人気者【チンアナゴ】の絵本はリアルとファンタジーが調和 「すみだ水族館」の飼育員も思わず納得!

絵本『ちんあなごの しんかいツアー』発売記念。特別対談 第2回

幼児図書編集部

左から、大塚健太さん、くさかみなこさん、柿崎智広さん。すみだ水族館の水槽の前にて。
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絵本『ちんあなごの しんかいツアー』の発売を記念した特別対談、第2回のスタートです。

お話をしてくださったのはひきつづき、絵本の文章を担当した大塚健太さんと、絵を担当したくさかみなこさん、そして、すみだ水族館でチンアナゴの飼育員を務める柿崎智広さんの3人。

絵本の中では、現実ではありえないことがたくさん起こります。その中でも、水族館の飼育員さんが思わずうなってしまうような、生きものの生態にリンクした設定もちりばめられているとか……?

チンアナゴは臆病でもなんでもない

くさかみなこさん(以下、くさかさん):大塚さんと打ち合わせをしたとき、私が「これで深海に行くとかはどうかな」みたいな感じで、適当に描いた絵を持っていったんです。そしたら大塚さんも「これいいね」と言ってくださって、『ちんあなごの しんかいツアー』ができていきました。
くさかさんが描いた、イメージスケッチ。
大塚健太さん(以下、大塚さん):この絵を見て、僕もお話のイメージをふくらませました。あと第1作目に、深海という言い方はせず、あえて「深いところ」という言い方をした、深海を思わせるようなシーンがあるんです。そこに注目する子どもが多かったようで、やっぱり深海のちょっとこわいというか、暗くて不気味で、何がそこにあるのかわからないような不思議な世界っていうのが好きなのかなと思いました。だからそんなシーンをメインに、ふくらませたお話ができたらいいかなと考えたんです。

柿崎智広さん(以下、柿崎さん):「チンアナゴって移動しないよね。だから乗り物で移動する生き物として観光させてあげるとどうなるんだろう」なんて発想は僕らからは出てこないので、面白いなと思います。専門家の目線だと「そんなの行かないよ。生きるためにそこで暮らしてるんだもん」みたいな感じになっちゃいますけど、こういう題材にすると、生き物の魅力が生まれ、すごく覚えやすくていいですよね。生態があっているか間違っているかを紹介するものではないので。
巣穴から顔を出しているチンアナゴたち。群れて暮らしています。
柿崎さん:チンアナゴとニシキアナゴは互いの種を認識しているので、絵本のようには、野生で混ざって生活することはないんですね。でも、群れで集団移動していることとか、電車の中にちゃんと砂を敷いて砂に埋まって移動するとか、そういうところは生態に忠実ですよね。他の生き物が出てきたら引っ込んじゃうとかも面白い。運転手がかくれちゃって、どうすんのって(笑)。

くさかさん:いっしょに引っ込んで電車が止まっちゃうんですよね(笑)。

柿崎さん:チンアナゴは水中の世界で相手をどう見分けるのかという、認識の調査をしたレポート(2018)が発表されたんです。それによると、チンアナゴは相手方をしっかりよく見て、大きい生き物とかが来たときには潜在的に隠れる行動をするそうです。だから周囲や他の生き物をまじまじと見はするんですよね。

くさかさん:あながち、まちがいではなかったんですね!

柿崎さん:そうですね。この子たちは移動をせず食べ物を食べなきゃいけないんですが、その代わりに隠れて敵から身を守ることができる生態があって、そのために相手をよく見るんですよ。大きい生き物もちっちゃい生き物も。ちっちゃい生き物に対して「こいつ何もしてこないな」ってなったら砂から出たまま。だから臆病でもなんでもない。ただ生きるために相手を見分けて、食べ物がきたら食べましょうというだけのことです。

集団生活をしていて、群れのだれか1匹が隠れたらみんな隠れるという性質もあるので、仲間のことも見てますよね。だから観光して周囲をよく観察してまわるみたいなのは、もしかしたらある種正しいのかなと思いました。このクリオネなんかは、食べ物と認識してるかもしれないですね。実際に出会うことは絶対にないんですけど、そういういろんなことを考えられるのが絵本の良さのひとつですね。
『ちんあなごの しんかいツアー』より。クリオネが現れても、チンアナゴたちは砂に隠れません。

モデルがわかるかな? 絵本に出てくる海の生き物たち

大塚さん:絵に関してはくさかさんが担当していますが、絵本に出てくる海の生き物に、モデルは必ずいるんですよね。

くさかさん:そうですね。大塚さんにいただいた文章に名前が入っていた生き物は、もちろん調べて描くんですけど、他にもいろんな生き物をたくさん登場させています。『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』はちょっとあたたかい沖縄あたりの海かなって思いながら、そこにいそうな生き物を調べて絵にしました。

でもあくまでもフィクションの、電車があるような世界なので、厳密にすべて「この魚はこの魚」っていうふうにはあんまり描いていません。だいたい生息地のこととかは調べて、あと大きさを調べて、この子が3センチぐらいだったらこの大きさかなとか、チンアナゴが30~40センチくらいあるとしたら、チョウチンアンコウはこのぐらいかなとか思いながらは描いています。

大塚さん:厳密に描きすぎると図鑑みたいになりますもんね。さきほど柿崎さんがおっしゃったように、何があっているかあってないかを紹介するものではないっていうのは前提としてあって、かといってまったく架空の生き物を出してもそれはそれでちがうという、バランスですね。

あくまでモデルがある中で「こんな不思議な魚が海にいるんだ、もうちょっとくわしく見てみたいな」と思ってもらったり、これを機にそれこそ水族館に足を運んでみたいなとか、思ってもらえたらうれしいです。

くさかさん:はい。水族館で絵本にいる生き物を探してほしいですね。

大塚さん:厳密に言うと、この魚とこの魚が同じ画面にいるのはちょっとおかしいんじゃないか、などもあるかもしれませんが、ファンタジー、フィクションとしてたのしんでもらって……。生き物や海に興味を持ってもらうことが、絵本の役割かなと思っています。

くさかさん:そうそう、もしかしたら捕食関係があるかもしれないですしね。でも特徴のある、かわいい魚をいっぱい入れたいんです。

ちょっぴりこわい、深海の世界へ

大塚さん:見てほしい部分として、ブロブフィッシュが絵本に出てくるんですよ。日本名ではニュウドウカジカっていう。これを以前すみだ水族館さんにお見せしたら、ご指摘いただきまして……。

柿崎さん:グッズにもなっている、大人気の魚ですね。
『ちんあなごの しんかいツアー』より。ページ中央右寄り、こちらを向いている白い魚がブロブフィッシュ(ニュウドウカジカ)。
大塚さん:最初、陸にあがったときの姿で描いちゃったんですよ。あの有名なべちゃっとした姿は、水からあがったときの水圧の変化で、皮とかがはげちゃったような姿だとうかがいました。水中のときは、形を保っているんですね。

くさかさん:(深海の姿と陸にあがった姿で)種類がちがうのかと思っていました。ご指摘いただいてありがたかったです。

柿崎さん:そういうところだけ、ちょっと口を出させていただきました。ファンタジーということもあり、一部はわからないんですけど、一応登場するモデルはひとつひとつ確認しました。エソなんかも出ていますよね。
『ちんあなごの しんかいツアー』より。左下の長い体の魚がホテイエソ、その右側のさらに長い体の魚が、ホソワニトカゲギス。
くさかさん:あー! ホテイエソ。

柿崎さん:ホソワニトカゲギスも。すごく深いところにいて、光る魚なんですよね。前作でも深い海が出てきているんですけど、今回の深海ってやっぱり本当の深海。海底火山がある、水深何千メーターの世界まで行っているんですよ。「しんかい」という潜水艇に乗らないといけないような世界に行っているというのが、見てちゃんとわかりました。

大塚さん:チンアナゴは絶対に行かないですよね。

くさかさん:こんな冒険、絵本じゃないとできません。
インタビューは第3回につづきます。おたのしみに!
取材・文/伊澤瀬菜
撮影/嶋田礼奈(本社写真映像部)

絵本を読んで、もっとたくさんの生き物に出会おう!

『ちんあなごの しんかいツアー』
作:大塚健太、絵:くさかみなこ
今回ちんあなごたちが向かうのは、まっくらで不思議な深海の世界。

クリオネやマッコウクジラ、ダイオウイカなど、見たこともない生き物たちが待っていて……。

絵本「ちんあなご」シリーズ、待望の第2弾が登場です♪

チンチン、カタコト、カタコトチン♪

『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』
作:大塚健太、絵:くさかみなこ
乗客も運転手さんも、みーんなちんあなご。ちんあなごのちんちんでんしゃが、海の中をのんびり走ります。

シリーズ第1弾のこっちも見てね!

お話を聞かせてくれた人

大塚健太

埼玉県生まれ。おはなしを手がける絵本作家。主な作品に『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(絵:くさかみなこ 講談社)、『フンころがさず』(絵:高畠純 KADOKAWA)、『おにゃけ』(絵:柴田ケイコ パイ インターナショナル)、『おやつトランポリン』(絵:小池壮太 白泉社)などがある。

くさかみなこ

宮城県生まれ。上智大学英文学科卒業。WEBデザイナーとして活躍後、絵本作家デビュー。絵本作品に『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(文:大塚健太 講談社)、『ねこのおふろや』(絵:北村裕花 アリス館)、『ぺこぺこペコリン』(文:こがようこ 講談社)、『いちにちパンダ』(文:大塚健太 小学館)、『あなたがうまれたとき』(絵:横須賀香 小学館)ほか多数。
ふたりで作った作品に、『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(講談社)、『いちにちパンダ』『よるだけパンダ』『カピバラせんせいのバスえんそく』(以上小学館)、『ぴよぴよちゃん』(東京書店)、『イカはイカってる』(マイクロマガジン社)などがあります。

すみだ水族館

住所:東京都墨田区押上1丁目1番2号
   東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
電話:03‐5619‐1821(開館時間~18:00)
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