お話をしてくださったのはひきつづき、絵本の文章を担当した大塚健太さんと、絵を担当したくさかみなこさん、そして、すみだ水族館でチンアナゴの飼育員を務める柿崎智広さんの3人。
絵本の中では、現実ではありえないことがたくさん起こります。その中でも、水族館の飼育員さんが思わずうなってしまうような、生きものの生態にリンクした設定もちりばめられているとか……?
目次
チンアナゴは臆病でもなんでもない
柿崎智広さん(以下、柿崎さん):「チンアナゴって移動しないよね。だから乗り物で移動する生き物として観光させてあげるとどうなるんだろう」なんて発想は僕らからは出てこないので、面白いなと思います。専門家の目線だと「そんなの行かないよ。生きるためにそこで暮らしてるんだもん」みたいな感じになっちゃいますけど、こういう題材にすると、生き物の魅力が生まれ、すごく覚えやすくていいですよね。生態があっているか間違っているかを紹介するものではないので。
くさかさん:いっしょに引っ込んで電車が止まっちゃうんですよね(笑)。
柿崎さん:チンアナゴは水中の世界で相手をどう見分けるのかという、認識の調査をしたレポート(2018)が発表されたんです。それによると、チンアナゴは相手方をしっかりよく見て、大きい生き物とかが来たときには潜在的に隠れる行動をするそうです。だから周囲や他の生き物をまじまじと見はするんですよね。
くさかさん:あながち、まちがいではなかったんですね!
柿崎さん:そうですね。この子たちは移動をせず食べ物を食べなきゃいけないんですが、その代わりに隠れて敵から身を守ることができる生態があって、そのために相手をよく見るんですよ。大きい生き物もちっちゃい生き物も。ちっちゃい生き物に対して「こいつ何もしてこないな」ってなったら砂から出たまま。だから臆病でもなんでもない。ただ生きるために相手を見分けて、食べ物がきたら食べましょうというだけのことです。
集団生活をしていて、群れのだれか1匹が隠れたらみんな隠れるという性質もあるので、仲間のことも見てますよね。だから観光して周囲をよく観察してまわるみたいなのは、もしかしたらある種正しいのかなと思いました。このクリオネなんかは、食べ物と認識してるかもしれないですね。実際に出会うことは絶対にないんですけど、そういういろんなことを考えられるのが絵本の良さのひとつですね。
モデルがわかるかな? 絵本に出てくる海の生き物たち
くさかさん:そうですね。大塚さんにいただいた文章に名前が入っていた生き物は、もちろん調べて描くんですけど、他にもいろんな生き物をたくさん登場させています。『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』はちょっとあたたかい沖縄あたりの海かなって思いながら、そこにいそうな生き物を調べて絵にしました。
でもあくまでもフィクションの、電車があるような世界なので、厳密にすべて「この魚はこの魚」っていうふうにはあんまり描いていません。だいたい生息地のこととかは調べて、あと大きさを調べて、この子が3センチぐらいだったらこの大きさかなとか、チンアナゴが30~40センチくらいあるとしたら、チョウチンアンコウはこのぐらいかなとか思いながらは描いています。
大塚さん:厳密に描きすぎると図鑑みたいになりますもんね。さきほど柿崎さんがおっしゃったように、何があっているかあってないかを紹介するものではないっていうのは前提としてあって、かといってまったく架空の生き物を出してもそれはそれでちがうという、バランスですね。
あくまでモデルがある中で「こんな不思議な魚が海にいるんだ、もうちょっとくわしく見てみたいな」と思ってもらったり、これを機にそれこそ水族館に足を運んでみたいなとか、思ってもらえたらうれしいです。
くさかさん:はい。水族館で絵本にいる生き物を探してほしいですね。
大塚さん:厳密に言うと、この魚とこの魚が同じ画面にいるのはちょっとおかしいんじゃないか、などもあるかもしれませんが、ファンタジー、フィクションとしてたのしんでもらって……。生き物や海に興味を持ってもらうことが、絵本の役割かなと思っています。
くさかさん:そうそう、もしかしたら捕食関係があるかもしれないですしね。でも特徴のある、かわいい魚をいっぱい入れたいんです。
ちょっぴりこわい、深海の世界へ
柿崎さん:グッズにもなっている、大人気の魚ですね。
くさかさん:(深海の姿と陸にあがった姿で)種類がちがうのかと思っていました。ご指摘いただいてありがたかったです。
柿崎さん:そういうところだけ、ちょっと口を出させていただきました。ファンタジーということもあり、一部はわからないんですけど、一応登場するモデルはひとつひとつ確認しました。エソなんかも出ていますよね。
柿崎さん:ホソワニトカゲギスも。すごく深いところにいて、光る魚なんですよね。前作でも深い海が出てきているんですけど、今回の深海ってやっぱり本当の深海。海底火山がある、水深何千メーターの世界まで行っているんですよ。「しんかい」という潜水艇に乗らないといけないような世界に行っているというのが、見てちゃんとわかりました。
大塚さん:チンアナゴは絶対に行かないですよね。
くさかさん:こんな冒険、絵本じゃないとできません。
撮影/嶋田礼奈(本社写真映像部)
絵本を読んで、もっとたくさんの生き物に出会おう!
クリオネやマッコウクジラ、ダイオウイカなど、見たこともない生き物たちが待っていて……。
絵本「ちんあなご」シリーズ、待望の第2弾が登場です♪
チンチン、カタコト、カタコトチン♪
シリーズ第1弾のこっちも見てね!
お話を聞かせてくれた人
大塚健太
くさかみなこ
すみだ水族館
東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
電話:03‐5619‐1821(開館時間~18:00)