「中学受験」の修羅場 SAPIX(サピックス)卒業生ママたちが明かす「テキストを壁にぶつけたことも!

後悔しない中学受験伴走座談会 後編 ~修羅場編~  

教育ジャーナリスト:佐野 倫子

テキストを壁にぶつけたことも!? 3人のママに「中学受験伴走」の修羅場を語ってもらいました。  写真:Hakase/イメージマート

教育ジャーナリスト・佐野倫子さんが中学受験の最前線を伝える「令和の中学受験」連載。

今回は、2024年2月に中学受験を終え、大手塾『SAPIX』を卒業したママたちによる、座談会の後編です。

伴走を終えたママたちの「修羅場」はいつだったのでしょうか? また、終わったから言える「SAPIX」への想いについても語っていただきました。

(全2回の後編。前編を読む

佐野倫子(さの・みちこ)
東京生まれ、早稲田大学卒。航空業界・出版社勤務を経て作家・教育ジャーナリストに。著書は『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)。男子2人のママ。

座談会メンバー
Aさん:男子ママ。お子さんは第2志望の男子校に合格。小3から通塾。
Bさん:女子ママ。お子さんは第1志望の共学校に合格。小2から通塾。

Cさん:女子ママ。お子さんは第3志望の女子校に合格。小4から通塾。

一番の修羅場は6年生の後半

──前編では、勉強時間と課金についてお話しいただきました。今回はさらに核心に迫りたいと思います。ぶっちゃけお聞きしますが、中学受験をとおして、一番の「修羅場」はいつでしたか?

Aさん:我が家は6年生の9月~12月でした。第1志望の学校の80%偏差値(その偏差値の子が受験すると8割が合格するライン)に、夏の時点で7も足りていなくて、合格率は20%以下でした。

本人は、「第1志望は絶対に下げない」と言いはるばかりだし、焦っているのはずっと親ばかりだし。

怒鳴り散らすなんて漫画の中のことかと思っていましたが、この時期は「このままじゃ落ちる」「うまくいかない」という考えが頭の中をずっと渦巻いて、「どうしていつまでも自分事にならないの⁉」「今やらないでいつやるの⁉」と叫び続けていましたね。テキストをかたっぱしから壁に投げつけたこともあります。

悲しくて、恥ずかしくて、当時はママ友には言えなかったけど、終わって皆でランチをしたとき、何人もの伴走ママが、「ヒステリーを起こしたことがある」と言っていました。当時の息子も反抗期に入ったときで、口答えもひどいし、壁を殴ったりしたことも。家のなかが思い出したくない雰囲気に包まれていましたね。

子どもより夫と険悪に

Bさん:うちは子どもとの関係というより、夫と険悪になりました。私も視野が狭くなっているから「私がこんなに受験のために必死なのに、飲み会だのゴルフだのどういうこと⁉  土日もダラダラ寝ているし。あの子はあんなに頑張っているのに!!」って、受験生の親の自覚がない夫に不満がたまっていました。

夫は、「中学受験って必要?」と、受験自体に懐疑的なところを、私が押し切って始めたので、仕方ないとはいえ、非協力的で、「受験が終わったら離婚しよう」と思ったことも。

合格してすごく喜んでいたけど、正直「あなたはそこまで喜ぶほど思い入れありました?」って思いましたね。

本命不合格……

Cさん:娘はαクラス(SAPIXの上位2割ほどの優秀なクラスの呼称)には縁がなく、よくあるα落ち! みたいな焦燥感とは無縁でした。受験を最後にしたくて、大学附属を第1志望にしていました。

それでも合格率はよくて40%。すごく頑張ったと思うんですが、最後まで成績は変わりませんでした。

そのまま突撃し、本命不合格。スマホで不合格が表示された瞬間、貧血でしゃがみこんでしまうほどショックでした。

2月2日の午後の受験が終わった後、塾に行って先生に娘を励ましてもらいました。あの数日、生きた心地がしなかったですね。「私の作戦ミスだったんじゃないか」と、夜も眠れなくて……。うちには下の子がいるんですけど、いまだに「中学受験っていいものだよ!」とは言えずにいます。

SAPIX時代の偏差値

──三者三様の試練を乗り越えていらしたんですね……! 単刀直入に伺いますが、皆さん後期(6年生の9月以降)のSAPIX平均偏差値と、実際にご入学された学校の偏差値は離れていましたか?

Aさん:我が家は後期平均が55で、57の学校に進学しています。

Bさん:うちは後期平均58で、今は59の学校に進学しました。

Cさん:我が家は後期平均46で、同じ46の学校に進学しています。

これから中学受験を戦う家庭へ

──どのご家庭も、持ち偏差値以上の学校に合格していらっしゃるんですね。それはすごいことだと思います。

SAPIXは、生徒のレベルがとても高いので、最後までついていけば難関校にたくさんのお子さんが入学されると聞きますが、その分ハードで親の伴走の負担も大きいと思います。戦い抜いた皆さんから、これから中学受験を戦う親子へ、メッセージをお願いします。

Aさん:中学受験は、多様化してきていると感じました。SAPIXは超難関校を目指す方にはいい塾ですが、全員に向いているとは限らない気がします。

教材もプリントや薄い冊子を毎回たくさん渡されるので、親が管理をする必要があるし、カリキュラムの質も量も我が家にとっては衝撃的でした。

お子さんに合った塾が探せると、親子ともにすこしでもいい受験ができるのではないかと思いました。

Bさん:最後は本人だと思います。それが私の偽らざる本音です。6年生の最後の追い込みは、我が子ながら頑張っていたと思います。あれはなかなか親が言ったからといってできるものでもないと思いました。

なので、最後に頑張れるように、モチベーションを上げてあげる工夫、早くから熱望校を設定すること、気分転換をうまくはかること、体調管理。この4つを、親が本気でサポートしてあげてほしいと思います。

Cさん:うちは正直、SAPIXじゃなくてよかったかもと思っています。でもそれは終わったから言えることで、違う塾に行っていたら今の進学先に合格できていたかはわかりません。

周囲のレベルややる気に引っ張られていたという側面もありますし。我が家みたいにボリュームゾーンで受験を頑張るときは、テストの結果に一喜一憂しすぎず、基礎を大切に、毎週の単元を大事に勉強していくことが大事だと思いました。

可能性は「ずば抜けている子」だけではない

座談会を終えて、正直まだまだ皆さん心身ともに疲れが残っていらっしゃるようでした。それだけ激闘されたということだと思います。

大手進学塾のなかでも、SAPIXに最後までついていくのは大変なことだということは中学受験界では「常識」です。わかってはいましたが、リアルな声を伺うと、改めて親子の総力戦だと感じました。

とはいえ、復習をしっかりして、日々コツコツと課題をこなしていけば、必ずしも「ずば抜けているお子さん」だけではなく、あらゆるお子さんの可能性を拓いてくれる塾だといえます。

結局は、それぞれが自分の課題に向かってどう取り組むかということ。お子さんの適性をみながら、それぞれの塾の特徴を調べ、できれば通った方のお話も参考に、お子さんに合ったスタイルで受験勉強ができるとベストですね。

今、中学受験に向かって走っているすべての皆さん、応援しています。

取材・文/佐野倫子

中学受験伴走座談会
1回目を読む。

『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』著:佐野倫子(イカロス出版)
『受験精が来た!』著:真田涼、イラスト:ねぎまぷりん (講談社)
さの みちこ

佐野 倫子

Michiko Sano
教育ジャーナリスト

東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57

東京生まれ、早稲田大学卒。英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ留学。航空業界・出版社勤務を経て、作家・教育ジャーナリストに。 講談社mi-mollet、漫画雑誌Kiss(原作)、ダイヤモンド・オンライン、幻冬舎ゴールドオンライン、東京カレンダーWEB、月刊[エアステージ]などで小説・コラムを多数執筆。2人の男の子の母。 主な著書:『天現寺ウォーズ』、『中学受験ウォーズ 君と私が選んだ未来』(イカロス出版)、『知られざる空港のプロフェッショナル』(交通新聞社)。 Instagram @michikosano57 X @michikosano57