【値上げの夏】家計の見直し&ムダ遣いの減らし方を金融教育のプロが解説

あらゆるものが「値上げ」…続く物価上昇にどう対応する?

金融教育director:橋本 長明

この夏はあらゆるものが「値上げ」される?(写真:アフロ)

【あらゆるものが「値上げ」、家計の不安が高まる】
2022年6月6日、日銀総裁・黒田東彦氏が講演で「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言し、大きな議論を呼んだことは読者の記憶に新しいでしょう。ネット上では批判が集中し、7~8日に国会に呼ばれた黒田氏は「誤解を招いた表現で申し訳ない」と陳謝、発言を撤回しました。

しかし、家計の「値上げ許容度」が高まらずとも、あらゆるものの「値上げ」は、もはや止まらない状況です。帝国データバンクは6月15日、2022年4月~23年6月に主な商品やサービスを値上げする企業が7割近くに達したと発表しています。

「家計の不安」が高まるなか、一般家庭ではこれからに備え、どんなことを知るべきでしょうか? 『すてきな相棒! おかね入門』(リトル・モア刊)の著者で、日本銀行出身・金融教育ディレクターの橋本長明氏が、家計の見直しとムダ遣いの減らし方を「金融教育的視点」で解説します。

しばらく続く物価上昇

資源高やウクライナ情勢などを主因に、物価がどんどんあがってきていますね。欧米では1970~80年代以来の高インフレとなり、海外発のこの傾向は残念ながら国内でもしばらく続くと思われます。

本来、モノが売れ、物価があがり、企業収益があがり、所得が増え、消費が増えるといった景気循環が発動されるのですが、今回の物価高については要因が異なるため、こういった循環には恐らくならないでしょう。

せっかく少しコロナが落ち着き、これから個人消費も復活していくはずだったのに、特に資源輸入国である日本にとっては、大打撃となってしまいました。

こうした中、次々と起こる値上げに悲鳴をあげているご家庭も多いことでしょう。しかし今日は、こういったピンチをチャンスと捉え、「金融教育的視点」による家計の見直しとムダ遣いの減らし方をお伝えしたいと思います。

これを機にぜひ覚えていただき、厳しい物価情勢ではありますが、少しでも毎日の生活の一助になってほしいと思います!

家計簿はつけてますか?

そもそも家計見直しの最善の対策は、大きく分けると「固定費の見直し」と「流動費の見直し」の2本立てとなります。この作業については、そもそも家計管理をしているのが前提となりますので、まず、家計簿などで管理をしていない方は、ぜひこの機会に家計簿をつけることからはじめてください。

家計簿というと二の足を踏まれる方は、簡易支出帳などで支出の管理だけでも大丈夫です。おかねのブラックボックスを可視化することができて、必ずや見直す項目が出てくると思います!

そして、毎月出ていく固定費は住居費や光熱費、保険料、子どもの習い事など、すぐに見直しがしづらいものが多いはずです。一方、流動費は、交際費や洋服、レジャーなど見直しが可能な項目があるはずですので、流動費から見直し作業をはじめましょう。

最近は便利な家計簿アプリも豊富。「固定費の見直し」と「流動費の見直し」の2本立てで、「おかねのブラックボックス」を可視化してみましょう(写真:アフロ)

見直す際の考え方として、単に、ここを切り詰めよう、ここが使いすぎだ、ここを我慢しよう、となりがちですが、実は金融教育における消費(買い物)では、「消費」「投資」「浪費」という3つに分類できます。

さらに、「ニーズ」「ウォンツ」という考え方があります。この考え方を覚えて、適切な見直しと、適切な消費を行うことが、値上げへの対応策にきっと繫がるはずです。

消費と投資と浪費

「消費」とは、現在の満足のためにおかねを使うこと。たとえばスーパーで好きなお刺身を購入したり、カフェで一息美味しいコーヒーを飲むことなど。

「投資」とは、未来の満足感を高めたり、将来の自分のために使うこと。たとえばリカレントで大学院に通う費用や、子どもの留学費用、将来に備えた自宅のバリアフリー化なども。

「浪費」とは、必要以上におかねを使って「ムダ遣い」すること。この「必要以上」というのがポイントです。食べ切れないほどのスイーツを買ってしまったり、必要ないモノをそのときの気分でポチッと買ってしまったり……。

まず、この考え方を覚えて、自分たちの消費はどれに該当するかと考える癖をつけましょう。

単純に言えば、浪費を防ぎ、消費と投資を行うということです。

ちなみに、消費と投資については、人それぞれの尺度が異なります。たとえば「旅行」のように、旅先で過ごす時間が楽しいだけでなく、初めて行く場所で見聞きしたことが、将来の自分のためになるなど、両方当てはまる場合もあります。

ニーズとウォンツ

では、「必要以上」というのはどのくらいなのでしょうか?

「ニーズ(needs)」「ウォンツ(wants)」という考え方があります。

つまり、消費する際に、「これは必要なもの(ニーズ)なの?」「欲しいもの(ウォンツ)なの?」と自問自答してみてください。

「本当に必要なものなの?」

「欲しいものなら、我慢できるんじゃない?」

「今月のおかねは大丈夫?」

こうやって自分に問いかけながら消費をすることで、「ムダ遣い=浪費」を防ぐことになるのです。この物価高が続く世の中で消費をする際、スマホでポチッと押す前に、この自問自答する癖をつけることが、浪費を、ムダ遣いを防ぎ、ひいては、おかねの節約につながっていくことでしょう。

そして、家計の見直し作業の際にも、ただ単に「切り詰めよう」ではなく、固定費・流動費に分け、それぞれについて、ニーズ・ウォンツ、消費・投資・浪費の視点を活用して、「ニーズである○○を優先すべきだから○○のウォンツは切り詰めよう」とか、「○○は消費でも投資でもなく浪費だから節約しよう」など、ご家庭で腹落ちするような見直しをしていきましょう。

私自身、今月ですが、3年使ったスマホの買い替えであまりの値上がりに大変驚きました。分割払いとして、ニーズである固定費の毎月増額分のカバーのため、ウォンツである趣味のサブスクを1つ解約しました。

お子さんにも金融教育

横浜銀行の「おこづかいちょう」。こどもから大人まで、手軽な簡易支出帳やおこづかい帳として1年間使える。

そして、お子さんがいるご家庭では、小さい年齢から金融教育を行うことが有益であるという考え方は多くの国でも共有され、日本の金融教育プログラムでもおこづかいちょうによる金銭管理は小学3年生から推奨されています。

私自身もそうでしたが、今の大人の多くは金融教育を受けてきていないので、前述の消費の考え方は習ってませんでしたよね。浪費癖がいったんついてしまうと大人になって直すのは本当に苦労します。

早い段階で金銭管理やおかねの使い方を身につければ、適切な消費ができる大人になる可能性は格段に高まりますので、ぜひ、お子さんと一緒に消費について学び、ご家族みなさんがより豊かな人生を過ごしてほしいと思います。

おかねとは、経済社会に必要な、便利な道具ですが、おかね自体に価値はありません。おかねがたくさんあるから幸せという訳ではなく、幸せに生きていくため、夢や目標を叶えるために、おかねがあると考えて、すてきな人生をお過ごしください!

橋本 長明(はしもと・ながあき)
金融教育director、ブランディングdirector、選曲家ほか。東京生まれ。大学卒業後、日本銀行入行。静岡支店、情報サービス局、金融広報中央委員会事務局、調査統計局などに10年在籍し退職。日銀では、学校教育における金融教育の概念作りや「金融教育元年」事業に注力したほか、広報、ブランディング、景気分析などを経験。その間、いろいろな個人活動で人々と出逢い、現在は金融教育やブランディングを軸とした講演・執筆活動、企業や個人のブランディング、銀行の金融教育企画・運営、選曲家/DJ、ISETANの企画など、人や社会が楽しくなり、何かを考えるきっかけを創る活動をしている。文化服装学院特別講師、日本FP協会会員。

すてきな相棒! おかね入門 橋本長明/著(リトル・モア刊)

いよいよ小・中・高等学校で、金融教育の授業がスタート!  10代のうちから使って、知って、考える!  ここからはじめる「おかね」の話。学校では習わない知識と、未来をひらくヒント。日本銀行出身・金融教育ディレクターの著者が今こそ伝えたい、「おかね」との付き合い方。

はしもと ながあき

橋本 長明

Nagaaki Hashimoto
金融教育director

金融教育director、ブランディングdirector、選曲家ほか 東京生まれ。大学卒業後、日本銀行入行。静岡支店、情報サービス局、金融広報中央委員会事務局、調査統計局などに10年在籍し退職。日銀では、学校教育における金融教育の概念作りや「金融教育元年」事業に注力したほか、広報、ブランディング、景気分析などを経験。その間、いろいろな個人活動で人々と出逢い、現在は金融教育やブランディングを軸とした講演・執筆活動、企業や個人のブランディング、銀行の金融教育企画・運営、選曲家/DJ、ISETANの企画など、人や社会が楽しくなり、何かを考えるきっかけを創る活動をしている。文化服装学院特別講師、日本FP協会会員。

金融教育director、ブランディングdirector、選曲家ほか 東京生まれ。大学卒業後、日本銀行入行。静岡支店、情報サービス局、金融広報中央委員会事務局、調査統計局などに10年在籍し退職。日銀では、学校教育における金融教育の概念作りや「金融教育元年」事業に注力したほか、広報、ブランディング、景気分析などを経験。その間、いろいろな個人活動で人々と出逢い、現在は金融教育やブランディングを軸とした講演・執筆活動、企業や個人のブランディング、銀行の金融教育企画・運営、選曲家/DJ、ISETANの企画など、人や社会が楽しくなり、何かを考えるきっかけを創る活動をしている。文化服装学院特別講師、日本FP協会会員。