「不登校も中学受験も親は無力! 我が子の“横顔”を見守るべき」教育ジャーナリストが力説

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#6‐2 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん~親の見守り方~

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

幼児教育から中学受験現場まで、幅広い取材をこなし、80冊以上の著書を出している教育ジャーナリスト・おおたとしまささん。  写真:日下部真紀

小中学校の不登校児は約30万人(令和4年度文部科学省調べ)。登校渋りや保健室登校など、不登校傾向の子どもはその3倍以上とも推測されています。

教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、不登校の子どもと親の声を受けて、学校以外のあらゆる学びの場を取材。著書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)では、さまざまな子どもの居場所とそこにいる人たちの様子を紹介しています。

「学校に行きたくない」と子どもが言い出したとき、親はまずどうするべきか。寄り添い方、見守り方について伺いました。

※2回目/全4回(#1#3#4を読む)公開日までリンク無効

おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年、東京都出身。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社後、雑誌編集に携わり2005年に独立。教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続け、著書は80冊以上。

我が子に「寄り添う」が学校に行かせるためではNG

我が子が「学校に行きたくない」と言い出した。実際に学校を休み始めて、どんなに言っても行こうとしない。そうなったら、親は戸惑いますよね。ほとんどの親は、プチパニック状態になります。そして激しく悩みます。

だけど、悩みの中身は「どうすればもとどおりに学校に行ってくれるのか」なんですよね。自分の経験則と照らし合わせて、このままじゃ子どもが将来、困ったことになるに違いないと思ってしまう。学校に行かなかったら、人生が行き詰まるに違いないと心配になる。

最近は「不登校という選択肢もある」という認識が広がってきて、多くの親は「引きずってでも学校に行かせるのが子どものためだ」とは思っていません。「子どもに寄り添うことが大切」ということも、よくわかっています。

ただ、寄り添おうとするのは、あくまでも「また学校に行かせるため」なんですよね。口には出さなくても、その意識は子どもに伝わります。「無理しなくていいんだよ」と言いながら、「どうしてがんばれないの」と顔に書いてあるわけで、子どもはますます自分を責めてしまうでしょう。

子どもが不登校になったお父さんから、「子どもに全力で寄り添っているのに、口を閉ざしたままなんです」と相談を受けたことがあります。話を聞くと、お父さんの言う「寄り添う」は、「学校に再び行かせるための、説得の糸口をどうやって見つけるか」が前提でした。

私が「お子さんは今、いろんなことがあって、学校に行きたくなくなってる。まずはその気持ちをお父さんが受け止めてあげるのが、『寄り添う』の第一歩なんじゃないでしょうか」と言ったら、お父さんは「ハッ」と表情が変わりました。その第一歩が難しいんですよね。

親は「待つしかできない」「余計なことを言わない」

今、学校に行けない状態にあることはわかったとして、親は「自分に何ができるのか」と考えます。はっきり言ってしまうと、できることはほとんどありません。子どもが骨折したときに、親が骨をくっつけてあげられないのと同じで。

子どもは、広い意味で傷ついた状態にあります。誰にどう傷つけられたのかは別として、エネルギーが空っぽで元気がない。まずはゆっくり休んで、エネルギーを回復させる必要がある。

そのときに欠かせないのが「お父さんやお母さんは、今までと変わらずに自分のことをそのまま見ていてくれる」という安心感です。それがあって初めて、ニュートラルな気持ちで「自分はこれからどうしようかな、何がしたいのかな」と考えることができる。

エネルギーがなくなっている状態で、何かしなきゃいけないとあせっても、でも何もできないとなって空回りするだけです。親としては「学校に行かないんだったら、せめて本ぐらい読んでほしい」「新しく興味を持てるものを見つけてほしい」と思ってしまう。

それも大事ですけど、子どもが大きな壁を乗り越えようと戦っている最中に、もういいから早く次に行きなさいと急かされても、どうしようもありません。

どの子も、次の一歩を踏み出したいと無意識のうちに思ってる。自分を捕らえていたものが弱まったときに初めて、新しいことへの意欲や興味がわく瞬間が訪れるんじゃないでしょうか。

親は結局、待つことしかできないんです。これは中学受験でも同じなんですよね。子どもがなかなかやる気を出さない。あせった親が塾の先生に相談すると、たいてい「待ってあげてください」と言われます。

うるさく言っても、子どものやる気は出てこない。むしろ逆効果でしょう。そもそも、親が無理やり机に縛り付けて勉強させても意味がありません。

親の役割というか親が忘れちゃいけないのは、必死で戦っている子どもの足を引っ張らないことです。大事なのは、いかに余計なことを言わないかですね。

だけど、自分の望みや「あるべき姿」を押しつけたり、時に世間体を気にした愚痴をこぼしたりして、苦しんでいる子どもをますます追い詰めてしまう親は、残念ながら少なくありません。

「学校に行かなくても“人生詰んだ”なんてことは決してない。今までと同じように未来の可能性は無限にあると子どもに伝えるべき」とおおたさんは言います。  写真:日下部真紀

「親は無力」だから 子どもの「横顔」をしっかり見る意味

親も苦しいのは、よくわかります。「親の会」のようなところとつながって、同じ悩みを持つ親と話すことで、気持ちがラクになることもあるでしょう。

ただし、それはあくまで親自身が自分を保つためです。子どもを劇的に変えるヒントが見つかるわけじゃない。それを探そうとしているうちは、本当の意味で子どもと向き合っているとは言えません。

こう考えてみるのはどうでしょう。我が子が不登校になったのは、身を挺(てい)して親に何かを伝えてくれようとしてるんじゃないかと。何を伝えてくれようとしているのか。まずしっかり受け止めたいのが「親は無力である」ということだと思います。

親の側が「親として何ができるか」「親としてもっとやれることがあるはずだ」と、ある意味「親」に特別な力があるという考えに縛られているうちは、子どもは変わりません。ヘタに動いたら親が先回りして、あれこれ口や手を出してきそうですから。

親が頭の中だけじゃなくて、本当に腑(ふ)に落ちた状態で「自分は無力だ」「自分にできることは何もない」と認めることができたら、子どもは安心してきっと次の一歩を踏み出します。一種の悟りの境地ですけど、けっして特別なことではありません。

私は、不登校の子を持つたくさんの親に話を聞いています。あちこちの「親の会」にも取材に行きました。子どもの不登校を経験した親の多くは、いったんその境地に達しています。

親が孤立したままだと、「どうして」という思いが頭の中をぐるぐる回るだけで、なかなか意識を変えるまでには至りません。追い詰められて、学校が悪いとか先生が悪いとか、出口のない他責の迷路に迷い込んでしまうケースもある。心の余裕を作る意味では、「親の会」につながったり支援の方法を調べたりするのは、大きな意味があります。

当たり前ですが、子どもをほうっておこうと言っているわけではありません。しっかり見てなきゃいけない。ただ、正面からじゃなくて、横顔をしっかり見たいですね。横顔はちょっと油断しているので、その子のありのままの内面が映し出されます。この子なりに必死に戦ってる様子は真正面からだと見えてこないんですよね。

どうしていいかわからなくて、オロオロしていいんです。子どもも悩んでいるんだから、親も子どもの横顔を見ながらいっしょに悩みましょう。でも、悩みはしても悲観する必要なんてありません。

学校に行こうが行くまいが、あなたの子どもが素晴らしい存在であり、未来に無限の可能性が広がっていることには、まったく変わりないんですから。


取材・文/石原壮一郎

学校だけに頼らない多様な学びの形を取材した、おおたとしまささんの著書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)。不登校に迷う子どもや親の指針になる一冊だ。

※おおたとしまささんの不登校インタビューは全4回(公開日までリンク無効)
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おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか