謎だらけの【チンアナゴ】が水族館の人気者に 大出世して「絵本」になった 「絵本作家」と「すみだ水族館飼育員」が語る「チンアナゴ愛」

絵本『ちんあなごの しんかいツアー』発売記念。特別対談 第1回

幼児図書編集部

白黒の水玉模様を持つのが「チンアナゴ」、オレンジ色の縞模様を持つのが「ニシキアナゴ」。絵本やこの記事ではどちらも「ちんあなご(チンアナゴ)」と呼んでいますが、実は別種なんです。
チンアナゴたちがチンチン電車に乗って海の中を旅する絵本『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』。シリーズ第2弾の『ちんあなごの しんかいツアー』の発売を記念して、特別対談をおこないました。

お話をしてくださったのは、絵本の文章を担当した大塚健太さんと、絵を担当したくさかみなこさん、そして、すみだ水族館でチンアナゴの飼育員を務める柿崎智広さんの3人。

絵本の制作秘話からチンアナゴのマニアックな生態のことまで……。チンアナゴ愛あふれるトークを、全3回の大ボリュームでお届けします。

謎だらけの「気になる存在」チンアナゴ

左奥から、くさかみなこさん、大塚健太さん、柿崎智広さん。机の上には、くさかさん手作りのチンアナゴの帽子がひょっこり。
前作『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』は、フレーベル館の月刊絵本「キンダーメルヘン」に掲載され、後に講談社から絵本として出版されました。チンアナゴの絵本を作るきっかけはなんだったのでしょうか。

大塚健太さん(以下、大塚さん):ふたりで絵本を作りたいねっていう話はずっとしていて、どんなものにしようかってなったときに……、はじめのほうからチンアナゴありきだったかな。

くさかみなこさん(以下、くさかさん):そう、チンアナゴってかわいいよねって話になって。

大塚さん:チンアナゴの絵本ってそのときはあんまりなかったので、作れたらいいなって考えたんです。ただチンアナゴを紹介するような絵本じゃつまらないので、何かを組み合わせられたらいいかなっていうところで、たしかくさかさんが「チンチン電車はどうかな」って言ったんですよね。

くさかさん:そうですね。

大塚さん:それで『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』というタイトルが先に決まって、それがきっかけで、比較的すぐに描けました。最初に描いていた構想から、最後までそんなに大きく変わることはなかったですね。チンアナゴのゆったり感とチンチン電車ののんびり感がマッチして、イメージが湧いてぱぱっと描けた感じです。
『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』より。
大塚さん:チンアナゴのことはもともと知っていて、好きは好きだったんですけど、そこまでくわしく、生態の細かいところまでは知りませんでした。水族館もよく行っていて、見た目と、砂にもぐっている面白さにひかれて……。なんだろうな、放っておけない存在というか(笑)。気になる存在みたいな感じだったので、それでやっぱ絵本が作れたら面白いなって思いました。

くさかさん:私は当時、すみだ水族館さんのわりと近くに住んでいて、行くこともありました。そのときにやっぱり一番チンアナゴが気に入って、チンアナゴを絵本にしたら面白いんじゃないかなっていうのはなんとなくありましたね。動物をテーマにした絵本も作りたかったので、何がいいかなというときに、チンアナゴがいいんじゃないかって。

で、何と組み合わせるかっていうところで、語呂合わせでチンチン電車が浮かんだんです。チンアナゴって遠くまで泳げないんじゃないかと思って、もしいろんなところに行くんだったら何か乗り物があったらいいよねみたいな雑談から、砂に埋まったまま移動できたらたのしいねとストーリーができていきました。

柿崎智広さん(以下、柿崎さん):チンアナゴは、まだわかっていないこともすごく多いんです。群れになって暮らしていて多少の移動はしますが、そこから大きな移動はもちろんしません。群れにやってくるまでに、どういう過ごし方をしているかがわからないんです。

群れは基本的に大人のチンアナゴばかりです。子どもが混ざっていることがあるという調査結果もありますが、じゃあその子どもがどうやってそこにたどり着くのかっていうのはいっさいわかっていない。

くさかさん:へー! じゃあ本当に何かで移動しているかもしれないですね。

大出世して、水族館の人気者に!

柿崎さん:僕は10年くらいずっと、すみだ水族館のチンアナゴやチンアナゴのイベントに携わってきて、その中で情報を収集するんですよ。チンアナゴという生き物の生態についてもですが、チンアナゴが人気になればなるほど、グッズや書籍の情報がたくさん入ってきました。すごい出てきた!って(笑)。

約10年ほど前になっちゃいますけど、当時別の写真絵本みたいなものも携わったことがあって、その本は挿絵はありましたが、リアルな世界でした。

くさかさん:『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』が最初に出たのは2016年(講談社での絵本刊行は2021年)ですね。

柿崎さん:僕はこの業界に入って17年ぐらいで、すみだ水族館の前に勤めていた水族館があるんですけど、そこで初めてチンアナゴっていう存在に出会ったんです。自分が飼育することで、この生き物を知ったんですよ。

当時は今ほど人気があるわけでもなく、だから僕もそれなりの熱量というか、飼う側としても不思議な存在だなぁとだけ思っていました。人を警戒する生き物だからすごく紹介しにくいな、という印象もありました。そのとき人気だった海の生き物といえば、やっぱりサメやイルカ、ヒトデやクラゲでしたね。

そしてすみだ水族館に移動して、チンアナゴを何百匹と飼う飼育員になりました。そこからチンアナゴの知名度がものすごくあがっていって、いろんなところに紹介してもらったり、いろんな人が見に来てくれたりしました。うちの水槽の形のおかげもあったと思います。近寄って見られるので表情がわかりやすいし、(チンアナゴが)たくさん入ってるもんですから、群れで暮らしているようすがよく観察できるんですよね。
すみだ水族館のチンアナゴの水槽。左右に長い形で、両面から中を見ることができます。
柿崎さん:面白いなと思うのが、水族館のグッズって「サメ」とか「クラゲ」とか、大きな総称で名前をつけられて売られていることがほとんどなのに、「チンアナゴ」だけ種名なんですよ。それぐらい種の認知が高いし、キャッチーな生きもので、子どもたちにも人気。

くさかさん:さっき館内で子どもたちが「ニシキアナゴだ!」って言ってましたよね。

柿崎さん:サメを見て「なんとかザメだ!」とかは本当に好きじゃないと言わないのに、チンアナゴはその子の名前なんですよね。こういう絵本とかのおかげでもあると思います。すごく有名になって人気が途絶えない。これはすごい生き物だなって。

くさかさん:実際のチンアナゴはとても小さいんですよね。でもあれだけたくさん群れになっているっていうのがすごくインパクトがあって、面白いですね。

柿崎さん:出世しましたね、チンアナゴは。

人を目で見て認識する、賢い生き物

チンアナゴの体の長さは30cmほど。ニシキアナゴは約40cmもあるとか。
くさかさん:これほどチンアナゴが人気になったのは、すみだ水族館さんのユニークな展示などのおかげもあるなと思います。

柿崎さん:少しブームになってるタイミングでうちもああいった展示をして、プラスアルファの役目はあったと思うんですけど、歴史の話だけで言ったらすごいですよ、この生き物。40年以上前から水族館にいるんですよ。

さかさん:そんなに昔からいるんだ! 自分が小さいころは、全然知らなかったですね。

柿崎さん:チンアナゴの仲間を最初に展示したのは、すみだ水族館ではないのですが、当初はあまりお客さんに見せられなかったらしいです。

大塚さん:警戒しちゃって、ですか?

柿崎さん:警戒もするし数も少ないし、どうやって展示しようかと昔は悩まれたみたいですね。でもそのうち僕らもだんだんチンアナゴのことを知って、この子たちはしっかり学習をしてくれるから、人が来てもそれを覚えたら引っ込まないんだとか、そういうことがわかってきたんです。そうして展示の際、生き物と人の距離を近づけることができていきました。

くさかさん:人間は安全だってわかるんですか?

柿崎さん:はい。人を認識できるくらい目がよくて、賢い。とぼけた顔をしていますけど(笑)。
インタビューは第2回につづきます。おたのしみに!
取材・文/伊澤瀬菜
撮影/嶋田礼奈(本社写真映像部)

ちんあなごたちが、今度はふかーい海の底へ!

『ちんあなごの しんかいツアー』
作:大塚健太、絵:くさかみなこ
ちょっぴりこわがりなちんあなごたちが、潜水艇「チョウチンアンコウ号」に乗って、深海ツアーへ出発します。

こわい顔の魚に、見たこともないふしぎな生き物たち……。海の底で、どんな出会いが待っているのでしょう。

さあ、あなたもちんあなごたちといっしょに、深海の旅へ出かけよう! 『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』につづく、シリーズ第2弾の絵本が発売です。

のんびり、平和なちんちんでんしゃ

『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』
作:大塚健太、絵:くさかみなこ
チンチン、カタコト、カタコトチン♪ ちんあなごたちを乗せたちんちんでんしゃが、海の中を走ります。

シリーズ第1弾のこっちも見てね!

お話を聞かせてくれた人

大塚健太

埼玉県生まれ。おはなしを手がける絵本作家。主な作品に『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(絵:くさかみなこ 講談社)、『フンころがさず』(絵:高畠純 KADOKAWA)、『おにゃけ』(絵:柴田ケイコ パイ インターナショナル)、『おやつトランポリン』(絵:小池壮太 白泉社)などがある。

くさかみなこ

宮城県生まれ。上智大学英文学科卒業。WEBデザイナーとして活躍後、絵本作家デビュー。絵本作品に『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(文:大塚健太 講談社)、『ねこのおふろや』(絵:北村裕花 アリス館)、『ぺこぺこペコリン』(文:こがようこ 講談社)、『いちにちパンダ』(文:大塚健太 小学館)、『あなたがうまれたとき』(絵:横須賀香 小学館)ほか多数。
ふたりで作った作品に、『ちんあなごの ちんちんでんしゃ』(講談社)、『いちにちパンダ』『よるだけパンダ』『カピバラせんせいのバスえんそく』(以上小学館)、『ぴよぴよちゃん』(東京書店)、『イカはイカってる』(マイクロマガジン社)などがあります。

すみだ水族館

住所:東京都墨田区押上1丁目1番2号
   東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
電話:03‐5619‐1821(開館時間~18:00)