探究実践を他の園の先生に見てもらったり、オンライン相談会、実践園が事例を持ち寄る意見交換会などを実施したりしてきました。
鳥井:4自治体の取り組みや、「探究活動の事例、他園の工夫を知りたい」「悩みを相談できる場やアドバイスを受けられる場があれば教えてほしい」といった、他の実践園からの声を参考にしながら、都内全域でもネットワークを創出したいと考えているんです。先生がたが学び合うことが探究活動のレベルアップにつながると考えています。
浅井:園同士のネットワークはこれから参加する園を支援することにもつながりますが、すでに実践している園にとっても、非常に有意義だと感じています。すくわくプログラム開始前から探究活動を行っているという園もありますが、単に探究活動を継続するだけでなく、良質なものにしていくことが大切です。
園同士が互いに高め合う中で、全体の探究実践がより良いものになる。それが、「すべての子どもの豊かな育ちを保障する」ことにつながっていくと考えています。
「非認知能力」と「認知能力」をともに育てる探究
──探究活動は「非認知能力の育ちを支える」とうかがいましたが(第1回参照)、改めて、非認知能力と認知能力について教えてください。
浅井:「認知能力」は読み書きや計算、あるいはIQで表される力です。
これに対して「非認知能力」は、その名のとおり、認知能力ではないものとして見出されました。アメリカの貧困地域での介入実験(ペリー就学前プロジェクト※)で、就学前の子どもを対象に、自主性を尊重した幼児教育などを実施しました。
その後、追跡調査をすると、IQの伸びは数年で消えたにもかかわらず、大人になってからの収入や持ち家率、逮捕率に違い(プラスの影響)があることがわかったのです。この結果から、認知能力以外の力、つまり「非認知能力」が重要だと考えられるようになりました。
【ペリー就学前プロジェクトとは】
1960年代に行われた、貧困層家庭の就学前児を対象とした支援的介入調査。その後、長期で追跡調査を行ったところ、支援を受けたグループが受けなかったグループよりさまざまな面で上回っていたことがわかったが、IQについては支援終了後、約4年が経つと差が消えていた。
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──認知能力と非認知能力は一緒に伸びるのですか? 多くの人にとって「認知能力を身につけるためには反復学習が必要」「勉強ばかりでは非認知能力が育たない」といったように、相反するものというイメージがあるのではないでしょうか。
浅井:確かに、そのように誤解されている面はあるかもしれません。両者は関連し合ってともに育ちますし、何より子どもは「まるごとの存在」ですから、経験全体から学び、成長していきます。
そうした認識に立つと、認知能力と非認知能力どちらかのみを育てるアプローチには、課題も生じうることがおわかりいただけると思います。
たとえば、「ドリルの問題を繰り返し解く」トレーニングをした場合、学力テストの点数は上がるかもしれませんが、学びへの興味や関心が抜け落ちてしまいます。
反対に、「○○をすれば非認知能力が鍛えられる」と考えるのも変ですよね。「非認知能力」という能力があるわけではなく、認知能力以外にも大切なものがあり、それを一緒に育むことが重要なのです。
繰り返しになりますが、子どもは経験の中でトータルに育っていきます。その経験を良質で意味のあるものにしよう、というのが探究活動の考え方です。
対象世界と出会い、互いの発見を聴き合うプロセスをとおして、ものごとへの興味を持ち、探索したり考えたりすることのおもしろさを感じ、他の子の考えに耳を傾けます。わくわくできる豊かな経験をつくることで、子どもの育ちを支えていくのが探究活動なのです。
──でも、社会全体としては、小学生になると「読み書き、計算のほうが大切」という雰囲気が強まり、探究的な活動や学びが途切れてしまうように感じます。今後、探究活動がさらに学校教育に広がっていくために、何が必要でしょうか。
浅井:これは学校だけでなく、乳幼児施設についてもいえることですが、探究活動の出発点である、「すべての子どもの知性を信じる」という考えを共有することが重要だと感じています。この前提がなければ、本当の意味で子どもの声に「耳を傾けていく」ことはできません。
「知性を信じる」という態度は、先生だけでなく、探究に取り組む子ども自身にも当てはまります。友だちの世界の見方には意義があり、自分にとって学ぶべきところがある、興味深いんだという姿勢で、子ども同士が対話していく。そうやって考えを聴いてもらえた、信じてもらえた経験が積み重なり、「自分の存在そのものに価値がある」という確信につながっていきます。これが非認知能力に含まれる、「自己肯定感」と呼ばれるものなのです。
こうした探究の本質が伝わらないまま、「子どもが興味関心のあることを学ぼう」といった表面をなぞった活動を行っても、子どもの豊かな育ちにはつながりません。
「互いの知性を信頼して、耳を傾ける」というベースさえ押さえれば、探究活動は学校の教科学習にも取り入れることができますから、今後さらに実践を広げていくことができると思います。































