第45回講談社絵本新人賞受賞作『どんぐりず』ができるまで⑥

【制作日記⑥】ゴールは近くて遠かった!

すべての画像を見る(全13枚)
どんぐり ころころ どんぐり ほっ! どんぐり5人組が、木から落ちて着地するまで、まるで運動会のように走ってころんで泳いで飛びはねて……。

第45回講談社絵本新人賞を受賞したのは、この賞の歴史でもまれな「幼児絵本」。

秦直也(はた なおや)さんの絵本『どんぐりず』制作日記、とうとう最終回です!
第1回を見る
第2回を見る
第3回を見る
第4回を見る
第5回を見る
2025年の3~4月は、ひたすら絵を描き続ける日々でした。

描きながらも、最後の見開きにもっと喜びを高める方法はないかなど、つぎからつぎへと考えることが出てきます。
2011年にイラストレーションを描き始めたときから使い続けている、0.5HBのシャープペンシル。
思いついたのは、どんぐりたちが無事に着地したことによって、葉っぱがふわりと浮き上がるというアイデア。

どんぐりたちが葉っぱを胴上げするようなシーンにしたら、土に辿り着いた喜びが増した気がします。
どんぐりたちが着地して、落ち葉がふわり。
同時にテキストの見直しも進めていきます。

「よりよいテキストが見つかったらのりかえていきましょう。あらゆる可能性を試したいです!」とNさん。まだまだ終わりではありません。

4月末、原画を印刷所に入稿。そのスキャンデータのハチマキ部分に着色を開始。
これまで描いてきた原画(A4コピー用紙)は、アンティーク棚にしまっています。
2025年5月初旬、デザイナーの清水艦期さんよりデザインが届きました。

可愛らしくそして繊細なオリジナルフォントで、読みきかせが楽しくなるようなレイアウトに仕上げてくれました。すごい。かわいい。楽しそう! 

13回目の打ち合わせでは、デザインについて相談。清水さんはとても細やかに対応してくれました。

完璧なデザインが上がってきたことによって、正直動揺しました。デザインの力ってすごいです!

翌日、講談社の「おはなし隊」が幼稚園を訪問し、4歳と5歳のクラスで、ダミー絵本『どんぐりず』を読み聞かせした録画映像がNさんから届きました。

冒頭の「よーいどん」で足をバタバタさせる競争が始まったり、「ずこーっ」と倒れる場面で笑いが生じたりとうれしい反応がもらえました。

幼稚園で『どんぐりず』を読み聞かせしたときの、子どもたちの反応が収録されている動画。

が、子どもたちのなかにはちらほら戸惑っているような表情も。

現場で感じたNさんの意見としては、反応は良いものの、最後のページにたどりついたときに、どうやら、おはなしが終わった気になれていないのではとのこと。

また、遠目から見た時、表紙の重なったどんぐりたちが黒い塊に見えて怖かったと!
このどんぐりたち、こわいですか?
あらためて、表紙とテキストを見直しました。少し怖く感じさせる表紙の絵をどうするか。

別案をその場で考え、カバー袖に入れていた、横並びのどんぐりたちの絵が良いのではないかと提案すると、意気投合。

じつはこの絵は、編集部の年賀状(毎年、新人賞受賞者が担当)のために考えた、ボツになったアイデアでした。

それがカバー袖になり、まさか表紙になるとは!
年賀状のためのイラストラフ。ボツになった、どんぐりたちが一列に横に並んでいる絵(左上)が、めぐりめぐって表紙に!
ちなみに、編集部の年賀状に採用されたのは、この絵です!
子どもたちのリアルな反応を見て、テキストについても、『どんぐりず』の世界の中で、あーでもないこーでもないと意見し、それだそれだと改稿を重ねます。

ふしぎなもので、しぜんと辻褄が合ってきます。

これまでの打ち合わせの中でいちばん楽しい時間だったと言っても過言ではありません。

読みきかせの録画映像を見られて、とっても良かったです。

なにより子どもたちを楽しませなければと改めて感じました。もちろんそれまでも思いはありましたが、実感が薄かったのです。

子どもたちの反応を見て少しくやしいと感じることができたのも、これからの制作にとってもいい経験となりました (その後も何度も映像をみています)。

表紙の絵を変更しようとしたところ、デザイナーの清水さんから素晴らしいデザイン案があがってきました。

表1の帯をつけたりはずしたりすると、どんぐりたちが足をぱたぱたさせます。なんてかわいいアイデア!
帯では、足をとじているどんぐりたち。帯がはずれると、足をぱかっ!
その後、数日にわたって、デザイナーの清水さん、Nさんとの怒濤のキャッチボールによって調整をくりかえしました。

デザインが完成し、最終見開きには「ゴール」というテキストも復活し、文字どおりゴール!

とはいっても終わりではなく、新たな表紙絵、帯に使うイラストなど、鉛筆画をしあげていきます。

5月下旬、「本づくりって、さまざまな分岐があり、ちいさな決定を積み重ねてできていきますが、『どんぐりず』もそうして、今の状態になっていることを感じています」とNさんからメール。

本当にそう思います。応募作よりシンプルになったことによって、物語が薄くなったということはなく、全ページに理由やこだわりみたいなものが生まれて、むしろ厚くなった気がしています。

秋につれて帰ってきたゾウムシの幼虫2ひきが、瓶の底でもぞもぞしていることに気がつきました。蛹に変化しているのでしょうか。絵本が発売するころ、外に出てくるかな。

2025年5月28日、いよいよ、カラー版全ページのデザインが完成!
テスト校、初校、再校、念校と細部まで調整を繰り返しました。
今、完成した絵本を見ると、「応募作からゴールまではとても近くてとても遠かった」という矛盾した言葉が浮かびます。

ほんの少しの匙加減で大きく変わるということを丹念に重ねてきました。

そして、不思議ですが、どこか自分の作品ではないような感覚もあります。これはいつも感じることなので、うまくいっていると確信しています。

制作中、編集者Nさんのことを「敵か!」と思うときもありました。よくよくきいてみると、「これではもったいない。より良くなるよう工夫していきましょう」ということでした。

むしろ、ともに戦ってくれる味方! どころか、ボディーガードなのでした。

いつもこちらのアイデア出しを待ってくれて、良いときはおおいに誉めてくれて、提案をいただいたことがどれだけ励みになったかわかりません。本当に心からお礼を言いたいです。

そして、つまらないアイデアのときは華麗にスルーされたことも、ある意味、がんばる力になったと言っておきます!
6回連載の制作日記、ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございました。
最後に、「どんぐりず」からもメッセージを。左のどんぐりから順番に、さあ、なんと言っているでしょう?
はた なおや

秦 直也

Naoya Hata
絵本作家

1981年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学建築学科卒業。 2024年、『どんぐりず』で、第45回講談社絵本新人賞受賞。絵本に『いっぽうそのころ』、著作に塗り絵ポストカードブック『おしごとどうぶつ編』などがある。

1981年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学建築学科卒業。 2024年、『どんぐりず』で、第45回講談社絵本新人賞受賞。絵本に『いっぽうそのころ』、著作に塗り絵ポストカードブック『おしごとどうぶつ編』などがある。