【子どもの不登校】改善のヒントは学校に丸投げせず皆でやる“モザイク模様教育”

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#6‐4 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん~不登校と学校、子育てのこれから~

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

多くの子どもたちが心から「学校行きたい!」と言えるようになるには何が変わればいいのか。不登校、中学受験、性教育等々、さまざまな著書を持つ教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに聞きました。  写真:日下部真紀
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2013年より10年連続で過去最多となっている子どもの不登校。著書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)で、学校以外の学びの場を取材・紹介した教育ジャーナリスト・おおたとしまささんは、この現実をどう考えているのでしょうか。

原因はどこにある? 学校や先生はどうあるべき? 私たち大人がやるべきこととは?

4回目/全4回(#1#2#3を読む)※公開日までリンク無効

おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年、東京都出身。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社後、雑誌編集に携わり2005年に独立。教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続け、著書は80冊以上。

「画一性が高すぎる」学校の構造的な問題

子どもを持つ親にとって、今や「不登校」はとても身近な問題になっています。文部科学省の調べで「小中学校の不登校児は約30万人」(令和4年度)となっていますが、保健室登校など、ここにカウントされていない“学校に行けない子”も多い。親が我が子から「クラスの○○ちゃんが教室に来ていない」という話を聞いても、もはや驚かなくなりました。

今後もよっぽどのことがない限り、不登校の子どもが減少することはないでしょう。一部の大人は「何とかして不登校児を減らさなければ」と主張するかもしれません。だけど私は、不登校の子どもが多いという事実は、いろんな受け止め方があると思うんです。

学校という集団生活に馴染めなかったり、今の教育のシステムと合わなかったりする子はいるでしょう。それは本人が悪いわけではありません。そういう子どもが「不登校」を選べる社会というのは、それはそれで豊かだと言えるんじゃないでしょうか。

学校が苦しいと感じている子どもが「苦しい。もう無理」と声をあげられるようになったことや、親や学校が頭ごなしに「そんなことは許されない」と言って押さえつけようとしなくなったのは、社会の大きな“進歩”だと思います。

いっぽうで、これだけ不登校が急激に増加している一因に、学校という場所の構造的な問題が影響している部分は間違いなくある。不登校を選んではいなくても、むしろ選んでいないからこそ、学校で苦しい思いをしている子どもがたくさんいるはずです。

学校を苦しい場所にしている最大の理由は「画一性が高すぎる」ということ。ストライクゾーンがどんどん狭くなっているから、自分が自分であろうとしたときに、折り合いがつかない子が出てきてしまう。

先生は子どもに向かって、多様性が大切ですとか個性を尊重しましょうと言っているのに、学校はまったく反対の方向に向かっています。

とにかくリスクを減らすことが、今の学校現場の最優先事項になっています。もちろん、子どもの安全を全力で守らなければいけないのは当然ですが、何か起きると即座に「やめてしまおう」という判断になる。

やめることによる子どもの不利益は無視されます。学校がいちばん気にしているのは「批判されるリスク」なんですよね。

一部の学校が、子ども同士の手紙のやり取りや、あだ名で呼び合うことを禁止したことも話題になりました。

子どもは、時に失敗しながら、人間関係の距離の取り方や相手への思いやりを学んでいく。大人の事なかれ主義でそのチャンスを奪っていいのか、それが「望ましい教育のあり方」なのか、はなはだ疑問ですね。

先生が忙しすぎることが多くの問題の原因

もちろん、学校だけを責めても始まりません。学校の事なかれ主義は、失敗を許さない社会の反映でもある。ネットやSNSで、誰もが「正義の味方」になれることも関係しているでしょうね。

まして「だから今どきの教師は」と教員に批判の矛先を向けるのは、単なる弱い者いじめです。溜飲を下げたいだけで、子どものことを考えてるわけじゃない。

学校が息苦しくて自由のない空間になってしまっている最大の原因は、教員の多忙化だと私は考えます。あまりにも忙しすぎるから、余計な面倒を背負い込まないためにリスク回避に精を出さざるを得ない。そして、ますます息苦しい状態になってしまう。

クラス内で小さないさかいがあったとき、子どもたちの底力を試してみるために、少し様子を見るという対処法もあります。子どもたちの力で解決する可能性だってある。だけど、今それをやろうとしたら、なぜすぐ手を打たないんだとクレームが入ります。

何かあるとすぐに先生が介入して、裁判官みたいな警察みたいな役割を担わなきゃいけない。そこで時間とエネルギーを使って、わかりやすくて楽しい授業をする準備の時間が取れないなんてことも起きてしまっています。先生の個性なんて発揮しようがありません。

放課後や給食の時間に先生にまとわりついて、きゃっきゃ言いながら話すことも、最近はまずできません。先生の側に余裕がないし、子どもも「先生、いつも忙しそうだから」と遠慮してしまう。

先生がどんどん遠い存在になっているのに、毎日「これをやりなさい」「あれをやりなさい」と言い続けなければいけない。理想に燃えた熱心な先生ほど、後ろめたさやもどかしさを感じてしまうでしょう。

先生っていう仕事は、本来は楽しくてやりがいに満ちているはずです。しかし、現実の先生は給食もゆっくり食べられないほど追い立てられて、しかも「何ごともありませんように」と日々おびえながら過ごしています。

子どもの不登校も増えていますが、メンタルの疾患による教育職員の病気休職も、それに負けない勢いで増えている。子どもも先生も、もう限界なんです。

若いころは学校の先生になりたかったと言うおおたさんの今の目標は駄菓子屋のおじさん。その理由は著書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)に記されている。  写真:日下部真紀

学校が教育のすべてを担わなくてもいい

今の社会は、学校に多くのことを求めすぎている。子どもにとって大事なことは、勉強から集団生活から何から、すべて学校で教えるべきだと大人が思い込んでいます。

最近は金融教育もやるべきだとか、起業家精神教育も大切だなんて言い始めた。そんなの全部やれるわけない。

アンチテーゼとしての提案ですが、子どもの教育は「モザイク模様」でやるのがいいんじゃないでしょうか。学校が教育のすべてを担わなくてもいい。ひとつの学校に毎日行かなくてもいい。「100か0か」じゃなくて、大人が手分けして子どもを育てるんです。

午前中は学校で勉強して、午後からは別のところで友だちとスポーツをしたり、日によっては何か仕事を手伝って社会を学んだりするなんてのもいいですね。学校で友だちとの関係がうまくいかなくても、午後からは別の場所で過ごせて、そっちはそっちで友だちがいると思えば気がラクです。

「もうひとつの居場所」は、地域が担うのがいいのか、公的にそういう学校を作るのか、民間でやるのかなど、いろんな方法があるでしょう。突拍子もないことを言っているようですけど、けっこう本気です。このぐらい大胆に改革しないと、いろんなところで歯車がおかしくなってしまっている今の学校に未来はありません。

学校に未来がないということは、子どもたちの未来もないし、社会の未来もないということです。不登校の子どもたちは、もしかしたら炭鉱のカナリアなのかもしれない。大切なメッセージから耳をそらさず、今こそ大人が本気を出しましょう。


取材・文/石原壮一郎

学校だけに頼らない多様な学びの形を取材した、おおたとしまささんの著書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)。不登校に迷う子どもや親の指針になる一冊だ。

※おおたとしまささんの不登校インタビューは全4回(公開日までリンク無効)
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おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか