中学受験に向かない子はいない! 「向かない親」がいるだけ おおたとしまさ氏(教育ジャーナリスト)

中学受験をする・しない どちらの場合でも親が心得ておくべきこと #2 受験に向いている子・向いていない親の特徴

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

厳しい中学受験は親の向き、不向きが大切!? 写真:アフロ
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これまで数々の学校や塾、中学受験について論じてきた教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに聞く、中学受験をすることの意味と向き合い方。1回目では、中学受験ブームの背景と、受験は親子で臨む大冒険であるとお話しいただきました。

2回目では、中学受験に向いている子と向かない親について伺います。そもそも「この質問自体がナンセンスだ!」とおおたさんは言いますが、その理由とは?

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おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験も。

テストの点数だけで判断する親は中受に向いていない

───そもそも中学受験に向いている子、向いていない子を見極める方法はあるのでしょうか。

おおたとしまささん(以下、おおたさん):それは大変ナンセンスな質問ですね(笑)。その質問の裏には、おそらく「中学受験=人よりも高い点数をとることが目的」であると勘違いしているからではないでしょうか? 点数をとるのが得意だから、という理由で、わが子の中学受験を考えるのでしたら、辞めたほうがいいでしょう。

───それは確かに私も無意識にそう思っているふしがあります……。これも中学受験にまつわる誤解でしょうか。

おおたさん:親御さんの意識の中で当たり前だと思ってしまっている物差しに、まずは気づくことが大切です。

「受験に向いている子」という言葉に込められた一般的なイメージと推測するなら、「自ら進んで勉強する子」、「ちょっと勉強しただけで成果が出やすい子」、「努力が成果に結びつきやすい子」でしょうか。

一般的にそういう子たちが中学受験に向くと思われていますが、逆にそれが得意であるがゆえに、今の受験システムに「過剰適応」してしまうという危険性もあります。

───「過剰適応」とは具体的にどんなことでしょうか?

おおたさん:「点数で人と比べることでしか自分を評価できない」、「自分より下のクラスの子を見下す」、「第一志望に受からなかったら、自分がやってきたことはすべて無駄だったと考えてしまう」などですかね。これは承認欲求の底なし沼です。成績がトップだからといって人間的に偉いわけでは当然ありません。過剰適応してしまう子は、仮にいい結果を出したとしても、プライドばかりが高く、自己肯定感が低い人間になってしまいます。

それよりも、テストで失敗した子を励まし、一緒に頑張ろうと声をかけられる子。大量の宿題をこなせず、つい解答を写してしまい、「答えをつい見てしまった。ごめんなさい。だからお母さん、解答を預かっていて」と素直に親や先生に謝れる子。こんなふうに自分の未熟さや弱さと向き合い、乗り越えられる勇気を持った子は、成績の高い低いに関係なく受験に向いていると思います。

受験に向いていない子なんていないんですよ。向いていないのは、点数や偏差値でしかわが子の努力を評価できない親のほうなんです。

志望校に落ちても何も困ることはない!

───そうはいっても、親の立場からすれば、中学受験をしてわが子の人生に最善の選択をしてあげたいと必死です。だから、そのような間違った考えに陥ってしまいます……。

おおたさん:最初はどの親もそうなんです。でも、子どもががんばる横顔を見て、なんてちっぽけな価値観で中学受験を捉えていたんだろうと思い直すことが大切です。この子はこの子なのだと。人と比べたってしょうがないと親が気づくことができるかどうかです。

そうすれば、反抗期で「クソババア!」なんて言われても、この子なりに成長してるんだと、前向きに捉えられます。そもそも、志望校に合格できなかったら人生詰んじゃうなんていう発想がおかしいでしょう。落ちたって困ることなんて何もありません。それよりも、中学受験はやり方を間違えると子どもが壊れてしまうだけでなく、夫婦関係、親子関係に亀裂が入ってしまう場合がある。そちらのほうがよっぽど注意が必要です。

1回目でもお話ししましたが、中学受験じゃなくても、スポーツでも、音楽でも、芸事でも、子どもにとっては何か徹底的に打ち込むことこそが大切なんです。成長の過程で負荷を感じながら乗り越えていく経験は、どの国、どの文化でも必ずある通過儀礼です。いいか悪いかは別にして、日本の場合は、受験がある程度その役割を果たしているんだろうなと思いますね。

───中学受験に向かない親の特徴はほかにもありますか。

おおたさん:先ほども出てきました、中学受験を「人生の選択肢を増やすための手段である」という考え方にも私はあまり賛同できません。

望みの学校に合格できたとしても、「せっかく有名中学・高校に入ったのだから、大学はせめて東大、京大、早慶くらいには進学しなければ」という呪縛に囚われてしまいます。その後の就職や仕事選びにも同じようなことが起きるでしょう。難しい大学に入ることで増えた選択肢の差分の中でしか生きる道を選べないとしたら、むしろ失うものが大きく、子どもの人生を狭めることになってしまうのです。

もうひとつ。子どもの中学受験に親御さんのほうがのめり込みすぎて、学校ブランドが自分の勲章になってしまっているというのもよくお見かけします。親がほかの学校を見下すような考え方をしていると、子どもにもそれが伝染してしまいます。また、親が自分の学校ばかり自慢していると、自分自身よりも自分が通う学校のほうが親にとって大事なのかなと不安になります。

公立・私立に関わりなく、文化的にも、学力的にも、最もわが子に適した「居場所」を見つけるプロセスが中学受験です。

学校見学に行く際にも、「目の前の子どもの目がイキイキと輝いているか」、「体が躍動しているか」、「心が安らいでいるか」など、実際に見学している子どもの様子をしっかりと見てあげてください。そして、その学校が有名であるかどうかより、「わが子に本当に合っているのか」を冷静に見極めてもらいたいと思います。

子どもはどんな学校に行っても大丈夫

―――子どもに合った学校を選ぶというのも、親にとっては難しいものですね。

おおたさん:「この子はこういう子だから」という親の思い込みや、子どもの意志を無視して親の価値観で学校を選ぶのはお勧めしません。わが子のことだって、親御さんはわかっているとは言えないでしょうし、子どもも成長しながら変わっていきますから。

最初から理想の学校像を掲げて学校を選ぶなんてことはできなくて、むしろ好みがわかってくるうものなんです。いろいろな学校を見ることで「こういう学校が好きなんだ」と、事後的に自分たちの好みがわかってくるものなんです。

そして、ご縁があるところに入学する。それがベストではない結果だったとしても、どの学校に入ったとしても良い点も悪い点もありますから。自分が選んだ環境の中で、その道を自分の正解にしていき、その学校でしかできなかったことを最大限、自分の糧にする。それこそが、正解のない時代において大切なことなのではないでしょうか。

──◆─────◆───

点数や偏差値でしか判断できない親は、中学受験に向いていないという話はとても身につまされるものでした。わが子がのびのびと学べる環境、居場所を見つけてあげることが親にとっての中学受験であるということをしっかり頭に置いておきたいと思います。

最終回となる3回目では、学校選びのポイントなどについてお話ししていただきます。

取材・文/鈴木美和

おおたとしまささんの中学受験連載は全3回。
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(※3回目は2023年2月8日公開。公開日までリンク無効)

おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験も。

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おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。