ベビーシッター 便利なサービスの利用を阻む「安心・安全の壁」の乗り越え方

株式会社ポピンズホールディングス代表取締役社長・轟麻衣子さんインタビュー【2/3】

萩原 はるな

写真提供:ポピンズホールディングス

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1987年に創業された、ベビーシッターサービスの草分け「ポピンズ」。当時、ベビーシッター(以下、シッターに略)といえば、「金銭的な余裕がある、ごく一部の家庭が利用するサービス」という時代でした。

第1回では、ポピンズの代表取締役社長・轟麻衣子さんに、その歴史や近年のシッター事情、金銭的な助成や補助について伺いました。
ポピンズでは、子育てのプロフェッショナルが子どもを育む「ナニー」と、よりカジュアルに利用できる「シッター」といった2つのシッターサービスを提供しています。

今回のテーマは、「家の中に知らない人を入れて、子どもを預けても本当に大丈夫?」という“安心・安全の壁”。その乗り越え方について、専門家の立場から教えてもらいました。

感染対策に努めるだけでなく、予防策を広げていくこともシッターの務め

世界中が新しいウイルスの猛威にさらされた2020年。4月の緊急事態宣言を受けて、ポピンズでは1ヵ月間、シッターサービスを停止したとか。

「世界が未曾有の事態に襲われた当初は、どのように感染を予防できるのかまだわかっていませんでした。そこで、医療従事者やスーパーをはじめとする小売店の店員の方など、エッセンシャルワーカーのご家庭を除いて、サービスを自粛させていただいたのです。
自粛期間中は、シッターたちの体調管理はもちろん、どのような対策をすれば安心、安全にサービスを提供できるかを徹底的に検討する機会と考えました」


感染予防にむけた細かい規約を整えたうえで、いつでもサービスを提供できるよう、シッターたちは自分の家の中でもマスクを着用して準備。再開後は、自分の感染を予防するだけでなく、訪問先の家庭に予防策を伝えるよう注力したと轟さんは語ります。

「お子さまへの対策で評判が良かったのは、お子さまの手のひらに専用のスタンプを押して、『おててのウサギちゃんが見えなくなるまで、手を洗ってみようか』というテクニックです。スタンプが落ちる時間は30秒ほどで、厚生労働省が発表している理想の手洗い時間は20〜30秒。つまり楽しく手を洗いながら、お子さまに『このくらい長く手を洗えば、感染が予防できる』と、身をもって知ってもらうことができるのです」

現在もポピンズのシッターたちは、訪問がない日も毎朝の検温や健康アンケートの記入を続けています。

ポピンズの代表取締役社長・轟麻衣子さん
(ZOOM取材にて)

コロナ禍によって、図らずもシッターサービスの輪が広がった

コロナ禍前からポピンズのシッターたちは、「七つ道具」を持ってサービスを提供してきたそうです。その中身とは、1マスク、2除菌クリーナー、3ハンドソープ、4エプロン、5水筒、6ティッシュ、そして7体温計です。以前からとってきた衛生管理は、そのまま新型コロナウイルスの感染対策につながっていました。

「訪問時には、資格を証明するアイデンティティーカードを提示し、確認していただいてからお家に入らせていただいております。コロナ禍の今は、七つ道具を入れてきたトートバッグ、着てきたコートなどはすべて玄関に置いてビニールでおおい、通勤中についた汚れやウイルスをお家の中に持ちこまないように配慮しております。

当社の社名の由来は、映画『メリーポピンズ』。この作品のポピンズさんが持っているバッグからは、ランプや大きな鏡など、いろいろなものが出てきます。彼女の魔法のバッグのように、当社のシッターたちはお子さまを楽しませるさまざまな秘密道具を持って、お客さまのもとへ伺っているんですよ」

ポピンズのシッターが、コロナ禍の前から持参していた七つ道具。除菌クリーナーや体温計まで含まれている 
写真提供:ポピンズホールディングス 

またコロナ禍は図らずも、シッターサービスがより世の中に浸透していくきっかけになったと轟さん。その理由は、保育園や学校がストップすると同時に、在宅ワークを余儀なくされる家庭が増えたからだとか。

「在宅ワークといっても、リモート会議や仕事上の作業は、子どもと一緒ではなかなか難しいですよね。初めてシッターサービスを利用する場合、自分の目の届くところに子どもとシッターがいれば、留守中にお世話を頼むよりずっとハードルが下がると思います。
そして実際に利用してみたところ、子どもがすごく楽しそうにしている姿が見られる。もちろん、仕事効率は格段にアップしますよね。ですから、『もっと早く利用すればよかった』とおっしゃるご家庭が少なくないんですよ」

良いシッターと出会うためには、納得するまで話をすることが大切

一般的にシッターサービスとは「自分の留守中に、家族が住む家にあげて、大切な子どもの命を預ける」というもの。サービスを利用するうえで、良いシッターに出会うことはもっとも重要です。ではどうすれば、理想のシッターを見つけることができるのでしょうか。

「弊社がシッターを志望する方と面接するときに重視するのは、人となりや人生経験。こうしたことは、資格の有無や職歴、テストなどでは推しはかれません。どんな感性をもって、何を大切にしていらっしゃる方なのかといった人柄は、じっくり話をしなければわからないものです。
それと同じで、利用する方がシッターを選ぶ際には、事前にご納得いくまでお話をされることをおすすめします」


保育は正解がない世界。それだけに、ご家庭の考えに寄り添ってもらえそうか、ご家庭との相性は良さそうかを確認すると良いそう。どんなに優秀なシッターでも、その家族にフィットしないと意味がないのです。

「まずは、教育方針や考え方などをしっかりお伝えすることが大切です。また、お子さまの声にもぜひ耳を傾けてみてください。子どもはとても正直なので、『この人は好き、この人は嫌い』とストレートに伝えてくれますよ。子どもの声から、大人には見えなかった部分がクリアになることも多いのです」

重要なのは、何か起こったときに、責任をもって介入してくれる存在があるかどうか

2020年にはマッチングサービスに登録していたシッターによる事件が明らかになりました。この一件で、安心・安全面からより抵抗を感じた家庭は少なくないでしょう。けれども事前にしっかり見極めれば、こうしたトラブルに巻き込まれるリスクは下げられると考えられます。

「“出会いの場を提供する”という意味では、マッチングサービスはとても画期的だと思います。けれども、会社はシッターを紹介するだけで、『その後は、何が起こっても知りません』という姿勢には問題がありますよね。ポピンズの場合は、シッターもお客さまも、契約しているのは私どもの会社。お客さまからのクレームやシッターたちからの相談などは、当社のコーディネーターやコンシェルジュが対処しています。

ですからシッターサービスを利用する際には、利用者とシッターの間に会社や専門コーディネーターのような、間を取り持つ存在があるところを選ぶことで、責任の所在の明確化や第三者的視点が追加されるのではないでしょうか。『何かあったときに、サービスを提供している会社が責任をもって介入してくれるかどうか』を、しっかり確認しておくことも大切だと思います」


“初対面の人を家にあげて子どもを預ける”というシッターサービスは、安心・安全を保障できなければ成り立ちません。だからこそ、便利さや自分の直感だけで決めてしまうのでなく、仕組みとしての安心や安全も視野にいれる必要があるのです。

「シッターサービスを利用するということは、大切な子どもの命を預けるということ。オンライン宅配などとは違いますから、個人間でやりとりを完結してしまうのは危険です。やはり、保育のプロフェッショナルを養成して派遣する会社を利用するのが安心だと思います。
公益社団法人全国保育協会には100社を超えるシッター会社が加入していますので、ぜひ参考にしてみてください。ちなみにこの協会には、マッチングサービス会社は加入できません」

今後は、国をあげてシッターサービスの安心・安全を守る試みが行われていくようです。
実際、厚生労働省のホームページでは、シッターなどを利用する際の留意点を紹介。トラブルに巻き込まれないための情報を提供しています。利用する前にしっかりチェックして、子どもの安全を守る対策をとっておきましょう。

「シッターを対象とした研修を行っているかどうかも、良いシッターサービス会社を選ぶ目安になります。なかには短時間のWeb面接のみで、簡単にシッター登録ができるところもあるので……。またサイトの星による評価も、誰が評価しているのかわからない以上、参考程度にとどめておくべきかと思います。
ポピンズの利用者のじつに1/3が、利用されている方からのご紹介なんです。信頼できる会社やシッターに巡り会いたいなら、ママ友や先輩ママに聞いてみると、いい情報が得られるかもしれません」


シッターサービスの草分け的存在として、保育に対する意識の変化や時代の流れをつぶさに見てきたポピンズ。前回の「おカネの壁」に続いて、シッターサービスを安心・安全に活用するためのポイントを伺いました。最終回となる次回は、見えないものの高い障壁になっている「世間の壁」の乗り越え方を教えてもらいます。

ポピンズでは、しっかり面談や選考を重ねてナニーやシッターを採用しています。「登録されている方はみな、保育・子育て経験のあるプロフェッショナル。専門資格をもつ方がほとんどです」と轟さん。
写真提供:ポピンズホールディングス

【第1回】ベビーシッター「おカネの壁」の乗り越え方
ポピンズホールディングス代表取締役社長・轟麻衣子さんインタビュー1/3

轟麻衣子(とどろきまいこ) 
12歳からイギリスの名門寄宿舎学校に単身留学、ロンドン大学King’s Collegeに入学する。2006年、INSEAD大学院にてMBA課程を修了。その後、イギリス、フランス、シンガポールにて外資系金融、ラグジュアリーグッズなどの仕事に携わる。
2012年、25年間の海外生活を経て帰国、株式会社ポピンズ取締役に就任。2018年代表取締役社長に就任、2018年より現職。そのほか、公益社団法人全国保育サービス協会理事、公益社団法人経済同友会「日本の明日を考える研究会」副委員長などを務める。自らも2児を育てながら、働く女性たちを支える良質のサービスを提供している。
ポピンズオフィシャルサイト https://www.poppins.co.jp/
ポピンズ採用サイト https://www.poppins-recruit.jp/

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はぎわら はるな

萩原 はるな

ライター

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。